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4話 自動機械遭遇

 砂嵐は予想外に長引き、2人が再び日光を浴びたのは更に2日を要することとなった。


「砂嵐舐めてたわ。なにあれ。ずーっと、ごうごうびゅーびゅーと」

「移動中に出会ったら、ビバークして動かないのが一番じゃからな。けしてスキルや魔法を過信するでないぞ」

「断崖絶壁の上で吹雪に遭うようなものなんでしょ。分かってるわよ」


 これは体験したからくる例えだ。


 山脈向こうの地までトンネルを掘るより先に、山越えを計画した時の話である。


 まずは実地見聞だと行ってみたところ、とんでもない吹雪に見舞われた。

 洞窟か何かないかと無理やり進んだら谷間に落ち掛けたのだ。その後、晴れた時に周囲を見回してみればあらビックリ。木の枝みたいに張った断崖絶壁だったのだ。


 その後は道無き道を進み、やたらと出会うモンスターをバッタバッタとなぎ倒し。……が幾度となく続いたので山脈越えを断念したのだ。


 あの時の、結局空振りに終わった苦労はあまり思い出したくもない。




「見渡す限り砂ばかり、と」

「砂漠なのじゃから当たり前じゃろう」


 すでに二晩の宿であった岩山の隠れ家は遥か後方に。

 オプスとケーナの2人は周囲を警戒しつつ、ざかざかと砂漠の道無き道を進んでいた。


 近くを通るかどうかも分からないキャラバンを待たずに移動している理由は幾つかある。


 ひとつは手持ちの食料が有限であること。

 一般的な冒険者の食する物(干し肉、パン、果物)を持ってきてあるが、それでもこちらの世界では異物に該当する。その為、所持しているのはもって10日分ほどだけだ。



 もうひとつはキャラバンの使用する道が変わっている可能性があることだ。

 岩山の隠れ家にあった本や、オプスへと残された手記を調べた結果、彼がこの世界を離れてから最低でも25年経っているらしい。


「計算合わなくない?」

「時間の経過がそれぞれ違うんじゃろうよ」


 砂漠の微妙な気候の推移や、モンスター等の分布の移り変わりによって、街道自体が変更される場合があるそうだ。


「昔は直ぐ傍を通っていたのじゃがなぁ」

「昔に固執してたってしょうがないでしょう」


 なので、2人して徒歩で街があるという方角へ向かっている。


 最初はケーナが飛んで行くことを提案したのだが……。


「キャラバンに目撃されでもしたら、自動機械と間違えられて銃撃される可能性があるじゃろうな」


 の一言で、食料が尽きかけても街が見つからなかった場合の最終手段となった。


 同じ理由で先行偵察させようと思っていた風精霊も却下されている。


 その代わりといってはなんだが、ケーナとオプスの肩にはお揃いの小さなチェスの駒、歩兵(ポーン)が張り付いていた。

 慣れない砂漠を歩きやすくするための地精霊である。


 その効果により、一歩踏み出した先の砂は軽く踏み固められた場へと変化している。

 足を取られてふらふらしないし軽快に進めるため、移動速度は土の上と同じくらいだ。



「……ねえオプスー」

「分かっておる」


 途中、気怠げにケーナが声を掛けるとオプスは委細承知とばかりに頷いた。


 その途端足元の砂地が噴出し、クワガタの顎のようなものがケーナ目掛けて襲い掛かった。


 当然2人共、事前に【直感スキル】で危険を察知してそこから飛び退いていた。

 それに加えてケーナにはキーより何かの接近警報が出されていたので、オプスへ気遣いする余裕まであった。


 地中より飛び出したのは鋭いノコギリの挽き刃を備えた大顎。それを頂点としたムカデの胴体のような体躯を持つ、尻尾だか腕だかである。


 多少錆びたような節もあるが、その全ては金属で構成されている。


 長さはそれだけで6メートル弱。

 逃した獲物を求めて大顎を開閉し、駆動音を軋ませながら右に左に振れられていた。


 オプスは前に飛び出し、空中で見事な前転ひねりを披露しつつ着地。背中の帯剣を掴んだ姿勢で敵を見据えて止まる。


 ケーナは自身を捕らえる筈だった大顎を蹴って飛び、オプスと敵を挟む反対側へ着地する。

 如意棒を手に取ったところで疑問を感じ、敵の動きに首を傾げた。


「あれ?」


 ムカデ大顎は右へ左へと体を振り回し、時には丸まって力を貯め一気に解放するように伸びをし、その結果何も変化の無いことに気付いて愕然とし、そして再びもがき続ける。という行為を繰り返していた。


 要は未だに砂丘から飛び出ているのは6メートル台の尻尾だか腕だかだけなのである。


 その下に潜む全貌を現したいがそれが出来ない、というコミカルな葛藤に2人は力が抜けた。警戒態勢は抜かないが。


「何これ、どーなってんの?」

「分からん」


 2人の疑問に答えたのはその肩に乗る小さな歩兵(ポーン)であった。


 肩の上でぺちぺちと跳ねて意識を向けさせ、視線を向けると真ん丸い頭部をキラリと光らせる。『ドヤア』とも言いたげな仕草と、繋がる意識からも伝わってくる得意気な感情。


 111レベルの地精霊2体による封じ込め作戦に、自動機械は動くことも襲うことも出来ないただのもがくオブジェと化した。


 かと言ってケーナたちがこの場を離れれば、また新たな獲物を求める行動に戻るのは明らか。


「とっとと始末してしまおうぞ」

「そだね」


 オプスは首を鳴らして「デスクワーク分の運動不足を解消させて貰おうか」と大剣を野球のバッターのように構える。


巻き込まれる砂竜ブレイクダウン・ストーム


 フルスイング大回転から小型の竜巻となるまで僅か数秒。それに合わせる形でケーナも魔法を発動させた。


【サンドゴーレム返し】


 手に魔術式を纏めて地面に叩きつけるだけの簡単な作業。

 効果はもがくムカデ状触腕を砂で出来た巨大な手ですくい上げ、お空へ吹っ飛ばすことだ。


「……あ」


 胴体前半分がシャコのような自動機械は空中で錐揉みした後、引き込みの機能も持つオプス特大竜巻へ喰われた。


 ガリガリとか、バキバキとかの異音を発しながら細かくなったパーツや部品を渦より撒き散らす特大竜巻。



 不幸はこの一瞬前に重なった。


 まずケーナが魔法を行使したのと同時に、キーが地上を移動して接近してくる何かしらの物体を感知。


 次にノイズ混じりのスピーカーから吐き出される『大丈夫かー!』という声とともに人型機械がホバリングして近付いて来た。この時点でオプス竜巻はトップスピードへ。


 なお、このスキルは最低行使時間というものが設定されているために、オプスにも途中で止めることが出来ない。


 自動機械を飲み込んだオプス竜巻は見た目からして危険物だ。

 その傍に佇むケーナを救助に来たと思われる5メートル程の背丈の人型機械が『助けに来……』と言った時である。


 オプス竜巻の引き込み効果に引っ張られるも、運良く巻き込まれるのは免れた。

 しかし竜巻の外周に沿って数回回った後に、ハンマー投げよろしくスポーンと飛ばされたのである。


『ぬうわああああああっ!?!!?』

「あー……」


 悲鳴と共に砂丘に突っ込んで動かなくなる人型機械。


 その遥か後方に砂煙を上げながらこちらに近付いてくる数台の車列が見えた。


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