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60話 孤児院鳴動

 案の定騒ぎになった。

 通行人からの通報で自警団がすっ飛んで来たようだ。


「やべーやべーよ」

「名乗り出たらやばそうね……」


 局地的異常繁殖だか珍事件だかの事案で、エディスフ内の研究所から専門家が呼ばれたらしい。孤児院の庭の中や周辺からサンプル採取をしーの、放射線検査をしーの。

 人体に有害な菌が繁殖してないかとの名目であちこちを掘り返したりと、白衣を着た者たちが忙しそうに動き回っていた。


「放射線防護服とやらを着込んでおらぬ分、そこまで脅威はないと考えておるのじゃろうなあ」


 窓の外を眺めながらしみじみとオプスが呟く。

 「有害かもしれないから」という理由で、子供たちのみならずケーナやファングなども室内に退避させられていた。


 幸いなのは何らかの異常事態と判断され、個人の仕業と特定されていないところだろう。

 特定されたらそれはそれで驚くが。


「迂闊に「私がやりました」と名乗り出てみい、事情聴取という名目で連れて行かれて何をされるか分からんぞ。そして抵抗したケーナにより都市が滅ぶ未来しか見えんの」

「なんでやねん」


 オプスの予想経緯にファングが突っ込んだ。

 しかし彼女を取り巻く防御壁(オートガード)はそれだけではない。


「うん。反撃はするかもしんないけど、その前にT・S(テッサ)が怒り狂うかも」

「ひめさまにいじわるするならリュノフもぽいってするよ~」


 1番の過剰戦力が目尻を吊り上げて頬を膨らませる。

 笑いながら手を振るうだけで超重力場を作り出せるミニ人魚だ。「ぽいっ」という表現が最悪のロクでもない結果を作り出すのは確かだろう。


 表情筋を引きつらせたファングがケーナに名乗り出ないように頼み込んでいた。


「絶対に名乗り出んなよ。振りでも漫才でもないからな!」

「しないしない。自分から墓穴掘りにはいかないって」

「おそらく掘ったら出てくるのは魔神レベルの災厄じゃろうな」


 眼からビーム出す奴とか天地をひっくり返す奴が揃っているため、オプスの呟きは洒落にならない。


 と、4人で物騒な話し合いを続けていたらようやく現状を把握したのかディアンが口を開いた。もちろんリュノフは認識されていない。


「あの草地はケーナさんの仕業なのですね」

「ええ、まあそうです。あちらさんには秘密でお願いします」


 あちらさんこと窓の外で動き回っている白衣の集団を指したケーナが、うんざりとした顔で言う。

 やってしまったのは自業自得だが、責められたくないなあと考えていた。少なくともディアンにそんな気はない。


「参考までに聞いてよろしいですか?」

「ええ、答えられることならば……」


「どのような手段であのような現象を?」

「魔法です」


「……まほう?」

「まごうことなき魔法!」

「…………」


 胸を張って言い張るケーナに、その場だけは沈黙が漂う。


 室内は外を気にするが思い思いに遊ぶ子供たちの歓声で賑やかだ。

 オプスは走り回っているうちに転びそうになった子を抱き止め、片手で難無く持ち上げたために尊敬(キラキラ)な視線を浴びまくっている。


 言葉を無くし顎に手をやって考え込んでいるディアンの様子をファングははらはらと窺っていた。


「おいおい、ケーナが正直に言ったんでディアン……さんが固まっちまったぞ」

「1人ばらすも2人ばらすも同じことよ!」

「威張ることかーいっ!」


 軽口を叩き合っている2人を見ながらディアンは「なるほど、こういうことですか」と呟いた。


 彼はケーナたちが来る前に、青猫団の方から情報を得ていたのである。

 それはかなり簡潔な一文で『そっちに常識を逸脱した2人組が行く』というものだ。それだけでは要領を得ないものだったため、ディアンは本人を見てから判断しようと思っていた。

 それが先程の不自然現象とそれを成した者の発言な訳だ。


(たしかにこれは常識を逸脱していると言えますね)


 だからといってそれが子供たちに直接害があるわけではないので、ディアンは気にしないことにした。


「あー、ディアン……さん。あいつも悪気はないんだよ。ただちょっとやっちまうだけなんだ。だから、な……」

「ええファング君、心配せずとも平気ですよ。私は彼女たちのことを誰かに言いふらすようなことはしませんから。あのような様を見れば彼女たちに悪気があるなどとは思いませんし」


 2人の視線の先ではケーナが積み木のブロックを6個使い、ジャグリングなどを披露していた。子供たちには驚きと喜びと尊敬(キラキラ)の表情が広がっている。

 中にはジャグリングの教えを乞う子もいて、ケーナはゴムボールを2つ使うやり方から指導していく。飲み込みが早く、3つ使用で回し始める子供もでてきて、たちまち子供たちの間にジャグリングブームが到来する。

 ケーナは教えるために室内を忙しく動き回る羽目になった。


「ちょっとオプスも手伝って!」

「ふむ、仕方がないのう」


 ケーナはニヤニヤしながら眺めていたオプスを引っ張り込む。

 そんな様子を見ていればディアンがケーナたちを不審に思う気も失せるというものだ。


 1時間もすれば器用な子は3つをスムーズに回すことが出来るようになっていた。幼い子を除けば半分くらいが2つを危なげなく回せている。

 ディアンが器用な子たちに「後は自分で工夫しつつ他の子に教えていくように」と諭し、ケーナたちの教師役は終了となった。


「ふいー。一段落ねー。ありがとオプス」

「フッ、まだ教えていたとしても構わんのじゃろう?」


「をい。孤児院の方針に抵触すんだから止めなさいって」

「なんじゃつまらんのう」


 残念そうな顔のオプスは渋々子供たちから離れる。

 ケーナが思ってたより素直な子供の相手をするのは好きなのかもしれない。逆に精神的に成熟した相手ならば天邪鬼な対応なのはどうかと思うが。


 リュノフはケーナの手が空いたとみるや身体を丸めて腕の中を占拠した。「えへへ~」と悪びれもなくしがみつき、「仕方ないなあ」とケーナが頭を撫でてやるまでがセットである。

 猫みたいに「ふにゃぁ」となってご満悦だ。

 この行動すらも認識阻害の範疇内で、ケーナの行動を不審がる者はいない。


 程無くして研究員の責任者が顔を出し、撤収する旨を告げた。


「毒性や放射能は確認されませんでしたが確実ではありません。念のため気を付けて頂き、何かあったら連絡を」

「わかりました。ご苦労様です」


 対応したディアンと短い会話を交わし、研究員たちは採取したモノを納めたケースを幾つも抱えて去って行った。ディアンはそれを見送り、研究員たちが見えなくなったところで「もういいでしょう」と子供たちに許可を出す。


 途端に堰を切った怒涛のように外へ飛び出していく子供たち。

 思い思いに草地の恵みを堪能している。転がったり、おずおずと草に触れたり、図鑑を持ち出して草の種類を調べたりする子供もいる。


「それなりに掘り返して行ったのじゃな」

「端っこと真ん中かな。直すけど」


 ケーナが地面に手を当てて魔力を流し、研究員たちがごっそりと掘り返していった地点を修復した。


「器用なもんだな」

「フィーリングみたいなものかな。慣れればこのくらいで、みたいなさじ加減でいけるよ」


「いや、俺はファンタジーの住人じゃねえからわからん」

「じゃあこれ」


 ケーナから赤い宝石の付いた短杖を渡され、キョトンとするファング。


「なんだこれは?」

「火炎槍が10発撃てる魔法道具(マジックアイテム)。使い捨て」

「…………」


 どう反応すればという顔でファングは隣へ視線を向ける。

 それにオプスは「諦めよ」という風に首を振って返した。


 胡乱な目で手に持った短杖を見つめるファングと、周囲の子供たちの差異にケーナが吹き出した時だった。


「なんじゃこりゃああああああっっ!?!?」

 とか言う声が響いたのは。


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