58話 幕間6
自らの秘密基地へ帰還したT・Sは、真っ先に白い牙をハンガーへ放り込んだ。
ケーナの所で受け取った時点で機体の構造は精査済みだ。
周囲から30本にも及ぶ作業用アームが伸びて来て、白い牙の装甲を剥がし、内部骨格の修理から取り掛かる。そのあまりに質素な構造故に何か少しでも改造を加えるべきかとT・Sは考えてしまう。
「姫様はああ言われたがあのまま同行したとなるとマザーの本隊と一戦交えることに……。骨董品でアレと戦ったとなると片腕残れば御の字でしょうここは多少なりとも強化改造でも施した方が姫様の足を引っ張る可能性が減るのでは? しかし釘を刺されているからいかんともしがた……ああ骨格部品から見直して新造すれば魔改造にはならないのでは!」
突っ込む者が居ないのでダメな方向に発想が飛ぶT・Sであった。
彼女の前に新たな空間ディスプレイが開き、修理をしようとしていた作業用アームが動作を停止する。
「骨格は複合素材から再構築。一部有機物質も使用。細胞エンジンも内包し出力を5倍に上昇」
骨格剥き出しとなった白い牙の横へ、作業用アームが新たな機体を組み上げる。
みるみるうちに構築されていく姿は旧機体となんら変わることはない。
但し見た目とは裏腹に使われている科学力のレベルは段違いである。
「コクピットはそのまま。二次装甲には再生機構を付加。腰部に予備電源と加速器を」
早送りでプラモデルを組み上げる動画のようなスピードでもって、もう1体の白い牙がそこに顕現した。旧品は一応ながらも消耗パーツを交換し、修理を完了させてある。
そちらの爪先にT・Sはスティック状のUSBメモリみたいなものを差し込んだ。旧機体は青緑色の粒子と化してメモリの中に吸い込まれていく。
「こちらはコクピットに刺しておきましょう。戦闘経験もフィードバック済みですし」
作業用アームにメモリを託すと次に戦艦ターフの設計図を呼び出す。
車輛のメンテナンスルームとなっている箇所は換装ユニットなので、事前に設計図を引いておいた騎兵用のメンテナンスベッドを作製するように工場へ指示を出しておく。
「ああ。事業縮小するならあちらも閉鎖しなくてはいけませんね」
自身の所有する施設をチェックしながら、未だに稼働中の場所を確認したT・Sは「色々とめんどくさい」と呟きつつ転移した。
⬛
「なっ!? 今度は何しに来やがったテメエッ‼」
「おやまだ居たのですかΘ12?」
「ガーディだっつってんだろ!」
転移した先の施設で子供6人と輪になっていたガーディが怒鳴り返す。
学校と呼称されるこの施設は、あちこちから引き取った孤児たちに生きていく上で支障のない教育を施す場所だ。
以前ガリガリに痩せていた6人の孤児たちは、スラムの底辺を彷徨っていた様な薄汚れた姿の影はない。
「報告は受けていますгたちを上手く纏めていると」
「だから記号みたいに呼ぶんじゃねーよ!」
T・Sの姿を見ただけで怯え震える子供たちを背に庇い、ガーディは無表情のそれを睨み付ける。
彼とてT・Sに対して感謝する気持ちは無い訳ではないのだ。
それを上回る無念とかやるせなさが彼から素直さを奪っている。
今は青猫団と名乗っている彼等は元々孤児であった。
当時3都市から20人弱の孤児がここに集められて集団生活がスタートしたのである。
読み書き計算等の教育だけでなく、適正がある者は機械工学や経済学。無い者は機械の修理技術や騎兵の操縦などを教わった。
母性愛のようなものはなかったが毎日3食の食事と柔らかいベッドでの睡眠は、それだけでも今の世の中破格の待遇だと分かる。意外に手厚く保護された安全な場所などないと、ここを出てから数え切れないほど実感したものだ。
そこまではガーディも感謝をしている。だが納得できないこともある。
確かにここに集められた孤児は当初20人居た。
しかし卒業した時は14人に減っていた。
途中で病に倒れ、死別した訳ではない。ある日忽然と姿を消していたのだ。
当然仲間たちは探そうとしたがT・Sによって提案ごと却下された。
曰く「あれらは脱落者となりここには不用となりました」と言われたのだ。
この競技場のような施設から出られない以上ガーディたちに選択肢はなかった。
ここを出て、外の世界で青猫団を結成し、暮らし始めた彼等の心残りは消えた仲間たちであった。
もしかしたら着のみ着のまま外へ放り出された可能性も考えられ、あちこちを探しまわったこともある。結果は芳しくなく、目撃情報すら手に入れられなかった。
先日に食堂だと説明された扉だが、当時は何の説明もなかったと記憶している。
扉だけはあったので、好奇心にかられて手をだした者からは「開かなかった」と聞いた記憶があった。そこが開放されていればいぶかしむのも当然だ。
この機会に問いただそうとしたガーディだったが、それより先にT・Sから衝撃的なひと言を告げられた。
「まあ丁度良いでしょう近々ここを閉鎖するのでΓたちもΘ12も身の振り方を決めておくように」
「……なに?」
「「「「「えっ!?」」」」」
鳩が豆鉄砲を食らったように目が点になるガーディと子供たち。
それだけ伝えればあとは用はないとばかりに身をひるがえすT・Sに、ガーディは慌てて声をかけた。
「ちょっ、ちょっと待て! どういうことだ!」
「言った通りです外の生活で言葉を忘れたようですねΘ12」
「誰がゴリラだ!?」
言葉を理解できない、イコール動物と捉えた様子のガーディを呆れた目で見やり、T・Sは深々と溜息を吐く。「いいでしょう」と呟いたT・Sは足を止めてガーディへと向き直った。
「ひとつだけ質問を受け付けましょうさっさと述べなさい」
「なっ! テ、テメェ!?」
どこまでも上から目線に反抗心たっぷりのガーディは激高しそうになる。しかし本来の目的のためにと心を押し止め、深呼吸をしてからT・Sに問い掛けた。
「……俺はただ、行方不明になった仲間たちのことを知りてえだけだ」
「ああ、Θナンバーの欠番の事ですかそれでしたら勉学が嫌だというので強制労働コースへ直行ですね」
「なんだとっ!」
予想だにしない返答にT・Sへ掴みかかろうとしたガーディだったが、直前で不可視の壁に顔面を強打し蹲るハメになった。
「何が不満だというのでしょうか農業エリアで人類の食生活を補填するという立派な肉体労働だというのに。ああ施設の閉鎖については通達しますので私物を纏めておくように」
言うだけ言って目的を達したT・Sは白い光に包まれてその場から消え去った。
後には鼻血を流しながら涙目のガーディと、顔を見合わせて困惑する子供たちが残されていた。




