57話 救護措置②
揃ってポカーンと口を開けて固まるファングとT・Sに、餌を待つヒナのようだなとケーナは思った。
「お待ち下さい姫様! 私がお仕えしているのは貴女様唯1人なのです! 何故この者などを気に掛ける必要があるのですか! 有象無象など放っておくべきでしょう!」
先に回復したのはT・Sで、ファングに厳しい視線を向けつつ猛然と抗議をしてくる。
「……う、うぞーむぞー扱いかあ……」
「あー、まあ気にせん方が得策じゃぞ。アレじゃしの」
「……やっばい」
面と向かって雑魚扱いされて凹むファングをオプスが慰める。
その横でリュノフが青い顔で及び腰になっていた。
「そりゃあ私が原因で住民の皆さんにT・Sが無茶振りしたんでしょーよ。その皺寄せがファングとかベルナーさんたちに行ってるんじゃないのさ」
「原住民が苦労するのは当然のことでしょう。原住民はこの過酷な環境でのうのうと生活出来ているのは誰のお陰か理解しておりません! その大恩あるお方を崇め奉らず追い出すなど屑当然の所業! 1度何の保護もなしにゼロ状態から生活基盤を組み立ててみればよいのです! 唯でさえ寄生しているのが普通だと厚顔無恥を晒している状態ではありませんか! 今までは放置しておりましたが姫様が降臨しているのは良い機会と言えるでしょう! 崇拝というのがどういうものなのかtあいたアァッ!?」
ゴイィン! という硬い金属音と共に涙目で頭を押さえたT・Sが座り込んだ。
目にも止まらぬ勢いで如意棒を振り抜いたケーナは、頭に怒りマークを表示させながら薄ら笑いを浮かべている。
「……やっば~い」
その表情を見て畏れおののくリュノフ。
オプスはファングの腕を掴み、既に安全圏まで退避していた。その辺りは慣れたもので、ケーナがイヤリング状態の如意棒に手を伸ばす直前のことである。
「T・S」
「ヒィッ!?」
ボソッとした名前呼びにケーナの目を直視したT・Sが硬直し、短い悲鳴が漏れる。
「ごめんなさい。ちょっと何を言ってるのか解らなかったんだけど。アナタは私の忠実な下僕ってことで良いのよね?」
「アッハイ」
ケーナはごくごく普通に人に挨拶するときの笑顔だが、目が笑ってないからこそ恐ろしさが増している。上司に睨まれた部下の如く、T・Sの返事は機械的になっていく。
「私を神の如く崇拝してるのよね?」
「HAI!」
「私は今、アナタにお願いをしたんだけど、アナタはそれを断ったのよね?」
「I、IIE!?」
「そお? じゃあ快く私のお願いを受けてくれるってことでいいのね」
「HAI! WAKARIMASHITA‼」
ビシッと気を付けの姿勢で片言をどころではないハイハイマシーンと化したT・Sに、他の3人はとばっちりを受けないよう息を殺すしかなかった。
今、ひとことでも横槍を入れたら「死ぬ」という認識である。
「確かにアナタからすれば私の周りに眷族でないものがうろちょろしているのは面白くないでしょうけど私が認めたPTメンバーなんだから多少なりとも譲歩して欲しいわねそれにいちいち文句を垂れるなんてゲームの時みたいにブラックリストにはできないんだから即排除という考えは超共感できるけれどもあの時にこの力があればあのウザイ連中を物理的に消去出来たものをアア口惜シヤ口惜シヤ━━━」
「ひ、ひめさまおちついておちついて! ステイステイ!」
なにやら途中から怨み節全開で更におどろおどろしい雲を鵺の如く漂わせたケーナを、普段なら煽るリュノフが宥めるという珍事があった。
「……そういうとこはどこのゲームも変わらねえんだな……」
「マナーを守らない奴が出るのはゲームの暗部じゃろう。機器で人格までは見抜けぬものじゃしな」
しみじみと頷き合う男2人。
場所を弁えろ というジト目がリュノフから飛んで、慌てて居住いを正す。
胸に手を当てて深呼吸をし、気持ちを切り替えたケーナはファングを呼んだ。
「ちょっとファング」
「え、あ、俺か?」
「貴方以外に何処に居るってのよ。話聞いてたんでしょ。騎兵出して騎兵、白い方よ白いの」
「あ、ああ……」
ファングはインベントリから慌てて白い牙を引っ張り出す。
白い貴婦人のようなドレス型装甲は黄土色に染まる世界の中で目に眩しい。T・Sは胡乱な眼で白い牙をグルグルと回りながら見て「ふうん」と呟いた。
「これまた随分と中古品ですね」
「中古品っ!?」
歯に衣着せぬ辛辣な評価に、ファングはショックを受けて崩れ落ちた。
「ガーランドというゲームからの転移者じゃから、この世界の基準に当て嵌まらぬぞ」
「ああ成る程では骨董品ですねそれで……」
「骨董品ッ!?」
オプスからフォローの注釈が入るが、更に酷い評価が返って来た。滂沱再びなファングである。
ちなみに中古品と判断されたのは、かつてこの世界で繁栄していた文明から見てのレベルだ。
「そういえばT・SってSF系なんだったっけ……」
残滓の微かな記憶から彼女の担当はオプスやキーの超常系とは違い、高度に発達した物質文明の科学技術系だったなあと思い出す。
どれだけの域に達しているかまではケーナも把握はしていないが、そっち方面から見ればファングの騎兵もその程度の評価なのも納得する。
「……納得しないでくれ……」
「あ、ごめん」
しくしくと落ち込み泣く物体に謝りながら、ケーナはT・Sに続きを促した。
「パーツの消耗で動かないらしいんだけど直りそう?」
「骨董品のレストアは専門ではないのですが……魔改造でよろしければ」
「ちょっと待てえええええっっっ!?」
不穏な単語にファングが焦った顔で跳ね起きた。
「魔改造って何だ魔改造って! この上更に俺から奪う気なのかよっ! ふざけんじゃねーっっ‼‼」
真っ赤な顔で激昂して怒鳴るファングの様子に「そうだよねー」とケーナは呟いた。ただでさえ彼の戦艦を奪っている状態なのだ。改めて思えば酷いことをしていると自覚したケーナは心苦しさに頭を下げた。
「ごめんなさい」
「え……、い、いやっ、お前は前に謝ってくれたろう! 今はこいつに怒ってだなっ」
「でも部下のやらかしたことは上司である私の責任よ。いい機会だからターフも丸々返還しておくわ」
いつの間にか近くに来ていた戦艦からターフを呼び、T・Sにマスターの登録変更の仕方を聞く。
「仕方ありません一旦登録を削除して再登録を致します」
T・Sはターフの額上で手を振って、タッチパネルを表示させる。
そこを操作した後、何処からともなく取り出したガラス棒をファングの口内に突っ込んだ。
「ごぼっ!?」
「DNAを頂きます」
それをターフにくわえさせ、再びタッチパネルを弄れば完了したようである。
何時もならケーナに向いていた、ターフのキラキラした熱視線はファングに向くようになった。
「お、おい、良いのか?」
「良いのよ。そのうちこの世界からは離れる身なんだもの。こんなデッカイ物連れては行けないわ」
あっけらかんと言い張るケーナは隣のオプスに視線を向けた。
いまのところ世界間移動に関してはオプスの能力頼みなためだが、本人の反応は肩をすくめたくらいである。
「そ、それって元居た地球に帰るとかか?」
「無理無理」
あわよくば便乗しようと考えたのだろう。
ファングの期待を込めた問い掛けは苦笑したケーナに却下された。
「地球の標なんぞ残ってはおらんわ。何処に出るのか分からぬランダム転移になるじゃろうの」
「それにぃ~、ひめさまのけんぞくでもないただのにんげんがとべるわけないじゃ~ん。ぐっちゃんぐっちゃんのどろだんごになっちゃうよぅ~」
オプスとリュノフからダメ出しを貰い、ファングはガックリと肩を落とした。
「喜怒哀楽で忙しそうね」
「誰のせいだと……。だがすまねえ、ありがとうよ」
落ち着いたのか礼を言うファングにケーナは微笑んだ。
「いっぱい迷惑掛けてるから、それと相殺ってことで。ああT・S、そういうことだからそれちゃんとレストアしてね」
「了解致しましたターフの換装に関しては後に本日はこれにて御前失礼致します」
恭しく礼をしたT・Sは白い牙と共に立ち昇る光の中に消えて行ったのである。




