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53話 幕間5

恒例の鬼畜回。


「単刀直入に本題といきましょう」


 ヤルイン行政府の職員たちはゴクリと唾を飲み込んだ。

 突然やって来た人類の命綱ともいえる存在を前にして緊張しない者はいないだろう。


 普段であれば行政府長と1対1で対談をするべき者が、重要な話があるからと各部署の部長クラスを集めるよう指示したのだから。

 見た目が少女でも、その身から発するプレッシャーに職員たちは萎縮していた。



 T・S(テッサ)は先ず先頭にいた行政府長へ1枚のメモリーカードを投げ渡す。かなり危なっかしく受け止めた行政府長に、はらはらしながら見ていた他の職員は一斉に安堵した。


「これは?」

「あなた方でも作れる貯水槽と浄水設備の設計図です直ちに取り掛かりなさい」


 ザワザワザワと、T・S(テッサ)の発言に困惑した様子の職員たち。

 そりゃいきなり設計図など渡されて意図を掴めという方が無理な話だろう。それも折り込み済みなのか、淡々とした表情でT・S(テッサ)は話を続ける。


「こちらは今後段階的に都市機能の維持を手放しますあとはあなた方がそれらを管理しなさい」

「なんですとっっ!?!?」


 府長と職員たちが驚愕で凍り付く。

 今まで人類の生活圏に欠かせない施設を一括で管理していた存在が、その役目を放棄すると宣言したのだ。目の前が真っ暗になるほどの衝撃が彼らに襲い掛かった。実際に何人かが崩れ落ち、座り込んでしまう。


「り、理由をっ! 理由をお聞かせ願えませんかっ! もしや、私共に何か落ち度がっ!?」


 気丈にも府長が職員たちを睥睨する冷たい瞳の圧力に耐えて、疑問を投げ掛ける。チラリと府長を一瞥したT・S(テッサ)は面倒臭いとばかりに眉をひそめて話を続けた。


「この事は同時にバナハースとエディスフにも通達しています例外はありません理由とするならばそうですねえ……」


 勿体ぶったように間を置き、手を腰に当てて、ヤレヤレという風な態度を取る。

 率直に毒を吐くという普段の彼女しか知らない府長たちにとっては、初めて見る表情であった。


「任期が終わったからですよ」

「……は?」


 淡々と簡素な返答に職員たちが目を点にする。

 それで話は終わりだとばかりにT・S(テッサ)が身を翻した。


「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ‼」


 だがそれでは納得いかないと、何人かの職員が彼女を呼び止めようと追い縋る。

 追い縋ろうとしたのだが、途中で何か壁のような物に阻まれる。

 驚愕もつかの間、振り向き様にT・S(テッサ)が手を振る動作に合わせて、追い縋ろうとした職員たちが吹き飛ばされる。壁に叩き付けられ気を失った職員に他の者が駆け寄った瞬間、その場から動けなくなるような威圧感が室内を満たした。


 誰もが凍り付いたように顔を青ざめさせて動きを止める中、怒気を纏ったT・S(テッサ)が口を開いた。


「いい加減に私の手を煩わせるなこの糞餓鬼共が! 数百年も面倒を見てやったこちらの決定に異を唱えるならば仕方がない。今すぐ全ての施設を停止させてやってもよいのだぞ」


 風もない室内だというのにふわりと髪が浮き上がり、燐光のような光を纏うT・S(テッサ)に誰もが言葉を無くす。

 幻想的な雰囲気と苛烈な怒気が混ざりあうその光景に、誰もが恐怖の他に儚げな美しさを感じた。


 T・S(テッサ)は恐れおののいている幹部職員一同を見渡した後、1人の男性にツカツカと近付いていった。T・S(テッサ)の視線を受けて後退りする40代くらいの男は、ハンター組合の実質的なトップである。


「先日の襲撃の際に獅子奮迅の活躍を見せた方がいたそうですね充分な報酬を支払いましたか?」

「え、ええ。他のハンターたちの3倍は渡しましたが……」


 彼を見上げるT・S(テッサ)の視線に圧力が増し、額に脂汗をにじませた男が一歩下がる。


「その方々に対する悪評が街内に広がったようですが何故それらを放っておいたのですか?」

「そ、そのような噂に対する対処は我々の仕事にはふ、含まれておりません」


 T・S(テッサ)の表情に凄みのある頬笑みが加わり、彼のみならず周囲にいた者までが逃げるように道を開けた。

 蛇に睨まれた蛙のような状況に彼だけが残される。


 T・S(テッサ)はカタカタ震える彼をねっとりとした視線で睨み付けると、府長らの方へ振り返る。たちまち萎縮して固まる職員たち。


「そもそも私は私の主のために設備を造り上げたのですよ砂漠で何の不自由なく過ごせるようにとね」


 唐突に始まる暴露話に人々が耳を傾ける。

 人類のためで無く、たった1個人のためであったことに皆は驚くばかりだ。だが人々がどこか他人事のように聞いていられたのはそこまでだった。


「悪評を立ててまで邪魔者のように主を追い出すとはこの都市の存在意義は失われたも同然ですね」

「「「なァッッ!?!?」」」


 寝耳に水どころか驚愕の一言であった。

 それがどれだけヤルインという都市にとって不利益をもたらしたのか。


「ま、ままま待ってくれっ‼ まさかあの3人組が貴女の主人だと言うのか?!」

「嘘っ!? 嘘よっ‼ そんなことあるわけがっ?!」


 T・S(テッサ)自体が数百年も前から君臨しているだけに、その様な存在が他に居るとは思ってもいなかった職員たちである。

 実際には家系が存続しているのではなく転生と転移な訳だが、T・S(テッサ)はここの人間たちにそれを教えるつもりはなかった。


「それはもう関係の無いことですがねヤルインに対するケアなど此方には含まれていない仕事ですよ」


 その場にいた人々の表情から一斉に血の気が引いた瞬間だった。

 府長が先陣きったのを始めとして、全員が土下座を敢行して許しを乞う。何かを崇めるような光景にも見えるが、人々は見捨てられぬよう必死であった。


 T・S(テッサ)はそんな人々を一瞥し、「頭を下げている暇があるならば此方が提供したものに関して手を動かしてはどうです?」とだけ言って、その場を後にした。


 背後で「建築関係の責任者を呼べえええっっ‼」だの「しっ資材の確認をしてっ‼」やら「足りなければ今すぐ自動機械に掛かりきりのエンジニアも集めなさいっ‼」などという必死の金切声も聞こえてくる。



「まあ、この辺で勘弁してあげましょう」


 T・S(テッサ)には都市の設備を今すぐどうこうする気はない。

 ヤルインにはケーナが友達と認める者や、お気に入りの場所があるからだ。今回、脅しまで用いて行政府の尻を蹴っ飛ばしたのは、ただの意趣返しである。

 自分の主が悪評によって都市を追い出されたような形になったことが我慢ならなかったからだ。


 だがこの手のネタで脅迫していけば、ヤルインでの人間による設備設置はサクサク進むだろう。思いがけないところで最良のネタを手に入れたT・S(テッサ)は、次は何を無茶振りしようかと企みながらヤルインを後にしたのであった。

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