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サウザンドライフ  作者: aqri
主従
1/89

主従-1

「おい聞いたかよ、サウザンドの主。犬だってよ」

「聞いた聞いた、笑えるんだけど。ま、落ちこぼれのクズで何の役にも立たない奴にふさわしいんじゃないかな。よりにもよって獣とか、似合いすぎてお祝いでもしてやりたい気分だ」

「仲良く犬小屋で暮らせばいいのにね」

「ぷ、っふふ、ちょっとやめてよ想像しちゃったじゃん!」


 そこら中からそんな嘲笑の声が聞こえてくる。誰もがサウザンドが通りかかるとチラチラと見てクスクスと笑っている。


 サーク国には国が推奨する討伐隊の仕組みがある。モンスターが数多く跋扈するこの世、しかもサーク国は周囲が魔の森と呼ばれる土地自体に魔力を含んだ森に囲まれている。そのため常にモンスターの脅威にさらされているような状況だ。しかしそれが他国からの侵入を防ぎ戦争を防いでいるため無暗に森を焼き払うことができない。その結果モンスターを討伐する仕組みができあがったのだ。

 魔術が使える魔術師は今やエリート中のエリート、完全に親から子へ受け継ぐ力なので一般市民が何らかの力を持って討伐するにはまず二つの試験に合格しなければならない。


 一つは本人が何の属性なのかを調べ、ある一定以上のレベルになること。これは魔力と違い特技だったり生まれつき持っている血筋、人には持っていないような能力だったりと様々だ。新たな力を得るために施術も行われるようになった。リハビリと過酷な訓練というリスクが伴うがそれを乗り越えれば絶大な力を手に入れることもできる。

 金と時間がかかるその方法をやるのはトップを目指す者だけで、一般人がやるのは自分が本来持っている能力を努力で伸ばすことだ、それを伸ばせば討伐隊の最低限のルールをクリアできる。

 二つ目は自分の「主人」を定めること。リーダーという意味ではない。数が少なくなってしまった「精霊」の血を引くもの、精霊から愛されその力の一部を預けられているものがいわゆる上級国民だ。彼らは魔法とはまた違う特殊な能力を持っており、攻撃や破壊に特化した魔法と違って生命力を整える能力を持っている。怪我の回復、病気を治し、川の氾濫や山火事などの自然現象もある程度コントロールすることができる。命の気配に敏感なのでモンスターの気配を察知できる。戦うのは部下、主人は回復役だ。


 そういった存在と主従関係を結ぶことができれば晴れて討伐隊となれる。能力が強い主人はそれだけ一般市民から憧れの的だ。強い力を持つ主人には強い力の部下が集まる。結局一般市民が主人と定めることができるのは一般的な能力しかない精霊の末裔などだ。

 しかし圧倒的に精霊の末裔の数が足りず、国は結婚や出産の支援をすることでとにかく精霊の末裔の数を増やそうと今躍起になっている。しかし子供が育つのにも十年以上かかるのでそれよりももっと早く精霊の力を持ったものを「作り出す」ことに成功した。

 数々の実験や検証、時には多大な犠牲を払って精霊の能力の一部を他の生き物に移すことに成功したのだ。すべての生き物には適用されずその力を授かるために品種改良された者たちがいる。


 その代表例が動物である。いきなり人で試して数多くの人を死なせては意味がない、様々な種族の動物で実験してようやく確立できた方法で人がその施術を受けることができるようになった。

 今や人の主人が当たり前であり、動物の主人は廃れつつある。動物の主人を持つ事は一般的には恥とされた。能力が低い、落ちこぼれ、いてもいなくてもいい存在。そういう認識なのだ。

 それでも動物の主人がなくならないのは国の都合だ。つまり今後さらに人に施術するための実験が必要なのである。文字通りの実験動物として未だ一部の動物の主人が継続的に作り出されている。

 主人がいるのならそれに仕える者が必要、討伐隊には不向きだがいないよりはいたほうがいいだろうという能力の低い者が動物の主人に強制的にあてがわれることになっている。


 サウザンドは昔から個人の特殊能力というものが何もない本当に落ちこぼれだった。周囲の者はいろいろなことができるのに、サウザンドはまったく特殊な能力というものがなかった。優しい言葉をかけられたことはない、いつも嘲笑の中だ。強い者が上位という形ができあがっているこの国では能力のない者はゴミ同然なのである。

 しかしサウザンドはふてくされたり悪の道に走ったりなどせず、至極真っ当に生きている。何をやっても認められず他人からは常に見下され続けている環境だが、それでも前を向いて生きていけるのにはある一つの理由があった。

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