実力者たちの最後ー4
スノウの言葉にようやく男が立ち上がる。もう一人の男は片足を切断されているのでサウザンドが背負うことにした。
助かった二人は終始無言だった、わずかに震えている。主人を守れなかったこともそうだが部隊が自分たち以外全滅したこと、モンスター一匹に敵わなかったこと、背負われている男はこれからこの体でどうやって生きていかなければいけないのかという絶望もありそうだ。
二人はもう討伐隊として生きていくことができない。討伐隊以外ですぐにできる仕事というのはこのご時世では難しい。腕が折れている男はまだ他のこともできるだろうが、片足がない男は色々と苦労するだろう。
加えて討伐隊から抜けるというのは落ちこぼれで底辺の人間だと蔑まれる世の中でもある。どこに行っても元討伐隊だったなどと言ったら雇ってもらえない。
自分たちが散々見下して馬鹿にしてきたサウザンドと同じ生き方をしなければいけないこと、動物に助けられたことももしかしたら屈辱を味わっているかもしれない。
できればモンスターの詳細等を聞きたいが自分たちに教えてくれないだろうなと思った。助けてもらったからといって感謝の気持ちが生まれているとは思えない。プライドの高いものは、絶望しようが助けられようがプライドが高いままだ。
結局何も会話をしないままサウザンドたちが二人を医者に送り届けた。二人はやってほしいことも礼も何も口にしないままだ。サウザンドもそれに関しては何も思う事は無い。感謝してほしいとも思わない。
ただ一つ思ったとすれば。プライドの高い連中って面倒くさいな、それだけだ。
「さて、僕らは秘密裏に行われていた任務の内容知ってしまいましたし、国は何か釘を刺してくるでしょう。あの二人がどうやって助かったのかという説明をする時にしゃべるでしょうからね」
一旦小屋に戻ってきた二人は今後のことを話していた。動物の部隊に助けられましたなどと口にするのも嫌だろうが、討伐に関して嘘をついたり隠し事をすれば厳しく罰せられる。まして任務は遂行できていないし仲間や主人の遺体を放置してきてしまっている。同情されるどころが厳しく追及されるはずだ。
「とりあえずこっちもできる限りの先手を打っておくか。リズに報告しておくぞ」
「……。今このタイミングじゃないと聞けないと思うのでお聞きします。信用できるんですか彼女」
スノウとリズが共に過ごしている時間はそう短くは無いはずだ。もしかしたらスノウが生まれる前からあの実験に関わっているかもしれない。そんな彼女に今回のことを話して大丈夫だろうかという思いがサウザンドにはあった。スノウは気を悪くした様子もなくあっけらかんとしている。
「そんなもん、信用できないに決まってるだろ。あっちはお役所だぞ、俺たちの身の安全よりも自分の仕事と上司の言う事を優先するに決まってら。俺が言ってるのはあいつに何とかしてもらうって意味じゃなくて、こんなややこしいことになってるからてめえらでどうにかしろって意味だ」
「通じますかね、その嫌味」
「通じる。俺はそういうの隠さずに全部あいつにぶつけてきた。お役所も一枚岩じゃねえ、派閥がある。そういったものに考えを巡らせて裏からなんやかんや操るのが腹黒い奴らの考えることだろ。リズは間違いなくそういう奴だ。お前も変な探りとか入れんな、全部バレる。リズは相手を観察する能力が桁違いだ」
その言葉にサウザンドは少し驚いた。リズは初めて会った時だいぶ穏やかな雰囲気だから猫かぶってるんだろうなとは思っていたが、スノウはそれを包み隠さず教えてくれる。
少しだけ、二人の間には信頼関係があると思っていたのだ。だからリズを全面的に信用しているようなら、自分が警戒しようと思っていた。信頼はしているが、信用はしていない。あくまで二人の関係は仕事だけなのだ。
直接報告に行くかと思ったがそういった情報だけの報告は書簡でいいという。施設の職員も常に応対できるほど暇ではない。何か会話をしたい内容がない限りは送り付ける報告で充分なのだそうだ。スノウだけなら文字が書けなかったので都度施設に行く必要があっただろうが、今はサウザンドがいるので報告書を書いてもらった。
討伐隊の報告は遅れると仕事に影響が出たり被害が拡大する可能性があるので、書簡はかなり短時間で施設や討伐隊本部に送られる。