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歓迎されない結婚(sideアガサ) -01-

 12年前、目を覚ますとアガサ・ハミルトンになっていた。今まで其処に在りながら何故か認識していなかった記憶に気付いた時の、あの衝撃は一生忘れることは無いと思う。唐突に前世の記憶を取り戻したというのに、特に拒絶反応も無く『私』と『アガサ』は融合した。


 前世、気まぐれで購入したその本はネット小説が書籍化したもので、設定も世界観も使い古されていた。アガサ・ハミルトンは、その恋愛小説に登場する悪役だ。名門貴族ハミルトン公爵家の姫にして、小説主人公アニタ・メイナードとヒーローのエリオット・ヒューストンの恋路をあらゆる手で邪魔する悪女。…まぁ、そのヒーローってのが、アガサの婚約者様なんですけどね。心は縛れないからアニタに惚れるのはいいとして、アガサがいながら浮気するのはどうなのよ。当時高校生だった私の感想はさておき、なんやかんやで結ばれた二人。それまでの数々の嫌がらせを理由に婚約を解消されたアガサは、エリオットから最後の慈悲とでも言わんばかりに持ち込まれた縁談を受け入れるしか無く、失意のまま地方貴族に嫁入りして物語から退場した。


 最初から最後まで大変不遇だったアガサに、私が生まれ変わってしまった。これは笑えない。本来、婚約が解消されるのは醜聞だ。庶民は貴族をうらやむが、貴族令嬢の婚活は実にシビアで、大人の仲間入りして社交界に出ても、大体3年以内に伴侶を見つけないと行き遅れのレッテルを貼られる。最悪後添えか修道院行きなんだから。


『一度婚約が無くなった令嬢を、正妻にしたがる貴族がいるかしら…』


 当時5歳の私でも分かった。いるにはいるだろうけど、選り好みは出来ないだろう、と。しかし、もうエリオットとの婚約は結ばれてしまっている。


『小説のヒロインと結ばれるヒーローなだけあって、将来性ありそうなお顔立ちだったけど…未来を知っているから、浮かれた気分にもなれないわ…』


 私だって好き好んで醜聞の的になりたくない。記憶を思いだした以上彼と仲良く出来るように努力しなくては…。私はベッドから上半身を起こしたままの状態で、ぐっと両手を握り締めた。


『うん、頑張ろう!』




「と、決意し早12年。私の努力、無駄だったわ…はぁ…」


 ガタゴトと公爵家の馬車に揺られながら、重いため息を吐く。私の涙ぐましい努力も虚しく、物語通り二人は出会い、惹かれあって、無事?婚約した。私という邪魔者を、王都から追いやって。


「まぁ、それが本来の筋書きだし。仕方ないか…うん、仕方ない……」


 そう、仕方が無いんだ。どれ程の時間と努力を重ねようと、決められた物語には勝てない。ゆっくりと頭が下がって、自分の膝が視界に入る。アガサの声が耳元で囁きかけてきた。


 ──本当にそう思っているの、アガサ?


「~~~っ何が、『二人は末永く幸せに暮らしました』、よ…っ!」


 止める間もなく視界が滲み、大粒の涙がボロボロこぼれ落ちた。鼻を啜りながら嗚咽を漏らす。


「その幸せのっ踏み台にされたアガサは、私はっ…あんな風に……っ誰かと、笑い合って生きる資格さえ、悪役には無いって言うの…?巫山戯ないで…!──巫山戯ないでよ……っ!」


 確かに、『アガサ・ハミルトン』が迎える未来を変えたくて努力した。けれどそれは、同時に貴方の事を思っての事でもあったんだよ、エリオット…。けれどそんな思いも、この慟哭も今の幸せに酔っている彼には届かないだろう。それがどれ程、私を苦しめているのか知りもせずに。


 こうして私は、小説の通り失意のまま地方貴族へ嫁に出されたのでした。

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