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猫の本音

作者: 丸子稔

  俺の名前はニャン吉。むろん人間が付けたものだ。


 俺はこの名前を気に入ってはいない。


 周りにはレオとかビッシュとか、今時のカッコいい名前の猫がわんさかいるというのに、なんで俺だけこんな昭和のにおいがプンプンするような名前なのか。


 

 俺は物心がついた頃にはもう、現在住処にしているこの〈猫なで声〉という名の猫カフェにいた。


 幼い頃は客が少なかったこともあり、一日中ほとんど寝て過ごしていたが、何年か前からの猫ブームのせいで、客がわんさかと押し寄せるようになり、それ以来、開店から閉店までほぼ休みなく、人間どもの相手をしなければいけなくなった。


 それでも、客が若い女の時はまだいいが、これがおっさんやおばさんが相手だと、こっちはまるでやる気がでない。


 猫じゃらし等のおもちゃを持ちながら、嬉しそうに近づいてくるおっさんやおばさんに、俺も飛びついたりして興味のあるふりはするが、心の中では(何が面白いんだ、こんなもの)と思っていた。




 そんなある日、〈猫なで声〉に一人の中年男がやってきた。


 見るからに不潔そうな格好をしたそのおっさんは、あろうことか、俺の気に入っているメス猫のミーコを抱き抱え、「おー! お前かわいいな。どうだ、俺と一緒に住まないか?」と、ふざけたことをぬかしやがった。


──おっさん! 汚い手で俺のミーコに触るんじゃねえ!


 俺は一目散におっさんに飛び掛かり、ミーコと引き離そうとした。


「いてっ! 何するんだ、このバカ猫が!」


 おっさんは俺を追い払おうとしたが、俺はそれを軽くかわし、その隙にミーコを逃がしてやった。


 すると今度は、おっさんが店員に何やら文句を言っていたので、俺はとっさに身を隠そうとしたが……


「こらっ、ニャン吉! お客様に何てことするの! もうお前は、今日ごはん抜きだからね!」


──あちゃー! この猫カフェで唯一の楽しみのごはんが食べれないなんて、テンション下がるわー。


 すっかりやる気をなくした俺は、その日はもう客の相手をせず、ふて寝をして過ごした。




 翌日、〈猫なで声〉に若い女がやってきた。


 その女は俺を見るなり、「きゃー! かわいい!」と黄色い歓声を発した後、「店員さん、この子、名前は何て言うんですか?」と、目を輝かせながら聞いていた。


「ニャン吉です」


「ニャン吉? へー、変わった名前ですね。じゃあ、ニャン吉君、今からお姉さんと一緒に遊ぼ」


 俺は(変わった名前で悪かったな)と思いながらも、女の相手をしてやった。


 女がお決まりの猫じゃらしを使ってきたので、俺もいつものように喜んでいるふりをして飛びついたりしたが、いかんせん昨日から何も食べていなかったため、いつもの体のキレは見せられなかった。


「あれっ? ニャン吉君、何だか元気がないわね。あっ、そうだ! いいものがあるから、ちょっと待ってて」


 女はそう言うと、かばんを開け出したので、横からのぞき込むと、なんといいものの正体は、俺の大好物のクッキーだった。


──おっ! 俺の大好きなクッキーを持ってくるとは、この女なかなかやるじゃないか。


 俺は、あまりにも腹が減っていたため、【客から飲食物をもらってはいけない】という、〈猫なで声〉のきまりを無視して、クッキーにかじりついた。


 そしたら……




『フギャー!! ぺっ、ぺっ』


 そのあまりのまずさに、俺は吐き出してしまった。


「どうしたの、ニャン吉君。そんなにまずかった?」


 女は不可解そうな表情でクッキーを一口かじった。


「あ、まずい。これ砂糖と塩を入れ間違えたんだわ」


 女はすぐにクッキーをかばんにしまい、代わりにペットボトルを取り出した。


「さあ、ニャン吉君。この水を飲んで、さっきの件は水に流してね。あっ、今、私、うまいこと言ったわね。きゃははっ!」


 女は高笑いをしながら、ペットボトルの水を皿に注ぎ出した。


 俺はそれを一気に飲み干すと、心の中で女に罵声を浴びせた。


──なにが、この水を飲んでさっきの件は水に流してねだ。そんな子供だましならぬ猫だましが俺に通用するとでも思ってるのか。猫をナメるんじゃねー!!


 


  


 

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