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悪役令嬢は逃げ出した!しかし『ざまぁ』からは逃れられない!?  作者: 蒼黒せい


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24/25

24話

「誰が来ようとも、絶対に扉を開けるんじゃないぞ?」

「はい……」


 シュバルツ王子たちが離れへと案内されていくのを見送った後、お父様からそう忠告された。自意識過剰でもなんでもなく、シュバルツ王子の狙いが私にあることくらいは分かる。

 部屋の前まで両親に付き添われ、私がしっかりと施錠したのを確認してから足音が遠ざかっていった。急いで窓やバルコニーへの扉の鍵も確認した。しっかりと施錠されている。

 私の部屋からは見えない方向に、離れがある。シュバルツ王子がいる。それを考えるだけで…背筋に悪寒が走った。

 一体何が目的なのか。一番考えたくないけどありえそうなのは……ただ単に、私とシたいだけ。シュバルツ王子が政治的な思惑で私を繋ぎとめておきたいとは思えない。既成事実を作って、婚約解消を阻止したい?その線は薄い…というかそこまで考えてないと思う。

 そんなことのためだけに、自分の今後の立場すら危うくしている。その自覚も…無いような気がする。

 本当にシュバルツ王子がどうしたいのかが分からない。シたいだけ?そんなの絶対嫌だけど。見られるだけでも嫌なのに、触れられるなんて……

 寝る準備はとうに済ませているのに、衝撃と不安と恐怖ですっかり目が冴えてしまっている。普段ならなんてことのない、私室に一人でいるというこの状況が、とてつもなく心細く思えてくる。

 ベッドに潜り込む気にもなれず、椅子に座ってぼんやり夜の闇を眺めていた。このまま朝日が昇るまでこうしているのだろうか?


 その時は長く続かなかった。だって……その闇に金色の髪を持つあの人が現れたから。


「ヒッ!?」


 最初は見間違いかと思った。恐怖のあまり幻覚を見たのかと思った。でも確かにそこに誰かが立っている。しかもその誰かは、私が今最も会いたくない人。

 その人…シュバルツ王子はバルコニーに立っていた。この部屋は2階にある。壁か何かをよじ登ってきた?いや、どうやってきたのかは問題じゃない。シュバルツ王子は部屋に入ろうと、バルコニーへとつながる扉に手を伸ばした。しかし鍵がかかっているので扉はガチャガチャと音を立てるばかり。

 入ろうとしている!?もう鍵がかかっているからといって安心できない。すぐさま立ち上がり、部屋から出ようとしたところで、ガラスの割れる音が響いた。


「きゃあ!!」


 床にガラスの散らばる音が響く。咄嗟に頭を抱えて座り込んでしまった。しかしすぐさま散らばったガラスを踏みしめる音が届き、そこに侵入者がいることが分かった。


「ようやく…二人きりになれたな、アリス」


 そこに立つ人、シュバルツ王子は頭を抱えて座り込んだ私を見下ろしている。その瞳に宿る色は、恐ろしいまでの劣情を孕んでいた。興奮しているのかその頬は赤い。愉悦に喜ぶ口角は不気味なほどに上がっている。

 二人きりという言葉が今ほど恐ろしく感じたことは無かった。王子が一歩また一歩と踏み出すのは、まるで死刑台を上る足音のように聞こえる。違うのは、上っているのが王子ではなく私ということ。


(に、逃げなきゃ…)


 頭でそう思っても、身体は言うことを聞かない。あの眼で見られることに恐怖を覚えてしまった私の身体は、全く身動きがとれなかった。


「美しい…本当に美しいな、アリス。以前のお前とは見違えるようだ。まさかただのデブスな悪役令嬢でしかないはずのお前が、こんなにも美しいとは思わなかった」


 散々な言いようである。評価されているようで貶められてる。

 …が、今聞き捨てならない単語が聞こえた気がする?その疑問視した心が、身体を硬直から解放した。


 今、『悪役令嬢』って言った?何でその単語をシュバルツ王子が知ってるの?


 ……可能性は二つ。

 一つ、リアから聞いた説。うん、ありえないね。リアとシュバルツ王子の仲は良いとは言えない。それなのに、ある意味私のトップシークレットである前世の話を不用意にシュバルツ王子に話すとは思えない。

 だとすればもう一つ。それは……シュバルツ王子も前世の記憶があるということ。それも、私と同じ世界線の記憶を。


 目の前の王子が、実は中身が同じ一般人…というのが分かっただけでもずいぶんと印象が変わるわね。状況は変わってないんだけど。

 …待てよ?ということは逆にお互いが前世持ちだと分かれば、シュバルツ王子も私に対する印象が変わるかしら?

 シュバルツ王子が前世持ちだと確定したわけじゃないけど、それを揺さぶってみればこの状況を変えることができるかもしれない。


「シュ、シュバルツ王子…」


 分かってても声が震えるところまでは抑えられない。でも、ここでなんとかしないと私が危ない。主に貞操が。


「そう言うな。気軽にシュバルツと呼べ」


 いえ、絶対にイヤです。

 とはいえ、何を言えば良いのかしら?ここでゲームのタイトルでも言えればいいのだけれど、あいにく私の前世の記憶は朧気で、そこまで思い出せない。

 前世を匂わせるような言葉を…悪役令嬢みたいな何かを……何か、何かを……


「シュバルツ王子、ハードディスクの中身は処分してきましたか?」

「っ!」


 私の言葉にシュバルツ王子が固まった。よしビンゴ!

 ギリギリで思い出したけど、確かこのゲーム、パソコンゲームなのよね。ということは、きっとシュバルツ王子の前世の人もパソコンを持っていたはず。そして、パソコンユーザーに共通するのは、他人にはハードディスクは見られたくないということ。死んだときの後悔としてハードディスクを家族に見られてしまわないかという恐怖は、共通のはず。

 そう思って聞いたのだけれど、それは的中してくれたみたい。


「あ…ああぁ………」


 …的中したけど、今度はシュバルツ王子が頭を抱えて蹲ってしまった。えっ、そこまでですか?


「俺のパソコンには○○○○○○○○○○とか、××××××××××××××××××が……あれ見られたらもう絶対に外歩けない。いや確かまだ△△△△△△△△△△△が未プレイで……ああ、□□□□の~~~~~シーンとかまだ拝んでなかったのに。そのシーンで(ピー)回は(ピー)せたのに…」

「……………」


 はい、想像以上の言葉の羅列に私ドン引きです。卑猥とかそういうレベルを通り越しました。ただ単に下劣。よくそんな言葉を平然と口にできるなと別の意味で感心するけど。もうこの王子の前世の姿がヒキコモリのオタクということがよく分かった。もう見た目とのギャップというレベルじゃない。もはや詐欺だわ。


 ドン引きする私。蹲って未だに残してきた後悔が口から漏れるシュバルツ王子。

 なにこの状況?自分で作っておいてなんだけど、さっきまでの危機的状況どこいった?


「アリス!一体どうした!?」


 すると、ドアの向こう側からお父様の大声が響いてきた。そりゃそうか、こんな夜中にガラスの割れる音が響けばみんな気付くわよね。まして、シュバルツ王子がいることに警戒していたのだから猶更。…もう部屋に入られてるけど。


「お父様、シュバルツ王子が!」

「なにっ!」


 私が叫ぶと、扉をどんどん叩く音が聞こえる。鍵を掛けてしまっているから、こじ開けようとしているみたい。でもそこは侯爵家の屋敷の扉。そう簡単にこじ開けられない。

 いや私がカギ開ければいいじゃん?そう思い、鍵へと向かおうとして…


「アリス!」


 シュバルツ王子の私を呼ぶ声に、身体がびくりと震える。見ちゃいけない、聞いちゃいけないと分かってるのに顔がそちらを向いてしまう。

 そこに……恐ろしい形相のシュバルツ王子。


「…なるほど。お前も前世の記憶があるのか。どうりでシナリオと違うことをするわけか」


 私にも前世の記憶がある。そう理解したはずのシュバルツ王子は、それでもこちらに向かってくる。

 あれ、おかしいな?私にも前世の記憶があると分かれば、その気は無くなると思ったのに。ツカツカと歩み寄るシュバルツ王子を前に、中身がアレなやつだと分かってるのに、それでも見た目から放たれるプレッシャーが恐ろしい。

 動けない身体に、徐々にシュバルツ王子が近づいてくる。


「…だけどまぁいい。中身が何でも…女でも男でもいい。関係無い。見た目が美しいならそれだけで十分だ」


 この屑野郎!中身関係ないとか言い出しましたよ!見た目さえ良いならそれでいいとか。いやだ、そんな奴に絶対触れられたくない!でも、どんなに心が拒絶しようとしても、身体は言うことを聞かない。


「中身が何であろうと…」


 動けない私にシュバルツ王子の手が伸びる。その手が、私の纏う夜着を掴み……力任せに引きちぎった。


「い…いやあぁぁぁぁ!!」


 胸元からお腹のあたりまで、薄い夜着があっという間に引きちぎられた。見られたくないと、腕で庇い蹲る。


「美しい肌だ。それに……大きさも実に俺好みだ。ああ、楽しみだ。実に楽しみだ」


 聞きたくない声が頭の上から降ってくる。


「ふふ、ちょうどいい位置だな。それ、そこで俺のを見るがいい」


 そう言うと、何やらカチャカチャという音がすぐ近くから聞こえてくる。えっ、まさかその音って……ベルト…の?

 何をしようとしているのか、それが分かった途端に血の気が引く。

 嫌だ、そんな出さないで。見たくない。逃げたいのに、破れた服がそれをさせてくれない。扉はまだこじ開けられる様子はない。


 イヤだ、嫌だ、イヤ……


(助…けて……)


「リア……」


 どうしようもない絶望で、ふと漏れたのは……愛すると決めた人の名。


「呼んだかな?」


 それは待ち望んだ人の声で。その声の直後、何かがスゴイ勢いで叩きつけられる音が部屋中に響いた。

 蹲ったままの私に、そっと誰かの上着が掛けられた。その上着は見慣れたあの人の物。


「リ…ア……」

「ごめんね、遅くなって」



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