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まさに青天の霹靂

「──は?今、何て?」


 殺しに来てるんじゃないかと錯覚するような書類の山を漸く片付け、一息ついていた所にもたらされた報せに、俺は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。危ない危ない。これは、俺の誕生日に隣の家のS級冒険者ウィリアム君(15歳)が贈ってくれた、超高級茶葉で淹れたお茶なのに。


「ですから、貴方の結婚が決まったそうですよ。キース様」

「…誰と」

「えっとねぇ~確かぁ…ハミルトン公爵家んとこのご令嬢~」

「うちは貧乏子爵家だぞ。まかり間違っても、公爵家から嫁が来るわけ無いだろ」

「え~?でもぉ、手紙にそう書いてあったよ?」

「はい。私もしっかり確認致しました。この貧乏子爵家に公爵家のご令嬢が嫁入りされます」

「……まじかよ……」


 俺は目の前に立つ正反対の表情の双子の従者、サイラス・ギムソン(緩い方)とサディアス・ギムソン(真面目な方)を胡乱な目で見上げた。


「面倒事の匂いしかしないじゃないか。ただでさえ、うちの領は面倒な事しか起こらないのに」

「仕方がありません。血の領地(レッドフィールド)ですから」

「あっはは~。建国以来続く由緒正しい家柄のお嬢様が、こんな王国の端の領地にねぇ…実質王都追放みたいなもんじゃん。何やらかしたんだと思う?」

「知るか。はぁ…決まっちまったもんは仕方が無い。諸々の準備は任せた」

「はい」

「はいは~い」


 双子が退室した自室で、俺は紅茶を飲み干してから椅子の背もたれに寄りかかる。自然と重いため息が零れた。


 王都生まれ王都育ちの生粋のお嬢様が、こんな特産品も無いド田舎の領地に、ねぇ。俺は学生時代の女子生徒達を思い返す。


「…………うん、絶対無理。あんなプライド高くて金のかかる女、うちじゃ絶対無理だ。やっていけない。どうせ一日で『こんな土臭い辺鄙な場所で生活出来るわけ無い』とか泣きわめいて帰る未来が見える。……いや、まてよ」


 良い案なのでは?毎年税金を納める事さえやっとな我が領地に、『流行の最先端』なんてものは存在しない。いくら俺が貴族で領主であろうと、基本自分のみの周りは自分でやらなくてはいけないのだ。人を雇うにも金がかかるから…うん。生まれたときから身の回りの世話は全部使用人任せなお嬢様が、そんな境遇に耐えられるはずがない。この領主の館だって、お世辞にも綺麗とは言えないのだ。


 耐えられない。否、きっと耐える気なんか無い。


「ふっふっふ…いいぜ、来てみろよハミルトンのお嬢さん。ちゃんともてなしてやるさ…貧乏子爵家なりにな…」


 此方から断ることは出来ない。なら、彼方から出ていってもらえば良いのだ。





「ねぇ~」

「何ですか、兄さん」


 敷地内にある訓練場で鍛錬していた双子。早々に飽きて剣を放り出しているサイラスと、熱心に弓の鍛錬に精を出すサディアス。声をかけられたサディアスが、いったん手を止めて兄を見やる。


「どう思う?」

「…ゴミ箱扱いされて腹立たしいですよ。この領地も、我らが主のことも」

「だよねぇ?」


 双子は、キースの幼馴染みだ。彼のことも、彼が抱える事情もよく知っているが故に、今回の強引な婚姻には不満を抱いている。


「近隣諸国との関係も良好。交易に使える特産品など無い、領民ほぼ総出で出稼ぎして保っている様な領地と、王都の貴族家が縁続きになりたいと考えるわけがありません。キース様の『事情』を知って、と言うのであれば可能性はありますが…」

「あれが外に漏れる事は無いだろうねぇ」

「ええ。ですから、ゴミ箱、と表現しました」


 ごろん、と行儀悪く床に寝そべるサイラス。


「他の使用人も言ってたよ。『ハミルトンなんて大貴族のご令嬢、うちじゃやっていけない』って」

「ですが、だからといって公爵家からの縁談を貧乏子爵家が断れませんよ」


 サディアスの言葉に、二人の間に暫し沈黙が降りる。お揃いの青い瞳が交錯した。


「…守んなきゃね」

「勿論です」


 領地も、大事な幼馴染みも。


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