月と少年
「どうして月は欠けるのかな?」
私の隣で寝転んでいた少年は、夜空に手を伸ばして呟いた。
指の間から見える夜空は厚い雲に覆われて、三日月の輪郭がぼんやりと鈍く光っている。
風はなくて、何の音も聞こえない。
肌をさす草の生臭さだけが迫ってくる。
他のすべてが受身で、夜の草原は、一つの閉じた世界のようだった。
私は少年をみた。
地球と太陽との位置関係でそう見えるだけだ、口に出そうとしたが、彼が聞きたいことはそういうことではないだろう。
どうして、両親がいなくなってしまったのか。
それは混乱した私が敵と勘違いして小銃をぶっ放したからだが、それで納得する子はいない。
理由を聞きたいのではない。
どうしてそんなことになってしまったのか。感情の整理が出来なくて、疑問となって口に上ったのだ。
どうにもならない事態に、とりあえず怒ってしゃくりを上げて泣いてみたものの、やはりどうしようもないから、途方にくれているのだ。
小銃を肩から落として立ち尽くした私はどんな顔をしていたのだろうか。
両親に縋りついた少年を引き剥がして抱えて、戦場から逃げ出した私は何を失ったのだろうか。
「ねえ、どうして?」
「・・・」
「神様が削っちゃったのかな?でも、なんでそんなことしたんだろう?」
私は少年の手を握った。
「私は神様なんて信じていないよ」
「お母さんも、お父さんも、信じていたよ。ご飯の前にはお祈りだってしていたんだ」
むきになって、覆いかぶさってくるその顔から涙が落ちた。
少年を胸に抱いて、つぶやいた。
「けれど、私は状況という名の悪魔だけは信じている。そいつは、いつも私たちを嘲笑っているんだ」
むずがる少年を抱えて立ち上がった。
「どうにもならないことなんてないんだ。君は弱いけれど、それは強さでもあるんだ」
きっと、誰かが助けてくれるから。
軍服からピストルを取り出して、残弾を確認した。
しかし、悪魔はとても憎めない奴なんだよ。
こうして私に生きる理由を残しておいてくれるんだから。