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43話 戦艦にも取扱い説明書は必要です

 オプスがダマスカスというハンターチームを壊滅に追い込むアクシデント(濡れ衣)があったり。アクルワーズ商会から同行出来ないことを惜しまれたり。青猫団から何処かでまた会ったら一緒に仕事しようと言われたり。


 色々ごたごたはあったものの、スバルらと別れを交わしてからケーナたちはバナハースを出発した。

 街を出てトラックで進み、しばらくしてから笛を吹いて戦艦ターフを呼び出した。トラックごと中に収容されて「ご主人さま〜」と喜び勇んで駆けてきた柴犬型有機生命体のターフをケーナは抱き上げる。


「このままエディスフまで向かって頂戴な」

「わかりました〜」


 尻尾をちぎれそうなほどに振りまくるターフが頷くと、戦艦がゆっくりと動き始めた。

 重キャタピラ20基に支えられた戦艦ターフは、その巨体に関わらず最大時速70キロまで出せる。

 この世界にはない静音走行を実行して光学迷彩によって姿を消せるとしても、移動によって巻き上がる砂煙まで誤魔化すという訳にはいかない。


 商会の使用する行路を外れるとなると地盤の問題もあるため、進行方向の探査をしながら進むことになる。よって速度を半分以下の30キロに抑えて慎重に走行すると、ターフから説明された。

 そこでオプスがレベル3で地精霊(人間大)を呼び出して、砂漠を(なら)しながら進ませたことで、速度問題は解決したのである。


「科学と魔法が合わさった何でも有り、ここに極まれりっつー感じだなあ……」


 戦艦の艦首に鎮座する人間大の歩兵(ポーン)のチェス駒を見たファングは呆れた様子で呟いた。


 現在ターフは西へ向かって進んでいるが、砂丘しか見えない状況では方角などはさっぱり掴めない。

 各自スキルや魔法を使えば「あ、こっちが北かな?」というのが朧気に判る程度だ。


 地図によると、ヤルインからみてバナハースは東北東に位置している。逆にヤルイン、エディスフ間はほぼ東西一直線らしい。なので「斜めに突っ切れば早いのでは?」と思われるが、その航路を使う剛毅な商隊がたまに存在するらしい。

 仕方なしにターフはバナハースからエディスフまで、放物線を描くようなコースを取って進んでいた。

人があまり行き来しない地帯なので、ケーナは自動機械との遭遇率は低いと思っていた。

 実際には結構な頻度で出逢っていたのである。



 メインブリッジとなる戦艦の最頂部にいるのはケーナだけであった。

 ファングは騎兵ハンガーで細々とした調整を、オプスはカプセルホテルのような寝室でアイテム作りをしている。


 艦長席らしき場所をターフに勧められ、そこに座っていると1時間毎に手元にディスプレイが開き、副砲や機関砲の射撃許可を求める選択が出るのだ。

 「許可」を押す度に進行方向や周辺で爆発が起きる。それが延々続けばケーナも段々うんざりしてくる。


「ターフ。ちょっと聞きたいんだけど?」

「はい!」


 ブリッジの床にお座り状態だったターフが、首を上げて元気に返事をする。

 ケーナが立ち上がるのに合わせて膝の上でくつろいでいたリュノフも空中を泳ぎだす。


「ひめさまつかれた〜?」

「座り続けるのもね。これっていちいち承認をいれないとダメなの?」


 体を伸ばしてから前後に倒す柔軟を始めたケーナの周りを、リュノフがくるくると回りだす。


「音声入力もできます!」

「そんなのもあるのね……。じゃなくて、私が居ない時とかはどうやって攻撃するのよ?」

「副砲以外のものを使います!」

「まだ他にも攻撃手段あったの!?」

「はい!」


 ターフの返事に合わせ、空中にディスプレイが浮かんで艦の側面図が表示される。

 側面図の何ヶ所かに丸が打たれ、幾つかのアルファベットが書き込まれた。そのアルファベット順に武装一覧表が別画面で記される。


 A:主砲????  1門

 B:レールガン   2門

 C:アヴェンジャー 6機

 D:ミニミサイル  2機

 E:その他


 主要武装は上の4つらしいが、その他の意味が分からない。

 試しにその他をタップしてみたところ、追加要望と切り替わった。後でケーナの要望如何でどうにでもなる部分らしい。


「何で主砲がクエスチョンになってんの?」

「はい。母さまが言うには『試射はしたが威力が大きすぎるので、撃ったら感想を聞かせてくれ』とのことです!」

「質問の答えになってない上にとてつもなく嫌な予感しかしない!?」


 さり気なく仕掛けられたT・S(テッサ)の罠に、忠誠という名のその他への悪意を感じる。一応俯瞰視覚も使用して進行方向近辺を見回っているのだが、所々に自動機械が潜んでいるのだ。それも今まで見たことのない特徴を備えた大型の物が。


 それがあまり脅威と感じないのは、自動機械たちの認識力がお粗末だからだろう。おそらくは戦艦ターフの移動によって生じる振動を感知して砂中より現れるまではいいが、姿形を視認出来ないでまごついているところを掃討されている。残骸は俯瞰視覚経由でケーナのアイテムボックスへ回収されていた。


 それは横に置くとして、今問題なのは敵を攻撃する都度、承認が必要な部分だ。


「このB以下の裁量はターフの方でどーにかなんない?」

「攻撃権の移譲ですね。(うけたまわ)りました!」

「……へ?」


 要望があっさり通ったことに拍子抜けする。

 画面表示上にもB以下がブルーに切り替わり、『攻撃をオートへ変更。以降敵を発見次第随時殲滅』という文字が流れていく。マニュアルが無い分、質疑応答すればどうにでもなったらしい。脱力したケーナは床にしゃがみ込んで頭を抱えた。


「最初の雰囲気に流されないで、質問しとけばよかった……」


 ケーナは落ち込む程度で文句までは言わなかったが、それを気にするものは別にいた。


「ほらー。ちびちびがわるいんだからひめさまがこまってるー」

「ちびちびじゃないもん! ターフだもん! 私は質問に答えただけだもん!」

「ちゃんとさいしょからしつもんにこたえとけば、ひめさまがこまることなかったんじゃないかー!」

「質問されてないのに答えることなんか出来ないもん! 無茶言うなだもん!」

「おちゃなんかたのんでないよーだ! このちびちびちび!」

「お前なんか頼まれたってだしてやんないもん!」


 唐突にターフとリュノフで始まったわうわう、ぎゃーぎゃーと意味不明な口喧嘩の応酬に、ゆっくり落ち込むことも出来ないとケーナは立ち上がった。2人の頭を掴み上げ、威圧を込めた笑みで見下ろすと静かになる。


「何でアナタたちはそう仲が悪いのかしらァ?」


 黒い人影に赤い三日月のような口が貼り付けられた、何だかよくわからない怖いものがそこに降臨した。

 ターフは耳をペタンと垂れさせて尻尾を股の間に挟み、リュノフは頬を引きつらせて視線を逸らした。腰から伸びる一対のヒレだけがじたばたとせわしなく動いている。


「た、ターフは、わ、悪くない、もん……」

「り、リュノフもわ、わるくないっ……そっちのちびが、ちびだから……」


 言い訳の途中で、左右の側頭部に拳骨が添えられたリュノフの表情が青ざめる。


「口が悪いのはアナタのような気がするわァ」


 地の底から響くようなおどろおどろしい声に、リュノフの瞳が絶望に染まる。


「ご、ごめ……」


 謝罪の言葉を口にするより早く無情にも刑が執行された。



 同時刻、オプスは頭上のブリッジより轟いた悲鳴に首筋をさすり、ファングは全身にサブイボが立ったような悪寒を感じたそうな。




「それであのような状態になっとる訳じゃな……」


 様子見に上がってきたオプスはリュノフの状況に困惑を隠せない。

 現在「ぐしぐし」と半泣きのリュノフは、ケーナが取り出したノートに『ごめんなさい』の書き取り中である。そこにはミミズがのたくったような字が並んでいた。


 ターフに至ってはブリッジの隅で壁に向かい丸くなって震えている。時々ケーナを振り返り、視線が合うと慌てたように壁に向き直ることから、リュノフの折檻で相当なトラウマを植え付けられたようだ。

 己の作り出した惨状にため息しか出ないケーナである。


「お主も手心を加えるタイミングというものを考えた方が良さそうじゃな」

「楽しそうに言わないでよ。私の起こす騒動を娯楽かなんかだと思ってるでしょ」

「こっちに降りかかって来なければ楽しめるんじゃがなあ……」

「あん時は私はいっさい命令なんかしてないって言ってるでしょーに」


 例としてダマスカスの時とか。オプスもただひたすらタイミングの悪い時に居合わせただけなのだ。ブリッジから見える空の青いグラデーションに遠い目をするオプスである。


「……? あれ?」

「どうしたんじゃ。何かあったか?」


 何気なく流れていく俯瞰視覚の風景に違和感を感じたケーナは後方に首を巡らせた。

 距離にして北に1キロメートルは離れていたが、丘のように岩山が続く一部に見慣れたものを発見したのである。


「ターフ!」

「ひっ、ひゃいっ!?」

「一旦止まって。それから少し戻って、北へ移動してちょうだい」


 呼び掛けられて飛び上がったターフは艦の制御に集中する。

 艦が巨大過ぎるために停止にはさらに500メートル程要したが、ケーナの指示に従って進路を北へ向けた。向かった先は予定航路にそって東西に広がる元は緑溢れる山だったであろう現岩山だ。


「何だ何だ、何があった?」


 急激な進路変更に異常を感じたファングもブリッジに上がって来る。

 速度を落として山裾に近付きつつある艦のブリッジで、目を凝らして周囲を観察していたファングもそれを見つけ出した。


「ありゃあ騎兵……か?」

「そうみたいね」


 そこにあったのは、砂中に半身埋もれる状態の騎兵であった。

 乗員を昇降させるための膝を付いた姿勢で腰から下が埋まっていたり、横倒しになって腕と上半身の一部が見えているだけだったりの2機だ。


 戦艦を停止させて3人で近付いてみたのだが、ここに放置されてから随分と時間が経っていたのか、操縦席の中まで砂が入り込んでいる。


「ぼろぼろだねー」

「遭難してたとしても、もう生き残りは居ないとみていいな。こんだけ錆びてるとなると」

「欠損しとるようじゃの」


 半身砂に埋まった騎兵を腕力だけで引っ張り出したオプスが呟いた。

 その騎兵は右腕が肘から無く、腰から下も千切れたように消失している。


「生身で持ち上げるんかいっ」

「おかしくはなかろう?」

「そーいやー、5体満足な騎兵もブン投げてたっけな……」


 ヤルインを発つ前の人の心をポキポキ折っていた無情な試合を思い出し、ファングは肩を落とした。

 胸部パーツも外側から引きちぎったような痕跡が見受けられる。おそらくは自動機械にやられでもしたのだろう、操縦席にパイロットの遺体などは無かった。


「あ! あっちにコンテナもある!」


 他に何かないかと俯瞰視覚でこの周辺を重点的に見回っていたケーナは、岩肌にめり込むように存在するコンテナを発見した。こちらもコンテナとそれを牽引するキャリアー共々砂に半分ほど埋まっている。


 外装のあちこちには抉れ傷や弾痕などがあり、キャリアーの方は運転席部分が完全に潰れていた。

 コンテナ側面の扉は歪んだ上に錆び付いて開かなかったので、オプスの能力で側面の外装ごと外した。


 突然砂の上に倒れる側面の壁を見てファングは目を丸くする。

 金魚のようにぱくぱくと口を開け、壁を指差す彼にケーナは「気にしたら負けだよ」と返した。


 中はベルナーキャラバンでも見たことのある3〜4人が泊まれる居住用だ。突然差し込んだ光に驚いたのか、小さな蜘蛛やムカデや羽虫などがさーっと散っていく。

 壁に備え付けの簡易ベッドに掛かっている毛布などは埃や砂がうずたかく積もっている。ケーナはコンテナが岩肌にめり込んである部分、後方扉も半開きになっているのに気付いた。


 好奇心で近付いてみようとしたが、オプスが「今日はここで泊まるようじゃな」と言ったので明日に回すことにした。



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