6.ロリなのかリロなのかよくわからんな
「うぅ…ここは…?」
「目が覚めたかい。だいぶうなされていたね」
目を開けると、こじんまりとした小屋の内装が見える。好きな雰囲気だ。
「それで、ええと…君は死んだよ」
「え?」
「えっとね。私のペットのヘルガに揉みくちゃにされて、ミンチになったのさ。早く気を失って良かったね」
「そうですか…」
「おや? 驚かないのかい?」
「もう驚き疲れて驚き損するのが嫌なので驚きません」
「ん?まぁ言っていることはよくわからないけど大丈夫なのは分かったよ。……それで死んだってことだけど、今生きている風なのは私が秘術を使ったからなんだ。どういう秘術かは説明しないけど、お前さんは人ではなくなって”彷徨える亡霊”になったってところさ。なあに、人であろうがなかろうが大して差はなく暮らせるはずだよ血は黒いけどね」
「んん、わかりました。”彷徨える亡霊”というのも適当な名付けではなくて施術していただいた秘術と関係があるんですよねきっと。深くは聞きません。生活を続けられるようにしてくれてありがとうございます」
「……ふん。勘が良いガキは嫌いだよ」
どうも憎めない軍服少女似のロリばあさん(?)は、そういってどこかへ行ってしまった。何か血の気が引いたというか、ずっと低血圧状態と言うか、そんな感覚だ。
5歳児に引っ張られることが多かった感情の起伏も今は凪いでいる。
「とはいってもめっちゃかわええよなロリばあさん。名前教えてもらえなかったし、ロリロリ言っているのがバレないようにリロさんって仮称をつけておこう、後でちゃんとした名前も聞いておこう」
「ふぅ~…」
寝かされていたベッドから起き上がって、何かしようと思う。リロさんに感謝しているのは本当だ。秘術と関係があるのだろうか。ただ近寄ったら死んだっていう理不尽な状況だったはずなんだが。
「まぁいい」
今は夕方近くだろうか。きっとロリさんはすぐ帰ってくると思うし、その時はお腹を空かせているだろう。なんだったらここの台所で料理を作ってみてもいいな。勝手に食材を使っても何だかんだで許してくれそうだし。
そうと決まれば用意だ!気張りたまえよ僕!何かスイッチの入った僕はきびきび動き出す。
まずは食材確認をする。なんかビッグな卵に、これは…油かな、それと乾燥させた肉に、赤い木の実…こっちの壺には塩もあるな。
その時ザヘルはひらめいた。卵と肉と木の実を油でいためて塩で味付けするということを――
「そんな大げさにいうことでもないな」
誰へ向けたでもない呟きを残しつつも、食材を桶の綺麗な水で洗う手は止めない。
「火がないな……試してみるか」
(闇よ、ここに火をつけよ。)
根拠はなかったけど何故かできる気がして、それしか使えなかった消滅魔法をアレンジしたら、火がついた。
「なんかスペック上がったよなきっと、ははは」
ちょっと嬉しくなって、フライパンでごちゃまぜにした食材を少し焦がしてしまうザヘルだった。
「スークランブルえっぐ~~えぐ~~♪あ~かい実はトメート~~」
貴族の赤ん坊に転生してから、本当の意味で落ち着ける日はザヘルにとってなかったのかもしれない。
「ヘッセ…とうとう来たね。こんなに長いこと待たせて、罪なやつだよ本当に」
よれたローブをはためかせながら弾むように森を進む少女の横顔には、キラリと光った一筋の雫が流れていた。