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黒酢ノ短編集

【急募】神様のアルバイトができる方!

作者: 黒酢

 最近アルバイトを探している黒酢です。


 アルバイト……求人サイトを見るとたくさん載ってて、どこがいいのかなかなか決められないです(汗


 ブラックバイトは怖いですよね……。

 きっかけはとある求人サイト。


「……なんだこれ」


--------------------------------------

【急募】神様のアルバイトができる方!

(A)

 時間 :0時間程度OK!

 給与 :日給1500円~

 業務 :⑴死者の方々への応対(主に接客業務)

     ⑵その他関連雑務

 資格 :学歴不問・資格不要

     <元気に働ける方歓迎>

     <未経験者歓迎>

     <短期歓迎>

     <即日働ける方限定>

 採用数:100人

 勤務地:天界

 待遇 :交通費こちら持ち。

     食事・部屋・娯楽等一切支給。

     最低勤務日数6か月。

     ※天界基準に準じる。

 補足 :天界での記憶は最終日に消されます。

            ▼応募画面に進む▼

-------------------------------------


 ふざけた求人広告だ。


 最初はそう思った。


 だが、なぜか引き付けられるものを感じた俺は、その求人広告を食い入るように見つめた。


 俺のマウスを握った右手がゆっくりと動く。


 カーソルが▼応募画面に進む▼という文字に重なった。


 ダブルクリック。


 応募画面では何かの記入を求められることは無かった。


 そこにはただ、<応募する>の文字があるだけ。


 再びマウスを動かし、ダブルクリック。


「……なんてな」


 単なる興味本位だったのか、本気で応募しようと思ったのか、そのあたりははっきりしない。


 面接だけ受けてみよう。


 そんな考えだった気がする。


 だが応募した瞬間、画面上に表示されたのは……。


『ご応募ありがとうございます。選考の結果、

     あなたを【神様】として採用することに致しました』


 という、早すぎる採用通知だった。




 そして今に至る。


「もう死ねよ」


 服がはち切れんばかりにふとった男を前に、俺はそう毒づいた。


「いやもう死んでるんだわな、これが」


 男は「キキキ」と変な笑い声を上げ、汗の染みついた服を豪快に扇ぐ。


 何がそんなに暑いんだ……。


「何度も言っていますが、異世界転生は無理です」


「いやいやいや。無理ってことはないでしょう?」


「いえ、ですから無理なものは無理ですって」


 そう否定する俺に、男はなおも食い下がる。


 この男、転生てんせい 史怠男したいお


 美少女アニメをこよなく愛し、「働いたら負け」を標榜する日本を代表するNEETニートにしてオタク。


 そんな彼はまた、生前には異世界転生モノの小説にはまっていた。


「ぼくの異世界愛はこんなに強いのに!わからずや!」


 そう、先ほどから彼は「異世界に転生させろ」としつこいのだ。


 所謂いわゆる、悪質クレーマー。


 俺はここのところ、ずっとこの手の死者の相手をしている。


 なろう系の影響なのか知らないが、いい迷惑だ。


「いいですか?あなたなら分かるはずです。どんな人が転生できるのかを……例えば女の子を助けてトラックにかれる、例えば主人公足りえる容姿である、例えば―――」


 右手の人差し指を振りながら、例えを列挙してそうさとす。


 皆さんお気づきだろうが、俺もこの手の話題には多少詳しい。


 大学生になろうは必須なのだ。


 ……少し盛った。


 さて、話を戻そう。


 俺がそう諭すと、史怠男したいおは「ぐぬぬ」とうなり声を上げうつむいた。


 やっと分かってくれたか。


 しかし、しばらくして顔を上げた彼は満面の笑みでこう言った。


「いや、俺の死は予定にない死だった可能性も!」


「いえ、それはありません。あなたの死は予定通りです。直接の死因は後頭部損傷による出血死。そして間接的な死因は肥満……」


 手元の『死神報告書』をパラパラとめくりそう反論する。


 この『死神報告書』には死者の住所・氏名・年齢・職業・死因……などが記載されている。ちなみに彼は、「肥りすぎが原因で転倒し、後頭部を殴打、出血多量で死亡」という笑えない死に方をしている。


 異世界転移できない。その可能性に呆然と立ち尽くす彼に無慈悲な言葉を投げる。


「―――結論、あなたの異世界転生は認められません。以上」




「まじでブラック、ふざけんな」


 俺は一人そう愚痴る。


 俺……いや、我は大そう荒ぶっておる。


 なぜかって?


 ブラックバイトだからだよ。


 求人広告に書かれていた勤務時間0時間。どういう意味かと思ったら、人界時間で0時間という意味だった。


 天界で何時間過ごそうが人界では1秒も経っていないらしく、実質的な体感時間で言うと1日あたり16時間勤務。


 しかも給与欄、時給1500円じゃなくて日給だったという……時給に換算すると100円以下。労働基準もくそもない。 


 そして、1万2500人の死者を応対すること―――。


 それが俺に課せられたノルマ。


 1日16時間勤務で、ノルマ達成までに要する時間は約半年。


 その間、休日は無し。


 さすがにあんまりだと思って主任(正規職の女神様ね)に抗議したらこう言われた。


「1日16時間と言っても天界じゃ、人界と違って肉体的な疲れも食欲もないじゃない?睡眠も食事もとる必要がないんだから1日8時間休めれば十分でしょう?」


 彼女は続けた。


「それに人界の娯楽はなんでも、しかも無料で手に入るじゃない?希望すれば人界の食事も摂れるし何が不満なの?」


 はぁ?


 確かに、こちらに来てから全く肉体的には疲れない。だがずっと同じ作業を1日16時間、半年連勤で行うのは精神的に疲れる。


 それに彼女は悪質クレーマーやDQNに応対する大変さが全く分かってない。


 彼女が金髪碧眼の美女だったから堪えたものの、おっさんだったら殴り飛ばしていた自信がある。


 おっと、そうこうしている内に次の死者が来ていたようだ。


 俺は営業スマイルを張り付けて死者を迎えた。




「1万2500……」


 感慨深いものがある。


 ようやく、ようやくこの地獄から抜け出せるのだから。


 主任は「また神様が足りなくなったら手伝ってね」なんて言っていたがもう二度とするもんか。


 そう心に誓って―――。


 気が付くと、そこは自室だった。


 求人サイトを見つめるが何の変哲もない求人広告が並ぶ。


「はて……何か重要なことを忘れている気がする……」


 ま、いいか。


 忘れるぐらいの内容なんだろうし。


 後日、ふと通帳を確認すると27万円が振り込まれていた。


 はて?なんのお金だろう?仕送りかな?




 3年の時が流れ、俺は大学4年に進級した。


 今年は就活で忙しくなるだろう。


 そう思い大学のサイトにある就職案内を何気なく覗いた。


「なんだこれ?」


 new【新卒就職案内】正規神様募集のおしらせ。

    進路支援センター


 俺はカーソルを重ねた。

 最後までお読みくださりありがとうございます。今後、続編を投稿する可能性もあります。その際はぜひご一読をお願いします。


【急募】評論作業!

 時間 :数秒~数分程度

 給与 :なし

 業務 :⑴評価⑵感想⑶ブクマ

 勤務地:なろう

 資格 :学歴不問・資格不要

     <初心者歓迎><辛口コメント歓迎>

 待遇 :短期OK!

    ▼よろしければ評価・感想・ブクマをお願いします▼

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― 新着の感想 ―
[良い点] 星新一の短編を読んでる感じで良いし、スッキリ読めたブラックも、なんか冷や汗が…(^_^;)
[良い点] アイデアは面白い。神業務がブラックというのは、ブラックジョークな感じで良かった。 [気になる点] チョット後味が不足している。 物足りなさを感じた。もう少し何かネタが欲しいと感じた。
[良い点] クレーマーの対処に共感します。 特に死後だと妥協点も出せないし、切捨て覚悟で淡々と対応しないといけないと言う所にリアリティがあり、休日ですが仕事を思い出してしまいました(笑) [一言] 半…
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