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リュウという名の男  作者: あき
第1章 召喚
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挑発、決裂

 醜悪だ。

 呆れを通り越し、気分が悪い。


 勝手に、一方的に喚び出しておいて、その者が生きてきた世界を奪い去る暴挙を振るっておいて。

 最初から真実を隠し虚言で騙し、誠意を尽くすこともなく、あまつさえ傀儡にしようとする。


 その理由が、自分たちの私利私欲の為。

 人間の行き過ぎた欲望、醜い部分を抽出し煮詰めたような連中ではないか。

 ――ふぅ、と息を吐きだし、気分を切り替える。


「娘よ、お前に訊ねたい」


 目の前の王女に話しかける。

 王女と王の眉がピクリと動き、取り巻きの貴族らが色めき立つ。

 どうやら今度こそ我慢も限界を超えたらしく、口出しも止めないようだ。

「王女殿下に対してなんたる口の利き方か!無礼も――」


「黙れ」


 視線は王女に向けたまま、貴族の言葉を遮る。

 同時に周囲を威圧する。

 耐性のない者にとっては、一瞬で空気が氷点下の固体に変わり、身体を押し潰そうと迫ってくるように感じるだろう。

 叫んでいた貴族も、王族も、騎士たちでさえ、ピクリとも動けずにいる。


 ――時間まで凍り付いたような雰囲気の中、私は王女への問いかけを再開する。


「ある日目覚めると、お前は見知らぬ者どもに囲まれている」

「当然、お前が王女という身分であることを知っている者はいないし、そもそもお前を知る者などひとりもいない。そして、自分自身と身に着けていたもの以外、自分を表すものは一切ない」

「そんな中に、お前は突然ひとり放り込まれる」

「そして、その見知らぬ者たちは、お前に、剣を持って命を懸けて戦え、相手を殺せ、殺し合いをしろという」


「問おう。お前は、そんな者たちの言葉を素直に聞き、信じることが出来るか?」


 私の問いかけに、王女は口をつぐんだままだ。

 王女への威圧を徐々に弱めつつ、私はさらに畳みかける。

「お前が、お前たちがしているのは、そういうことだ。この行いの何処に、私がお前たちの言葉に納得し従う理由がある?」

「お前たちは、私に代償として何を差し出すのだ? まさか自分たちは命を懸ける覚悟もなく、安全な場所から、勝手に、一方的に、喚びだした赤の他人に命を懸けて戦え、とわめくだけか? 恥知らずにも程があるのではないか? それとも――」


「私の足元に跪き、泣いて懇願でもするのか?」


「黙りなさい!」

 金縛りが解けたように王女が叫んだ。


「ふ、ふふ……せっかく穏便に気分良く働かせてあげようと考えていた私たちの恩情をいきなり仇で返すとは……あなたは意外と頭が回るようですが、それ以上に愚か者のようですね」

 その顔に、勝ち誇るような笑みが浮かびあがる。

「一人目の勇者は、最初は私たちにうまく騙されてくれたのですけれど。まぁ、いざ訓練の仕上げ段階で盗賊を殺す段になると『殺せない』なんてバカなことを言い出しましたので、命令せざるを得ませんでしたけれど。とっても心苦しかったのですよ? それはもう、とっても」

「それまでは、『勇者様』として丁重に扱って差し上げていたのに、本当に残念でしたわ。ふふふ」


「あなたには、そんな必要もなかったようですね。それに先ほど、面白いことを仰られていたように思うのですけれど? ……私に、国王であるお父様に……高貴な血筋である王族に向かって、跪けと? この無礼者が!」


 王女の笑みは憤怒に変わり、勢いよく振り回した腕、指先は怒りに震えている。


 ――こうまで簡単に挑発、引っかけに見事にかかるとは。

 私は思わず口角を上げてしまいながら追い打ちをかける。


「自分で言いながら笑ったり怒ったり、せわしない娘だ」


 かっ! と王女は目を見開き、今度は全身をわなわなと震えさせる。

「ええ、ええ! よく分かりました。お前には、最初からこのやり方がふさわしかったようですね! 思い知りなさい!」

 そう言い放つと、王女は私を憎々しげに睨みつつ叫んだ。


(ひざまず)きなさい!」


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