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悪役令嬢は逃げ出した!しかし『ざまぁ』からは逃れられない!?  作者: 蒼黒せい


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6話

「おはよう、お嬢様。朝食はどうだった?」

「美味しかったわ。お昼も楽しみにしているわね」

「うん、期待に沿えるよう頑張るね」


 リアが屋敷に来てから一週間が過ぎた。最初こそリアは台所の使い方などをサーリアから引継ぎを受けていたけれど、それが済んだあとは比較的自由なのか、ちょくちょく屋敷内を散策している。

 さっきの会話も、廊下ですれ違ったときの会話なんだけれど、なんかおかしくない?ちょっと気安すぎませんかね?いやこれがロベルトとか他の使用人と会話する際は丁寧なんだけど、私と話すときだけすごいラフなんだけどこれってどうなの?えっ、私雇い主…というか主人みたいなものじゃない?なのになんで同じ目線?いやもう最初が最初だから今更丁寧にされてもむしろ困るというか困惑するというか、どこかむずがゆいようなそんな感じになるからいいんだけど。でもなんか納得はいかない。

 ちなみにリアは私のことを『お嬢様』と呼ぶ。正直これもむず痒い。変えさせた方がいいかしら?なんだかリアに限って名前で呼ばれないことに他人行儀の距離を感じる。言葉遣いはずっと気やすいのに、呼び方だけ遠い。そんな感じ?

 それに、結局リアがシェフになる前に私に会いにきたこと、その目的は聞けずじまいでいる。今のところ食事に毒を盛られてる様子もないし、私はすこぶる健康。二の腕の筋肉痛がひどいのは許容範囲。リアが私に仇名す存在ではないと思っていいんだけれど、なんだけど聞けない。リア自身もそのことに触れる気は無いのか、彼はあくまでも私とはシェフとしてきた一週間前が初体面という風に装っている。…多分。いやだったら言葉遣い改めなさいよって。私にはラフ、使用人には丁寧って普通逆でしょ?ロベルトたちだってそのちぐはぐさに、実は私とリアが何らかの関係だったんじゃないかって怪しんでるのよ?それが分からないような鈍感な人間とも思えない。あえて言えば、そんな状況を楽しんでるんじゃないかとも思えてくる。

 …やっぱり、一度思い切って質したほうがいいのかもしれない。このスクワットが『1回』を数え…た……ら!


(きた!膝角度90度!ここ、ここからよ!ここから上にぃぃぃぃぃ!!)


「ふん……んんんんんんんん!!!」


 でももう既に太ももは限界でプルプル…いえ、ブルブル震えてる。ここからまっすぐ立ち上がれる姿が見えない。でももうすでにスクワットを開始して一か月が経とうとしている。なのに、まだ1回もできないのは私のプライドが許さなかった。

 歯を食いしばり、腰に当てた手にも力を込める。太ももは既に限界。今にも後ろに倒れてしまいそうな、限界ギリギリで踏ん張ってるだけ。


(でも……それでも!)


 けど身体は正直で、もうこれ以上は無理だと訴えている。もう力を抜いていい。また明日から頑張ろうって、大腿四頭筋は言ってる。少し!少しでもいいから膝が上がればその勢いで達成できるはず!その少しをなんとか……!そう懸命に堪える私に、思いがけない言葉が届いた。


「頑張れアリス!」

「っ!んんんん~~~~~!!!」


 声援に力を得た私は、ほんのわずかだけお尻を持ち上げることができた。その一瞬を逃さない!持ち上げられた勢いをわずかも殺すことなく、むしろ勢いを加速させて膝をまっすぐに戻すことができた。やっと……やっと………1回…出来た!


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」


 しびれるような疲労感を太ももに感じつつ、荒い呼吸はそのまま、私は掛けられた声援の主へと目を向けた。

 そこには、私の1回を祝福するかのように拍手を鳴らすリアの姿が。


「よく頑張ったね、アリ…お嬢様」


 わざわざ言い直したことに一体何の意味があるんだと問いただしたいけどそんな余裕はない。全然。でも、声援をくれたことと、祝福をしてくれたことは純粋にうれしかった。いや、でもそんなことよりも真っ先に言いたいことがある。


(乙女の部屋のドアを勝手に開けるんじゃない!!)



「たまたま君の部屋の前を通りかかったら、餌を前にお預けを喰らう猛獣のようなうなり声が聞こえてきたから何事かと思ってね?君の部屋だってことは分かってたけど、もしかしたら君に何かあったんじゃないかと思って声を掛けたんだけど全然返事がないから仕方なく…ね?」


 そんなことを悪びれる様子もなくのたまうリア。いやリアは乙女ですから?乙女に乙女のあれこれを見られたところで痛くもかゆくもありませんから。乙女として到底殿方に見せることは憚られるような、筋トレで鬼気迫るような表情をしていたとしても、同じ乙女なら全く問題ありませんし?そう、私が怒っているのは、勝手にドアを開けられた上、そのドアを私が言うまで開けっ放しにされたことに、だ。リアが乙女だということを忘れ、殿方にあんな姿を見られたことを恥ずかしがって逆切れしたとかそんなことではない、決して、断じて。そう、あり得ない。


「でも、いいのかい?君、病人なんじゃ?」

「いいんですわ。医者からは適度な運動も必要と言われているわ」

「適度…って顔じゃない気がするなぁ」


(顔で判断するな!)


 ニヤニヤしているリアに向かって心の中で突っ込む。

 私だって、本当なら適度な運動で済ませたいわよ。でも、普通の人の適度が私には全然適度じゃない。過度を通り越して激度?って感じ。

 そして今はスクワットの疲労から回復すべく、椅子に座…ることもできず、そのまま床に座り込んでのんびりハーブ水を楽しんでいる。……ちなみにリア製である。ただハーブ水のレシピはサーリアに倣ったものらしく、味は近い。そしてリアはちゃっかり椅子に座ってハーブ水を飲んでいる。…もうツッコミどころが分からないので放棄します。堂々とし過ぎて突っ込む方がおかしいのかと思えてくる。


「じゃあ今日のお昼はその疲労から回復するようなメニューが良さそうだね。ご希望はあるかい?」


 そしてリアはときたまこんな風に私の状態に応じてメニューを考えてくれる。病人食にも明るいシェフという条件で募集しただけあって、ただ料理が上手なだけじゃなくその食材の健康効果も把握している。その上でそれら食材を抜群の料理スキルで仕上げてくれるから、その腕前は確か。リアが来てからそれまでシェフ代行だったサーリアの負担は減ったし、私同様使用人の賄も彼が作っている。使用人たちからも評判は上々だ。


「特にないけど…魚が食べたいわ」

「りょーかい」


 それだけ言うとリアはサッと席を立ち、部屋を出ていった。えっ、料理の希望を聞きに来ただけ?というか退出の挨拶も勝手に出ていく?もはやリアの傍若無人ぶりは私を遥かに凌駕していた。いや別に部屋にいてほしい訳でもないし?いくらリアが作ったものだとしても、私のために用意されたハーブ水勝手に飲むのもどうかと思うのよ?ついでに言えばカップも私のよ?あ、カップ無い。持ってかれてる。なんというか、色々置いてけぼりな感じに私は驚きでそのまましばらくいるしかなかった。


 お昼は絶妙な焼き加減の焼き魚だった。塩だけの味付けで、香ばしさと魚本来の味がこれでもかと感じられる、シンプルなのに最高の一品だった。



 午後。今日も私は勉強タイムということで本を片手に優雅に椅子に座り、ページをめくる。


「…………」

「…………」


 ぺらりと紙をめくる音が部屋に響く。静かな部屋で、ページをめくる私。……となぜか当たり前のようにいるリア。リアは何をするでもなく、ただ椅子に座りこちらをじっと見ている。はっきり言って非常に居心地悪い。というか当たり前のように人の部屋にいないでほしいんですけど?一応これでも婚約中の令嬢ですので。その部屋に心は乙女でも、身体はその……男のリアがいるのは非常に都合が悪い。いや僻地のこんな状況、誰も知らないし。屋敷の使用人はリアの謎オーラに圧倒されてこんなこと屋敷の外の人間になんて言えないし。言ったら私の立場も怪しくなるし、いやもともと怪しくなるというか断罪される要素増やすだけで結果は変わらないかもしれないけど、あんまり要素増やしすぎて処刑コース行っちゃうのは勘弁ね。

 そういうわけで、リアが私の部屋にいるという状況を咎める者は誰もいない。もちろん私は真っ先に咎めた。私室に勝手に入ってくるなと。そう言ったらリアは、「これでいい?」と開け放った扉をその場で叩いた。


「扉を開けてからノックだなんて斬新ね。そんな貴族のマナー、初めて知ったわ」


 と厭味ったらしく言ったのに、イケメンオーラ全開の笑顔で誤魔化された。いや当人はごまかしたつもりかもしれないけど、誤魔化されてませんわよ?ギロリと不愉快全開の眼差しをプレゼントしたら、完全スルーされました。…私の辞書に『諦める』という文字が追加された瞬間でした。



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