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ドラムソロ  作者: Daisuke
3/3

開花

よろしくお願いします。

 「俺、吹奏楽部やります」


 そう決断するまではあまり長い時間を要さなかった。衝撃的なパフォーマンスに魅せられ、一瞬にして憧れを抱いてしまったのだ。

 「本当!?まぁ時間もあるし、ほかの楽器も体験してってよ」

 シュンヤ先輩がそう言ってほかの楽器へと誘導しようとする。


 しかし、俺の足はそんなものに興味を示さなかった。


「あの、すごかったです、お名前は」

 俺が向かったのは、紛れもない、その楽器を演奏したもののところ。その人を追いかけたいと思った。

「おっ、体験入部の子かな?俺はアキラだ、よろしくな」

「アキラさん、ですか...」


 靴を見ると、緑色のそれを履いていた。つまりこの人は三年生だ。


「ドラムに興味あるの?やってみる?」

「えっ、いいんですか?」

「おう、ものは試しって言うしな。まずはなんでもやってみろ」

「は、はい」

 アキラといった名前のその人は、俺にスティックと席を譲った。

「どうだ、なかなかいいだろう?」

 その人は、自分の体の一部を見るような目でそういった。

 黒く妖艶に輝くバスドラム。アルミ製の輝くスネアドラム。バスドラムに呼応するように黒く輝くタムたち。豪快な光を放つシンバルたち。そのどれもが、圧倒的な存在感を示していた。

「はい、とても...」

 その筐体の内側に込められたものを知りたくてしょうがない。そんな思いが先輩の説明を聞く暇もなく腕を動かす。

 周囲の音が耳に入らなくなる。目の前の箱から奏でられる音がとても心地よい。まるで俺の心臓と箱の音色が共鳴しているようだ。

 もっと、もっと、もっと知りたい。

 違う、こんな遅い速度ではこの箱は答えをくれない気がする。

 もっと、もっとはやく。

 もっと、もっとだ。

 もっと、

もっと、もっともっともっと。

 気が付くと、体は勝手にその箱に吸い込まれた。

 金属にも手が伸びる。

 すると心地の良い、爽快な音色が響き渡る。





 気づくとそこは、深い暗闇だった。



 ただ暗く、その中で自分が何かに繋がれている。


「俺をここから出してくれ!!」


 そんな叫びも届かない。






 

「ッ!!!!」

 次に気がついたときには、そこはもといた音楽室だった。しかし、そこにいるすべての生徒がこちらを見ていた。

 驚きを隠せないような顔だ。どうしたのだろう。

「ちょっとダイスケ君、もしかしてドラムやってた...?」

 シュンヤ先輩が駆け寄ってくる。あぁ、そういえば俺は、ドラムを体験しようと...

「君、窮屈そうだったよ」

 そういったのはアキラ先輩だった。

「俺、もしかしてドラム叩いて...」

「え、覚えてないの?君、ものすごい形相ですごいことしてたよ!?!?」

「は、はぁ...そ、それよりアキラ先輩、窮屈そうだったって」

 俺はその一言が気になっていた。さっきの何かに繋がれた状態と何か関係があるのだろうか。

「あぁ、君はまだ技術を知らないからね。君は俺が教える。だから明日からでもうちで練習しに来てくれよ」

「は、はい分かりました...お願いします」

 その時、音楽室から拍手が巻き起こっていた。


「これでDr.のパートは安泰だね~」

「アキラ先輩の後継者だ!」

「これはすごいことになるぞ...」


 色々なつぶやきが聞こえたが、言っている意味がよくわからなかった。

「まぁ何はともあれ、明日からよろしくな、ダイスケくん」

「あぁ、よろしくお願いします」


 これが、俺の人生の先輩との出会いだった。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

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