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9話 ハンター登録

 翌日は充分に日が昇ったくらいから起き出して、朝食は手持ちにある食料で済ませる。

 開店準備をしていたミサリに挨拶をし、観光と言って出掛けた2人。


「う~」

「……」


「ぬぅ~」

「…………」


 無言で歩くオプス。背後の呟きはガン無視である。


「あ~つ~い~。……もう広域魔法を使って砂漠の緑化事業を行ってもいいですよね……」

「のっけから暑さにやられて危険な発言をするでない!」

「だって暑いんだもん」


 ケーナだけはしおれた野菜のような様相でオプスにくっついて行く。

 ほとんどの装備は外して、スモック風長袖シャツとロングスカートになっている。これはフェルスケイロで買ったもので、付加されている効果は何もない普通の服だ。


 元から黒っぽいオプスは暑さを特に気にした様子など微塵もない。曰わく「精神が慣れを思い出した」だそうな。


「だったら耐熱装備に戻せ。後ろで何時までもぐだぐだ言われてはかなわん」

「はぁ~い」


 一瞬で鎧とマント等の装備を纏うケーナに「人目を考えよ!」と叱るオプス。

 傍目で見るとだんだん親子化してきたようだと呆れたキーがいたりいなかったり。



 本日は市内の地理を確認しながら移動しつつ、商人組合を訪ねた。

 カードからお金を下ろすためである。


 美人な事務員の応対をのんびり待っていると、その向こう側では職員が数名どたばたと走り回っていた。


「なんかあったのかな?」

なんかはあった(・・・・・・・)じゃろうな」


 首を傾げるケーナへ小声で「トカゲじゃトカゲ」と耳打ちすれば、合点がいったと手を打ち合わす。


「へえ、あれでああなるのね」

「討ち取ったのはお主じゃからな」


 【聞き耳】を使ってみれば、然る筋を通して綺麗に解体された後、順次競売に掛けていくそうだ。手数料だけでも相当な金額が商人組合にも入ってくるらしい。


「物はどれだけ高いんだろう?」

「推定、肉100グラムで札4~6ってところじゃろう」

「めっちゃ高っ!?」


 人間、それはそれで食べてみたくなる好奇心が増大するものである。

 目が輝きだしてきたケーナに、背中に嫌な汗を感じるオプスであった。


 ケーナは全額下ろして金貨と銀貨に替える。オプスはカードに半分残して下ろすことにした。



 次に向かうのはハンター組合。


 依頼は市内の小さい事から行政の手伝い。

 キャラバンの護衛から原生生物の捕獲・討伐や自動機械の討伐まで等々。


 色々と多岐に渡るそうだが、食用生物や自動機械のパーツの買い取りは商人組合の役割になる。

 商人組合にも似たような依頼受付があって、そちらはハンター証があれば受けられるということだ。


「A・B・Cとかのランキング形式じゃないのか~。残念」

「自分たちの力量を見誤って怪我をしたり死んだりしても自己責任じゃからな。ちなみにランキング形式だったらどうするつもりなんじゃ?」

「『Fランクのクセに生意気じゃねえかこの小娘がっ』とか言ってくるチンピラをばったばったとなぎ倒すテンプレを……」

「文字通り地に沈めることになりそうじゃな。比喩表現で無く」


 途中直径100メートル程の湖を通過する。

 商人組合とハンター組合はこの湖を時計に見立てた場合、12時と3時の位置に建っていた。

 喫茶マルマールはというと、11時方向の少し離れた場所にある。


「あれがオアシスとかいうやつなのね。あそこから南側は少し緑があるみたいねー」


 緑といっても見える範囲では、椰子(やし)の木やケーナの背丈以下の常緑樹や定番のサボテンばかりである。

 うっそうと茂った森のようにはならないだろう。


「あれでも砂漠地帯で育つように改良を加えてあるのだがな……。昔よりは多少増えてるとは思うがなあ」


 縁側でお茶を飲みながら、携わった研究者が昔を懐かしむような感じだとケーナは思った。



 ハンター組合は白い小綺麗な建物だ。

 多少砂を被っているが、それほど大きくはない。酒場を兼ねたところではなく、事務仕事だけをする所らしい。


 その代わりその周辺には所属しているハンターの私物らしい騎兵やジープや装甲車など様々なものが停めてある。

 ここに置いて、昼飯を食べに行ったりするのが暗黙の了解なのだという。


 ぶっちゃけ街中の店や市場近辺には置き場所がないからだそうな。一部は起動音が喧しく営業妨害の苦情も出た例もあるとか。


 そんな所でも、たむろしている老若男女から聞こえて来るのは「だれそれがトカゲをとっ捕まえた」だ。


 「聞いたか? どっかのキャラバンでエルダードラゴンを捕まえたって」

 「ああ、しかも無傷で丸ごとらしいぜ」

 「捕まえたのはつがいらしいと聞いたが?」

 「養殖に踏み切る気か!?」

 「きっとあの至高の肉が格安にっ」


 幾つかの伝言を経由した噂話は、既に尾ひれどころか胸びれまでついていた。



「ダンさんの名前は出てないみたいね」

「噂話なんてそんなもんじゃろう」


 ハンター組合の銀行のような窓口でオプスが2人分の登録を頼む。

 必要事項を書き込む用紙を貰ったケーナは凍り付いた。


「……ねー、オプスー」

「なんじゃ?」

「私、何歳かなあ?」

「…………あー」


 リアデイルにトリップした時にはもう子供たちが200歳以上。ほぼ倍の年齢だと見られていた節があるから400歳前後。

 さらにあちらで1世紀近く過ごした経緯もあって、ケーナの実年齢は500歳前後になる計算だ。

 中身はたいして変わっていないのが問題なのだが……。


「適当に書いておけ、適当に。外見年齢でいいじゃろう」

「うん……」


 『名前』と『年齢』はともかく、その後の『主武装』と『特技』も頭を悩ますものだ。

 オプスはというとスラスラと書き込んでいたので横から覗き込む。


 名前:オプス

 年齢:28

 主武装:ハルバード

 特技:奸計


 ――とあったので、ケーナは悩むのを止めた。

 そうして彼女が書いたのは以下の通り。


 名前:ケーナ

 年齢:20

 主武装:棍

 特技:手品



 用紙を渡された職員がとてつもなく変な表情で受け取っていた。


 ハンター証が出来るまで30分ぐらい。その間「説明を受けますか?」と聞かれたがオプスが断ってしまう。

 利用規約としてはリアデイル(あちら)とたいして変わらない。

 依頼難度は自己分析と自己責任。依頼失敗には違約金が掛かること、程度に気をつければいい。


 手持ちぶさたになったケーナは壁に貼られた依頼書を見て時間を潰す。

 オプスは壁に寄りかかって、時折飛んで来る質問に答えていた。


 依頼書は白いハガキサイズの紙に依頼内容と期日、報酬、依頼者及び団体が記され、壁一面のホワイトボードにピン留めしてある。今現在は壁の半分くらいが埋まっている状態だ。


 入り口側の壁には黄色い紙に記されているものがあり、こちらは常時依頼なので引き剥がさなくともいいそうだ。


「ええとこっちは……。『天然物の砂貝求む』『自動機械のパーツ求む。ダンゴ虫だと色を付けます』? ダンゴ虫ってなに?」

「アルマジロとヤマアラシを足して2で割ったような奴での。2メートル近いトゲ付き鉄球が転がってくると思えばよい」

「なんなのそれ……」


 げんなりした顔になったケーナは白い依頼書の方へ向きを変える。


「こっちは、ん? なんか『娘を探して』だの『妹を探して』だのが多いね。女性誘拐事件でも起きてるのかな」


 チラリと依頼掲示板に目をやったオプスは「そうか」とだけ呟いた。


「オプスが冷たい……。私も気をつけよう」

「そうじゃな。加害者が皆殺しにされるじゃろうな。可哀想に」


「どっちの心配をしてんの!?」

「もちろん被害者の心配じゃが?」

「嘘だ! 絶対それ被害者って書いて、誘拐犯ってルビを振るんでしょう!」

「もちろん被害者(誘拐犯)の心配じゃが?」

「言い直したっ!?」


 ぎゃいぎゃいと(ケーナが一方的に)騒いでいると職員がケーナの名を呼んだ。

 ハンター証を受け取りに行くと職員が皆微笑ましそうな目つきだったので、つい今し方のやり取りを見られていたことに赤面する。


 ハンター証にはICチップが埋め込まれているので磁気嵐等に注意することと、再発行には金貨1枚掛かることだけを聞いてから、組合の外へ飛び出した。


「まったくオプスってば、人に恥をかかせるのを面白がるんだから……」


 組合から少し離れた湖の傍で、ケーナは朱くなった頬を冷ますように両手でぽふぽふ叩く。

 そこへ「あ! ねーちゃーん!」と聞き覚えがある声が飛んできた。


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