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最悪な贈り物

「やほやほ~遊びに来たよ~。さぁさぁ、お茶を出してくれたまえ、ノエル君や」


 人の書斎に堂々と侵入して我が家のように寛いだ挙げ句、悪びれもせずお茶を要求する図々しい客人がいたら、如何するべきなのだろう。


「…ノエル。池の水汲んでだしてやれ」

「いえ、流石にそれは…」

「お客様の要望だぞ。招いてないが」


 ため息を吐きながらソファーに座る。胸くらいの長さで切りそろえられた白髪をそのまま背中に流し摩訶不思議な虹色の双眸を持つ、魔術師然とした服装の傾国の美少女。それがこいつ。


「まぁ、丁度お前に相談したい事もあるが…一応聞くぞ、何しに来た?グレイ」


 グレイは、はっきり言って我が領きっての問題児だ。世界でも屈指の凄腕魔術師で在りながら、涼しい顔で黒を白に変える。魔術師らしく気まぐれで、頭のネジが数本外れた思考回路の餌食になった人間の数は数え切れない。しかしそんな欠点を粉砕させてなお余る美貌は、美の女神の化身とも謳われる。どれ程の美貌かというと、こいつの性格を知っていても姿を見る度一瞬呼吸を忘れるレベルだ。


「モーリスから聞いたよ。君結婚するんだろう?いや、もうしたのか。その祝いの品を持ってきたんだ」


 モーリスとは、教会に勤める若き司祭でありグレイの幼馴染みだ。『モー君』、『モーさん』と呼ばれ特に子供や老人から好かれるかなりのお人好し。俺達の婚姻届を受け取ったのも彼だ。


「絶対碌なもんじゃないな。そんな事より、領地の復興に力を注いでもらいたいんだが?お前なら、それこそ一瞬で元通りに出来るだろう?」

「嫌だね。私はね、人間達が苦労している姿を遥か高見から、聖母の如く慈しみたいんだ!」

「力説すんな。才能の無駄遣いばっかしやがって、この領の人災の原因の大半はお前だと自覚しろ」

「自覚する事と反省する事は違うと思わないかい?」

「ははは。さっすが~レッドフィールド領きってのクズ…じゃないや。人格破綻者じゃ~ん」

「ええ。常人には真似できないレベルです。全く尊敬の念がわいてこないですね」


 グレイがほんのりと頬を染めた。


「うふふ…褒めても調整に失敗した使い魔しか出ないんだぞ」

「褒めてねーよ」


 茶番を繰り広げていると、俺とグレイのお茶をテーブルに置いたノエルが尋ねる。


「キース様。グレイ嬢に相談したいこと、とは?」

「ん?ああ、そうだった。──なぁ、グレイ」

「何だい?」


 優雅にお茶を飲む姿が嫌みったらしい程様になるグレイに、(個人的に)可及的かつ速やかに片付けなくてはいけない相談を持ちかけた。


「初夜を誤魔化したいんだが、どんな手を使えば良い?」

「………」

「モーリスからは、お前が協力するなら口裏を合わせると言われている」

「ふむ」


 一つ頷いたグレイが、横に置いていた紙袋をテーブルの上に置いた。その時立った音から察するに、軽いものでは無い様だ。


「それは?」

「さっき言っただろう。君に渡そうと思って持ってきた結婚祝い。丁度良いからこれを使え」


 グレイが手をひらひら振る。サイラスが紙袋から取り出したのは、液体の入った薄紫色の小瓶。俺を含む男共が、『これはなんぞや』と首を傾げる中、愉しそうな声が恐ろしい事を告げた。


「それねぇ…有り体に言ってしまうと、媚薬」

「サディアス、燃やしといてくれ」

「はい」

「そんなぁーーー!徹夜で作った特別製なのにぃ!!!」


 ほんっと、こいつは放っておくと碌な事をしないな。サディアスが頭上に掲げた紙袋を取り返そうとジャンプしているグレイを一瞥し、俺は痛くなる頭を抑えるのだった。


「はぁ…今お前と遊んでやる気分じゃ無いんだ。真面目に答えてくれないか」

「は?私は何時だって清く正しく美しく、真面目に生きてますが?」


 不機嫌そうにドカッとソファーに座り直したグレイ。長身のサディアスから小柄なこいつがブツを取り戻すのは不可能と判断したようだ。足を組み、ついでに腕も組んだ眼前の魔術師が含みのある笑みを浮かべる。


「無かった事を有った事にしたいって事でしょう?簡単よ。公爵家側の立ち会い人に、『初夜は恙なく行われた』と思い込ませれば良いのよ。つまるところ、幻術をかけるの」

2021/02/22 誤字脱字修正

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