61話 悪魔の塔
大声を出して驚愕していたのは6人の子供を連れたガーディであった。子供たちは荒れ地な街中に草地が広がっていることに目を丸くしていた。
ケーナはというと見覚えのある子供たちが揃っていることに驚く。
(あれ? T・Sに預けたはずよね。なんでここに居るの?)
(オソラクハケーナ様ノ為二事業ヲ縮小シタ過程デ追イ出サレタノデハナイカト思ワレマス)
(あ……。そっかあぁぁ~)
キーの指摘にガックリと肩を落とす。
T・Sの行動理念は第一に『ケーナの為』となることから、こればかりは彼女を怒ればいいというものではない。責任の一端はケーナにもある。
「あ? なんで嬢ちゃんがここに居るんだ?」
「ガーディさんこそ。ここの関係者か何かだったんですね?」
ディアンが何も聞かずに「よく来ましたね。そちらは新しい子たちですか?」と快く迎えているところからケーナはそう察する。
ガーディはまずいところを突かれたようにそっぽを向いた。
彼に連れて来られた子供たちは、孤児院を見てホッとしたような表情を見せている。
ディアンは一度子供たちを集めて、ガーディに連れられた子供たちを新しい仲間として紹介し始めていた。
「対応早っ! 受け入れるの早っ!?」
「そういう取り決めがあんだよ。青猫団にはな」
ガーディはため息を吐きつつ青猫団との関係性を隠さずに暴露した。どっちにしろ青猫団とケーナたちは無関係ではないので、隠す必要はないと思ったらしい。
「で、何なんだこれは? 嬢ちゃんの仕業か?」
ガーディが孤児院を含めた周辺に広がる草地を見渡している。
「そうですね。でも数日で枯れちゃうかもしれませんが」
「これが魔法ってやつか……?」
「はい、そうですよ」
実際はスキルなのだが、説明が面倒なので訂正はしないでおく。それだけで納得はしてもらえたようだ。
「それで、あの子供たちは?」
「ああ、バナハースから拐われたってことになってるガキ共な。性悪クソチビ女のとっから放り出されたもんで、ここで面倒を見てもらえねえか聞きに来たんだが、大丈夫そうだな」
性悪クソチビ女が誰の事を指すのか察したケーナはひきつった顔で「大変でしたね」と同情するふりをする。内心では「こっちにも迷惑を掛けて……」と憤りを感じていた。
それも元の発端が自分だと思うとやり場のない感情で眉間にシワが寄る。
「ひめさまおこってる~? ぷんぷん?」
なにやら楽しそうなリュノフの様子に文句も言えず、口がへの字に変わっていく。
空気を読んだオプスがガーディとの対話に割り込んだ。
「お疲れのようじゃなガーディ殿。それでその性悪クソチビ女はどうしたのじゃ?」
「あ、ああ。いやいきなりエディスフの門前に飛ばされてそれっきりさ。大して会った訳じゃあねえが、以前にも増して愛想がねえ奴だったぜ」
オプスはなるほどと頷き、労うように肩をポンポンと軽く叩いた。
「……ふむ。気力回復に一杯どうじゃ。我のおごりで」
「良いのか?」
「ケーナが酒に嗜む程度でのう。たまにはイケる口の者と呑み明かしたかったのじゃよ」
「悪かったわね。酒呑みの気持ちが分からんお子様で!」
不貞腐れた風にそっぽを向くケーナにガーディもようやく肩の力を抜く。
だいたいケーナには酒との間にすこぶる相性の悪い感じがある。
その際の被害はほとんどオプスに行っているのも問題だが。
子供たちを性悪クソチビ女の魔の手から護ろうとして、四六時中気を張っていたのだろう。ここにT・Sが現れるようなことは無いと思っているが、彼女のテリトリーに居た時のような気分の悪さはガーディに残っている。
オプスの気遣いはあからさまだったが、この場にケーナが残るというのであれば安心だ。
彼女の力量は知っているので、護りに関しては問題ないと任せることしたようだ。
まさかケーナが一連の首魁だとは思いもしないだろう。
「よし、ファングも来い! 打ち解けるには酒の席が1番じゃ!」
「うえええっ!? 俺もかぁっ!」
青猫団とは気まずい雰囲気になるので我関せずといった感じで気配を断っていたファングもオプスにかかればバレバレである。
あっという間に襟首を掴まれ、ずるずると引きずられて行った。
「この最中で酒場なんかやってんのかな?」
街中の閑散とした様子を思い出し、ケーナはぽつりと呟く。
浄水設備建設の為、エディスフの人員はそちらに掛かりきりの筈だ。話に聞いた限りでは。
「食事処は平常通りだと思いますよ。皆はこの事業にかなりのストレスを感じているようですからね」
ケーナの呟きにはディアンが快く答えてくれた。「すみません」と頭を下げるケーナへにこやかに頷く。
「ついでにちょっとお伺いしてよろしいですか?」
「ええ、私で分かるようなことでしたら」
ケーナはこの都市に来る前から気になっていたことをド直球で聞いてみることにした。
遠回しな言い方が思い付かなかったともいう。
「エディスフより西に100キロメートル以上行くと巨大な塔がたってるようですが、知っていらっしゃいますか?」
「ッ!?」
不意討ちを受けたように硬直したディアンの様子を見て、ケーナは情報は得られそうだと内心安堵した。
そもそもその塔自体はエディスフに接近するにつれ観測ができていた。
もちろん俯瞰視覚でだ。
地表からその塔を見付けようと思ったら、道中に広がる山脈などの障害物で視線が通らない。他にも砂嵐や黒雲などの天候に左右されるため、遠方から塔の存在に気付くものは稀である。
ケーナが俯瞰視覚でざっと確認したところでは直径は約2~3キロメートル。
壁面は白亜の輝きを放つ金属製。高さに至っては空の彼方まで伸びているようだ。
見付けたのは偶然だが、T・Sのことやファングの不満もあり、オプスに聞き込むのをすっかり失念していたのである。
「あ、悪魔の、塔……」
呆然とした呟きに思考を中断して顔をあげれば、ディアンの表情が悔しさを滲ませていた。
「悪魔?」
はて、この世界にも悪魔が実体化しているのだろうかとケーナは首を傾げた。
ところが眼を血走らせ、思いの外強い力で彼女の肩を掴んだディアンの様子に息を呑む。
「ディ、ディアンさん?」
「良いですかケーナ君。あの塔に関わってはいけません! 今まであの場所に一獲千金があると言って向かった傭兵団は数知れず。そのどれもが誰1人帰って来ないのです! 貴女も妙な好奇心などは捨て、堅実に人生を歩むのですよ!」
怒られること以外でディアンが声を荒らげる場面を初めてみたのか、ほぼ全ての子供たちの動きが止まっていた。
痛いほどの沈黙が支配する場にディアンの声は隅々まで届く。
ぽかーんと口を開けてこちらを重視していた子供たちの様子にディアンは我に返った。
「あ、ああ! 失礼致しました。どうも取り乱してしまったようで……」
ディアンは視線をあちこちに動かしながら首元の襟をしきりに弄った後、「細かい仕事が残っていますので」と院内へ足早に去っていった。
「子供たち放ったらかしかい」と思ったケーナではあるが、子供たちの年長者が小さな子を取り纏め室内へと誘導していく。
予め取り決めがあったようで、素直に年長者に従った子供たちはそそくさと室内へ戻っていった。
「子供が増えたんじゃ泊まらせて貰うのは無理かしらね」
『デ、アルカト』
「むう。ひめさまどことまるの~?」
ぽつんと残されたケーナは苦笑して孤児院から離れる。
ガーディに後を任されたという責任もあるが、この街中であればケーナの射程距離内でもあった。念のため孤児院の周囲へ結界を張っておくのも忘れない。
リュノフの疑問には「折角キャンピングカーぽいものがあるんだし車中泊でも大丈夫よ」と答えた。
しかし屋台車の所に辿り着いたら、物珍しいのぼりに釣られて大量の客が集まっていた。そのせいで日付が変わるまで店を開ける羽目になったことを付け加えておく。
たまに出るキーさん、久しぶりの出番。




