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リュウという名の男  作者: あき
第4章 冒険者
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「冒険者たち」の、余話

「本当にいいのかな」

 (あや)が不安げに問いかけてくる。


 ————。

 あの後、結果として(あや)はAランク冒険者に認定された。

 居合わせていなかった冒険者から不満の声が出ることもあろうが、その際にはランパートとレジーナ、ガストン、3人のBランク冒険者が説得にまわってくれることになっている。

 これも、修練場で彼らが(あや)のAランクへの推薦とともに公言したことだ。

 サイスで十分な実績と名声を持つ3人が揃って推薦し約束したこと、これに居合わせた者たちの声も合わせれば、ほとんどの者はまず納得するだろうとは3人の弁である。

 もちろん(あや)自身、これから依頼を達成していくことで実績を積み、その実力を周囲に知らしめることになる。

 それでもまだ納得しないのならば、その時は修練場で模擬戦を行えばいい。

 もっとも、その場合は説得にまわった3人の面子を潰すことになるし、おまけに自身の面子をも完膚なきまでに潰すことになるのは間違いない。

 そうなればその後のサイスでの冒険者稼業に支障も出るだろうが、これは冒険者らしく自己責任だというほかなく、同情も不要だろう。


 とはいえ、(あや)本人がいきなりAランク冒険者——冒険者として実質最高峰——としてスタートすることに戸惑うのも無理はない。

 それが冒頭の言葉となって出てきた訳だ。

 私は、ゆっくりと(あや)に応える。

「確かに、本来は単なる強さだけではなく、場数を踏んで場面に合わせた最適な立ち回り方、対応の方法、それに周辺との関係性……そういったものを習得、構築しているからこその高ランク冒険者ではある。そして、それらが(あや)に不足しているのは間違いない」

「じゃあ——」

 口を開きかけた(あや)を目で制し、私は言葉を繋げる。

「とはいっても、だ。例えば、以前にも一度話したが、なんらかの依頼遂行中、あるいは賊に人質を取られたとしよう。だが、今の(あや)ならば、もうその程度はものともしないだろう。……確かあの時は、魔術を解決法としてあげたのだったか」

「うん」

「魔術とは、『魔力を現象に変換すること』であり、そこで重要になるのはなによりも想像力——というのも、前に話したな?」

「うん」

「ならば、まだ多少の慣熟訓練は必要かもしれないが、(あや)ならば今すでに知っている魔術は問題なく使えるはずだ。魔術には詠唱が必須だと考えているこの世界の者にとって、無詠唱魔術はまさに切り札となる」

「……確かに」

「それにだ、(あや)

「?」

「君はあの模擬戦で、私の剣を(かわ)し、()らしたんだぞ? 自分でいうのもなんだが、あれは身体強化を使った『人間』が得られるほぼ最速の剣に等しい。それを、動きの起こりを感じられなかったのに、その上でたった5mの距離で対応してみせたんだ」


(あや)にあまり自覚はないかもしれんが、君はすでに城を抜け出した時点からは比較にならん速さと強さを身につけているんだぞ?」


「そうなの!?」

 私の言葉に(あや)が驚く。

 そう。魔力の体内循環、制御を身につけたことでさらに魔力利用の効率が上がり、私との立ち会いを重ねたことで技術も飛躍的に向上しているのだ。

 現時点ですでに、たとえAランク冒険者であろうとも(あや)と1対1で対等に渡り合うのは困難なはずだ。

「ああ。だから、冒険者としては、すでに大体のところは『アヤという個』でなんとかしてしまえるだけの力が身につきつつある」

「う〜ん。いまいち実感がわかないんだけど」

 まぁ、そうだろう。

 立ち会う相手が私だけなのだ。

 かなり恐ろしいことになっている(あや)の力だが、彼女自身、まだそれを実感できないのは仕方のないことだ。

 (あや)という「個人」として、理不尽を跳ね除けるだけの「単純な」強さはすでに身につきつつある。

 しかし、だからこそ——

「……その上で気をつけるべきことをあげるならば、(あや)に必要なのは冒険者として以外の部分かもしれないな」

「……どういうこと?」

「間違いなく、君はこれから一気に名の知れた冒険者、存在になる。そうなると、どうしてもいろんな人間が近づいてくる。そんな時に必要なのは、近づいてくる者の目的を嗅ぎ分ける力……つまりは冒険者としての経験というよりも、この世界の社会で生きて行くための経験が必要だ」

「人生経験ってことかな?」

「ああ。そうともいえる」

「それは……難しいよ」

「確かに難しい。が、これに関しては、申し訳ないがそこそこ早熟を求めることになる」

「……」

「憧れや(うらや)みをもって近づいてくる者はいい。(あや)の力にもなってくれる。しかし、(よこしま)な気持ちや(ねた)みを持って近づいてくる者は、(あや)を利用しようと、(おとし)めようと寄ってくる」

「もちろんこの二面が全てではないが、(あや)の持つ力が大きくなればなるほど、その振れ幅も大きいと心しておかなければならない。それだけの力を、君はすでに手にしてしまっているんだ」

「……うん」

「ひとの持つ醜い部分がどういったことを引き起こすかは、(あや)自身が身に染みて知っているだろう? それを凝縮したような存在に利用されかけていたのだから」

「っ! ……そうだね」

「しばらくは私が防波堤となろう。ミリアにも遠慮なく頼っていい。アレの場合は特に、立場的に君を味方にしておく方が利が大きいからな。だから君も思いっきり利用してやればいい」

「あはは……」



 ————。

「ねぇ、リュウ。もうひとつ聞いてもいいかな?」

「ああ。何だ?」

「ミリアさんには、冒険者ギルド総帥(グランドマスター)として私の味方をしてくれることに利があるっていったよね」

「ああ」

「じゃあ——」


「リュウにとっての利は?」


「……リュウにとって、私を手助けしてくれることに何の利があるの?」

「ふむ……そうだな……」

「………………うん」

「君は、この世界に来て最初にこの世界の人間の醜い部分に晒された。だからこそ、君に、私が醜いと思うような、あのような人間になって欲しくない、というのはある」

「…………そう、なんだ」

「しかし——」

「しかし?」


「利が有るとか無いとかよりも……何よりも私がそうしたいから——だな。いってみれば私のわがままだ」


「リュウがそうしたい、から……」

(あや)には答えにはならないかも知れないが、迷惑でなければ目を瞑って欲しい」

「……ずるい」

「……すまん」

「ん〜ん。そうじゃないの。なんていうか……」

「?」

「……リュウ」

「ん? 何だ? (あや)

「っ! リュウはやっぱり——」


「ずるい!」


 ——————。

 ————。

 ——。







 ——そんな答え、ちょっと期待しちゃうに決まってるじゃない!

 ……て、え? 期待? 私って、リュウのこと……やっぱり……なのかなぁ。



前話のお尻についててもよかったくらいの短いお話でした。

とはいえ貴重なちょっとうふふ成分(笑)。

よろしくお願いいしますー。

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