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18話

「此度は難儀であったな、アリス嬢よ」

「は、はい……」


 場所は変わって王宮の…執務室。それも、陛下の。

 いくら王子の婚約者で将来の王妃候補だったからといって、陛下の執務室に入ったことは一度たりとてない。テーブルの前に対面に置かれたソファーに、陛下、リア、そして私が座っている。リアはちゃっかり私の隣。いやだから近いって。そして改めて目にする陛下の威圧感に、もう一度気を失いそうです、はい。


「父上、アリス嬢が怯えています。もう少し穏やかに」

「ああ、すまん。どうにも最近はあのバカ絡みでな」


 そんな率直に言っちゃっていいんですか、陛下?あのバカって絶対シュバルツ王子のことですよね?まぁそりゃそうか、あんな状況作れば…まぁ、英雄色を好むっていうし…?ともかく、リアのおかげで陛下からの威圧感は少し和らいだ。ああ、空気が美味しいわ…


「まぁよい。それでアリス嬢よ。話はあのバカとの婚約についてだな?」

「あ、はい。そうでございます」


 バカ=シュバルツ王子、はい確定でございます。

 そうですと頷けば、陛下はこちらをじっと見つめた。えっ、あの、何ですか?と思ったら、隣にいるリアへと視線を向けた。


「ジュリアン、もう一度確認するぞ。彼女で間違いないのだな?」

「ええ、間違いありません。正真正銘、本物です」


 なにそれ本物って?二人の問答の意味が分からず、首を傾げると隣のリアがクスクス笑うのが聞こえた。何笑ってるの…?


「…そうだな。この容姿では、もうシュバルツの婚約者のままにはしておけぬな」


 いやだから、なんで容姿で婚約の是非が決まるみたいなこと言うんですかね?しかも今の聞く限り、以前の私だから婚約していたみたいに聞こえるんですけど?普通それっておかしくありませんか?


「あの、陛下…」

「なんだ?」

「…その、何故私の容姿が婚約に関係が…?」


 もうここは思い切って聞くことにした。聞かない方がいい気もしたけど、なんだかモヤモヤするし、婚約解消してしまったら聞く機会なくなりそうだし、聞くなら今しかなさそうだし。


「………」


 私の質問に陛下はだんまりしてしまった。えっ、そこまで言いづらいことなの?余計に知りたくなったし、逆に聞いたこと後悔してるしで、すごい微妙な私の心。


「父上、ここははっきりと言っておいた方がいいでしょう。大丈夫ですよ、今のアリス嬢なら」

「…お前がそう言うなら」


 いやだからなんでリアが言うならで納得するのよ?というか陛下はリアと私が並んで座ってることに何も疑問を持たないの?いや、そもそもリア、あなたがどこまで何を言った?


「分かった、ならば率直に言おう。アリス嬢、そなたをシュバルツの婚約者にしたのは、そなたがブスだったからだ」

「………………」


 頭真っ白。初体験しました。えっ、ブスだったから私婚約者になれたの?


「さらに性格も悪かった。未来の王妃と決まるや否や威張り散らし、知識も教養の欠片も無い、誰が見ても王妃の器など小皿一枚も無いほどであったから、なおさら都合がよかった」


 さらにこき下ろされる私。あのこれ、前世の記憶あるから以前の私と少し見方が変わってるからいいけど、前の私こんなこと言われたらもう号泣ものよ?号泣というか豪泣?あ、だからリアが今の私ならって言ったのね、納得。……でもさすがにショックです。


「これほどの令嬢なら、あの色を秘めたシュバルツも手を出さぬだろうと思ってな」


 ショック中の私、今度は硬化です。えっ、何それ、私手を出したくないような女だから婚約者にしたってこと?色を秘めたって…どゆこと?


「シュバルツは……幼いころから誰の目から見てもわかるほどに異性を求める欲が強くてな。そのせいで年若い侍女を付けることができず、年かさの侍女か侍従を宛がうしかなかった。だが、婚約者を決めなければ、その欲を利用して自分の娘に既成事実を作らせようとする者も後を絶たない。そこで、絶対にシュバルツが手を出したがらないような令嬢を婚約者にするしかなかった。アリス嬢はまさに適任だったのだ」


 …なんか、シュバルツ王子、かなりの問題があったみたい。でもさっぱり知りませんでした。そりゃそうか。その問題性はまともな女性向けであって、デブでブスで教養の欠片も無い私は対象外だったってことねー…あはは………はぁ。


「アリス嬢を婚約者にしたことにはシュバルツはかなり文句を言ってきたがそこは黙らせた。見た目や中身がなんであろうと私が婚約者として認めた以上は、他家もおいそれと手を出しづらくなった。例え私の目を盗み、シュバルツと娘を鉢合わせさせたとしても、既に婚約者がいる以上出来る子供は不義の子となる。不義の子には王位継承権は存在せぬし、そのようなことをした娘とその家には罰則もあるからな」


 なるほどなるほど。陛下、徹底的に私をこき下ろしますね?結構メンタルタフなつもりですけど、そろそろ泣いていいですか?


「だが、そのアリス嬢が病気で療養したと聞いた途端、他家の者どもが目の色を変えた。この隙にと娘を送り込んできおった。それにシュバルツも乗っかったのがまずかった。アリス嬢で抑えこんでいたものが、不在によって解放されてしまったのだろう。あっという間に5人も孕ませおった…」


 がっくり項垂れる陛下。えっ、あの、その、それって…私が原因?病気(仮病)療養しただけでこの事態を招いたってこと?私というある意味ストッパー役がいなくなっただけでこの有様ってこと?

 陛下の言葉に徐々に青ざめる私。しかし、ポンと肩にリアの手が置かれた。


「大丈夫、アリスのせいじゃないよ。下半身の抑制が効かないケダモノな兄さまと、あっさり股を開いた慎みの欠片も無い令嬢たちの自業自得さ」


 ものすごい言い様ね……あ、リアの笑顔が黒い。そりゃそうよね、家族が…兄が考えも無しにこんな問題起こしてたらそりゃあ怒るわよね。


「…だが、今回の事態になろうともアリス嬢との婚約を解消するつもりはなかった。今この時点で非があるのは明らかにシュバルツと5人の令嬢だからな。できてしまった子は不義の子とし、正式な跡継ぎとは認めず。あくまでも王子の婚約者はアリス嬢のみ。それで通すつもりだった。が…」


 そう言って陛下はちらりと私を見た。その眼が「どうしてこうなった」と言わんばかりなんですけど。


「まさか…このような美しい容姿となって戻ってくるとは思わなかった。これでは間違いなくシュバルツはアリス嬢に手を出す。出さないわけがない。あれほど色に囚われた奴が、このような美しい令嬢を前に我慢できるはずもない。だがそれでは、当初の計画が崩れてしまう」

「…当初の、計画?」


 おや、なんだか不穏な言葉が出てきましたよ?


「はっきり申すが、アリス嬢を王妃にするつもりはなかった。見た目はともかく中身があまりにも相応しくないのでな。そこで、あの色に囚われたシュバルツを抑え込めるであろう相応しい女性が見つかるまでの殻代わりにしておくつもりだった」


 はいキマシター!王妃にするつもりは無かった発言!ですよねーそうですよねーあれで王妃になれるわけありませんよねー。いや今思えばだって全然王妃教育なんて無かったですもん。そもそも令嬢教育だって嫌だって逃げてた私に王妃教育?はい無理です。そんなことを当時の私はなんの疑問も持たずに、それなのに王妃になれると信じてた。あー…純粋でバカなんだなぁ…私。


「しかしこのままでは逆にその殻を食い破る…いや喰い尽くしかねん。ならばいっそ計画を変更し、アリス嬢を王妃にする方向に変更しようかと思ったが…」


 そこまで言った陛下が、今度はリアを見た。…何故リアを?


「ジュリアンからアリス嬢は子を成せない身体であると報告は受けている。であるならば、その方向も取れない。跡継ぎが産めない女性を王妃に据えれば、間違いなく跡継ぎを作るために側室が必要になる。そうなれば今既にシュバルツが手を付けた5人の令嬢が候補となる。……この王宮が混沌の渦になりかねん」


 陛下の言葉に私はグリンと首を横に向けてリアを見た。リアはにっこり。でも真っ黒。

 えっ、なにその子を成せない身体って?そんな話初耳なんですけど?なんで真っ黒オーラ出してるの?

 するとリアは私の耳元に口を寄せ、そっと囁いてきた。


「何も問題ないって言ったらさっき父上が言ったことになってたかもしれないでしょ?だったらそういう嘘も必要さ」


 あ、そゆこと。納得。うん、あのシュバルツ王子の相手なんて絶対無理。断固拒否。でも、子が成せないって言われれば特に跡継ぎの有無が重要な王族に嫁ぐには絶対不利。

 リアが離れ、視線を陛下に戻すと陛下とばっちり目が合った。その目は何か言いたそうにしていたけれどぐっと呑み込んでくれたみたい。


「ともかく、勝手にシュバルツが手を付けた令嬢の誰かを王妃に据えることはできんし、そんなことをすれば選ばれた令嬢に対し何が起こるかわからん。特に、子を宿していることが理由となれば、その子を亡き者にしようと他家が動くのは目に見えている。」


 …うん、まあ、そうなるわよね。子の有無が重要なら、その子を亡き者にすればいい。令嬢を亡き者にするのは難しいけど、子供…それも赤ちゃん、まして胎児ならわずかな不調からでも流産に繋げることができてしまう。ああ、王宮怖い……


「そういった訳で、アリス嬢との結婚を進めることはできんし、かといって今この時点でシュバルツをフリーにさせてもまずい。……幸い、奴は今はアリス嬢を狙っている。婚約者である立場も使い、そなたを狙いに来るだろう」


 ……その言葉にサーっと私の顔から血の気が引く。狙いに来るって……そういうことですよね?私、貞操の危機ですか?あのシュバルツ王子に?間違いなく美味しく頂かれてしまいそうなんですけど?あ、鳥肌。


「大丈夫。その間は私が守るから」


 そう言ってリアは私の手を握った。ただそれだけで鳥肌が治まっていくから不思議だ。リアが守ってくれる。そう言ってくれるならきっと安心。


「…いっそ無能であれば廃嫡も考えられたが、シュバルツは有能だからな」

「そこですね。女性が絡むとタガが外れますが、それ以外は本当に優秀ですからね、兄さまは」

「いっそお前が成るか?ジュリアン」

「お断りします。私に政務は務まりませんよ」

「…確かに政務は務まらん。だが、お前がどれだけ民に慕われているかは知っておるぞ」

「慕われているだけで王は務まりません。父上もまだまだ健在。それでしたらシュベールを候補に入れて考えてもいいのでは?」

「…そうだな。あやつもまだ勉学の身だが優秀だ。それに、お前のように身分が下の者にも丁寧に接し、その人気は高い。考えてもよかろう」


 陛下とリアの交わす、次期国王選定の話を間近で聞かされて身震いする。あの、そういった国家機密の話は余所でしてくれませんか?できれば私の居ないところで。私庶民(予定)ですから。……というかシュベールって誰?

 きょとんとする私に苦笑したリアが、また耳元でこっそり教えてくれた。


「多分君のことだから忘れてる…もしくは覚えてないのかもしれないから言っておくけど、シュベールは私の弟だよ。君の4つ下だったかな」


 それってつまり第三王子ということ?納得して驚いた。あらやだ、私ってばリアのことも知らなかったけど、そのシュベール…王子も知らなかったのね。

 しかし今回のひそひそ話は陛下の耳に届いたようで、今度は呆れを隠さない眼差しを私に向けている。


「…やはり、王妃に据えるという考えは根底から無くした方が良さそうだな」

「ええ。間違いありません」


 私もそう思います。



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