うちに来た強盗の金でピザを食う話
ガチャガチャ……ガチャガチャ……
ドアノブを回す音にふと目を覚ます。
「えー、寝てたんですけど。どなたさ……ふええええ」
ダラダラと玄関へ向かうと金属製の扉が少しーードアチェーンが伸びきる程度にーー開かれそこから男がこちらを見ている。
そしてあろう事かドアの隙間に包丁を滑り込ませ、チェーンを断ち切ろうとしているではないか。
「待って待って待って困る!」
小さい玄関に隣接した台所。
シンクの下に取り付けられた開きの扉を流れるような動作で開けると、そこから包丁を取り出しそのまま玄関の戸から覗く男の眼球目掛けて突き付ける。
「おわぁぁぁっ」
「ちょっと! チェーン切られたら困りますよ!」
「俺の目突き刺されても困るだろっ」
「ひゃあぁぁっ! 刃物振り回したら危ないです! 刺しますよ!?」
わたしが殺されるかもしれないのだ。お前も殺されることを覚悟しろ。
男の後ろにはもう一人男がいた。
二人だと!?
ずるいのではないですか??
わたしは素早くドアのチェーンを外し、手前にいた男Aを中に入れた。
男Aは勢い良く引きずり込まれ床に転げ刃物を手放した。
「えっ、えっ」
「えっ、なんですか? えっ?」
男Aが戸惑っているので、わたしも戸惑った。
男Aはより戸惑った。
引きずり込まれて戸惑う男Aの鼻先に、所持したままの包丁を突き立てた。少し血が出た。
「いってえ! お前頭いかれてんのか!」
「正当防衛です! 正当防衛です!」
そのまま起き上がらない男Aの首に足を置いた。
「踏もうか?」
「ごめんなさいっごめんなさいっ」
随分危ない奴だと思ったが、思いの外ヘボい奴で良かった。
ポケットの膨らみに気付いたわたしはそこに手を伸ばす。
「ちょっ、おまえ」
「財布だ。やった! 今日日曜でATM使えねーんだわ〜。助かる〜」
黒革のよろけた財布の中には、なんと一諭吉!! 自分の財布の中身との差にガッツポーズした。
「ピザだ。わたしはピザを食うぞ」
「や、やめろっ」
「食うぞ」
ポストを探りピ○ーラのちらしを手に取る。
「どれにしようかな〜、どれが良い?」
男Aにちらしを見せると視線を彷徨わせた。選ぶんかい。
だがしかしわたしは季節のクオーターピザしか食べんのだ。残念だったな。
「二枚で良いね。電話電話……」
ちらしに記載された電話番号をシュタタタッと入力し、通話をタップする。
店員さんとあれこれお話し、ピザの注文が完了した。サラダやチキン等のサイドメニューも抜かりない。
「お前、本当に注文……え?」
「え、ピザ嫌いだった?」
「怖……この人こわ……」
誰かに怯える男Aを横目に、わたしは黒い財布を握り締めて立ち上がる。
「ジュース買わんと! 行きましょう!」
「、はあ!?」
「いやぁ、ピザは水じゃ食べれんですよ」
ミネラルウォーターをつんつんと突く。
甘ったるい炭酸ドリンクがピザには丁度良いのだ。
わたしはぎょっとした男Aを促し、玄関の戸を開ける。
一緒にいたはずの男Bがいなくなっている。
「一人どこ行った?」
「いねぇな。どこ行ったんだ?」
「わたしが聞いてんだよな〜」
周りを見渡すが男Bは見当たらない。まさかこいつ、見捨てられたのか?
「か、可哀想に……」
「元凶はお前なんだよな〜」
わたし達はコンビニへ向かった。
「何でうちに入ろうとしてたの?」
「金目の物あったら良いなって」
「馬ッ鹿だね〜、あんなくそアパートに金持ちがいるわけ」
草が生えた。
「俺には、離婚したせいで会うことが出来ない娘がいるんだ」
「え、唐突な自分語り?」
「もう五歳になる」
「語るんだ……」
男Aは何故か生き別れた娘の話を始めた。凄くどうでも良かった。
家に帰り着く。中から香ばしい匂いが漂ってくる。
「え、ピザ!? なんでっ」
バァァン!
ーーと、漫画なら後ろに太く描かれただろう勢いで玄関の戸を開けた。
中には男Bと見知らぬ女の子がいた。
「ーーーーーーっ!」
男Aは女の子の名前を叫ぶと、部屋に走り込む。先程言っていた生き別れの娘だろうか。
「あっ!! わたしの、わたしのピザっ」
何と言う事だろう。
男Bと娘はわたしが注文したピザを食べている。この野郎! この野郎!
「貴様っ、この野郎っ! 貴様の財布を出せ馬鹿!」
「おいやめろっ、何してっ」
何故かわたしは男Bの財布も簡単にポケットから取り出す事が出来た。
「もう二枚追加だ」
ピザ屋にリダイヤルした。
わたし達は何故かその後ピザを追加で五枚も食べてしまった。
少し後悔したけど、男Aと娘さんは久しぶりの再会を幸せそうに過ごしていたので良かった。
それからわたしは110番に電話して、彼等二人は無事に警官に連れて行かれた。
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