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抱いた違和感(side ???)

 キースが双子によりアガサとの結婚の報せを受けるより少し前。重厚で威厳有る広い部屋で、一人の男性が一枚の書類を見て思わずと言った体で声を上げた。


「へぇ、レッドフィールド領か」


 首を傾げると、輝くようなハニーブロンドが一房彼の頬にかかる。声に反応した側近の男性が、後ろからひょいっと書類を覗き込む。


「ああ、公女アガサの嫁ぎ先、決まったんですね。良かった良かった」

「良くない」


 行儀の悪い側近の額を叩いて下がらせると、男性はため息をついて執務机に肘をつく。


「ヒューストン公子には困ったものだ。婚約者以外に恋をするのは構わんが、貴族としての責務を忘れるようではな…」

「俺達って基本、政略結婚ですもんね。外で自由に恋愛を楽しむのは、結婚して子供が出来たらってのが暗黙の了解ですし。今回の公子の行動は、正直俺もどうかと思いますけど…そんな頭抱えるほどですか?」


 ハミルトン家は勿論、ヒューストン家にとっても醜聞になったが、だからといってこれだけで力を失うような家では無い。側近が言いたいのはそういう事だろう。しかし、彼が気にしているのはそれでは無い。


「まさか、レッドフィールドとは、夢にも思わなかった」

「あー…まぁ、そうですね。あそこは常に危険と隣り合わせな上、家格に差がありすぎます。それに…」


 言葉を切った側近が、ちらりと物言いたげに此方を窺う視線を受けて一つ頷く。


「ああ。私自身は彼の領地に縁が無いが、父上が晩年を過ごされた領地だからな。なんでも、先代の子爵夫妻とは学友だったらしい。夫妻に子は無く、養子を取ったとか…確か、父上が亡くなる少し前に」


 そっと手を顎に当てて考え込む。当時の記憶は朧気だが、あんな地で病気療養などしなくても、と目の前の側近に零したことは覚えていた。


 血で血を洗い続けてきたと言っても過言では無い、呪われた大地レッドフィールド。その昔、迫害を受けた突然変異体達が追いやられた先が今のレッドフィールド領である事を知っている人間が、果たしてどれ程国内に存在しているだろうか。そんな過去を持つ領地だからか、どれ程の災禍に見舞われ様と財政に余裕が無かろうと、歴代の領主達は国に補助金の申請や税の免除を願い出たことは一度も無かった。数年前に代替わりした現子爵も同様に。


「キース…キース、レッドフィールド…だったか」


 王家主催の舞踏会など、断れない時しか社交界に現れないレアキャラ。緩やかにウェーブしたレディシュに黒縁眼鏡のレンズ越しに此方を見据えたダークグリーンの瞳の青年と初めて顔を合わせた時、妙な既視感に襲われたことを思い出す。


 胸中に燻る言い表しようのない感情は、レッドフィールドの名を聞く度に沸き上がる物だ。こんな気分になるのは、幼少の時も父が亡くなった時も、自身の転換期に彼の領地が関係していたからなのだろう。でなければ、養子だという子爵の素性など気にするものか。


「養子であること以外に子爵の素性は知らないが、社交性以外は優秀な男だ。なんせ、あの年でレッドフィールド領を運営出来ているのだから」

「それもそうですね。俺が24歳だった頃なんて、父上の補佐としてしごかれていましたし」

「………ふっ」

「あー!今笑ったでしょ!自分だってヘマしないように必死こいてたくせに!」

「すまんすまん。あの頃はお互い若かったな。宰相殿?」


 幼馴染みであり仕事では自身の右腕的存在の側近へ、緩む口元を抑えずにからかう。今、この場にいるのが自分達だけだからこそ交わせる軽口だ。それを分かっているから、彼は目の前の威厳たっぷりな壮年の男性に対して、何処か甘くなってしまう。自覚があるだけに、あまり人のことをとやかく言えない。


 側近、否、この王国の宰相はがっくりと肩を落とし、脱力したまま片手に持ったままだった書類を差し出す。


「はぁ…もういいです。それよりも、秋の舞踏会まで後半年も無いのですから口より手を動かしてください。──陛下」

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