表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/65

35話 港町騒乱節(傍観

 ケーナがリュノフを連れてオプスらへ合流出来たのは陽も暮れて都市全体が活発になる頃であった。

 前もって連絡されていた宿兼酒場に到着したケーナとその連れを見たファングは「なんだそりゃっ!?」と目を丸くしていた。

 一杯やっていたオプスは「ぶ――――っ!?」と盛大に酒を噴き出して他の客(青猫団員)にいちゃもん付けられていたが、硬貨を握らせて争いを回避したようだ。


 昼間の騒ぎに混じっていたハンターたちも幾人かそこに居た。

 ケーナを見付けると笑いながら「おう。昼間の大道芸のねーちゃんじゃねえか」「またあれ見せてくれよ。あの雷がぴしゃーんて落ちるやつ」とか言っていた。昼間の逃走劇は気にしてないようである。


「だ、大道芸扱い……」

「あははははー」


 なおリュノフは、ファングとオプス以外には見えないようで、余計な騒動にならずに済んでケーナを安堵させていた。


 部屋に行ってから結界を敷き、昼間にあった事をオプスに報告する。

 シスターハゼらの言動に、オプスはコメカミに青筋が浮かぶくらい怒っていた。何か言いたそうであったが、リュノフが「わはー」と笑っているのを見て、怒りそのものを引っ込めていた。

 ケーナからすれば、いったいどのような力関係のピラミッドになっているのか疑問符だらけである。


「なんだよそれ……。いくら行政府の権力ったって行き過ぎにも程があるだろう!」


 何故か子供たちの境遇についてファングが1人で大激怒していた。なんでも此方側に転移してきた時にキャラバンに拾われてから孤児院に預けられ、手伝いをしつつ世話になったんだそうな。


「まあまあ、抑えて抑えて。子供たちに関してはもう心配いらないわ」

「なんで言い切れるんだよ。お前だって悔しい思いをしたんだろう?」

「だってちっちゃいこたちもうみーんなゆうかいしちゃったもーん!」

「「はあ!?」」


 周囲を無軌道に漂っていたリュノフが2人の間に割り込み、慎ましい胸を張ってふんぞり返って、ドヤ顔で言いはった。


「んーとね。T・S(テッサ)が呼び出されて、共謀して子供たちを孤児院から連れ出して、あの子が責任持って面倒みるって」

「誘拐?」

「すまん。ざっくばらん過ぎて経緯がよく分からんのじゃが?」


 頭を抱えるファングとオプスにケーナは昼間の事を順を追って説明し始めた。




 発端は「けんりょくしゃうんぬーん」と主張したリュノフから始まった。


「うーん……。リュノフ? 権力者って言っても、私に心当たりは無いんだけど?」


 今まで出会った人たちを思い浮かべながら該当者が見当たらず首を捻るケーナに、リュノフは「よぶもーん」と言いながら両腕を上から下に振り降ろした。


 ドゴバギ――――!!

「おごっっ!?!!」


 頭上に黒い穴が出現し、人が頭から落下。教会の床を突き破って直立に突き刺さった。


「…………」


 にっこにこと楽しそうなリュノフを除いて、痛い沈黙が漂う。

 落ちて来たのがケーナの知っている少女だったことに困惑し、声を掛けたものかしばし迷う。


「ふ。ふ ふ。ふ ふ ふ ふふふふ……」

「え? あ、あの〜。て、T・S(テッサ)?」


 しばらく無言空間だった教会に地の底から響くような不気味笑いが木霊(こだま)する。おそるおそる声を掛けようとしたケーナでさえも尻込みする異様さを含んでいた。


「まさかまさかこのような芸当を実行されようとはこの(わたくし)めにも見抜けませんでしたともええ」


 微妙に、笑っているのか怒りに震えているのか判別のつかない声で床に突き刺さったままのT・S(テッサ)はようやく動き出す。床に手足を付け、首を引き抜き、しかしまだ床を見つめながら言葉を紡ぐ。


「しかしながらこのような辱めを受ける云われはないと思った次第でありますわ粉骨砕身で姫様の為に尽くしたこの(わたくし)めにいったいなんの落ち度が…………ぁ?」


 顔を上げてケーナと目を合わせたところまでは良かった。

 だがケーナの肩に乗っていたリュノフに視線が移った途端、表情と動作が凍りつく。


T・S(テッサ)?」

「なんな……、なんなんなん、ななななななななな、ぁあ――――っ!!!?」


 T・S(テッサ)がリュノフを指差しての支離滅裂な反応に困惑するケーナ。

 にぱーと笑い顔を崩さないリュノフの頬をぷにぷにと突いてみる。リュノフは「きゃっきゃっ」とはしゃぐばかりで、驚く意味が分からない。


 最終的には「すんませんしたあ――――っ!!」と、見事な土下座を披露したT・S(テッサ)を見て考えるのを止めた。



「なるほどお話は分かりました」


 土下座から動こうとしないT・S(テッサ)に対し、最終手段『命令』でもって頭を上げさせ、彼女を呼ぶに至った経緯を説明した。


「でしたら姫様今すぐこの都市から退避するべきでしょう」

「なんかもの凄く嫌な予感がするけど敢えて聞くわ。なんで?」

「勿論中性子爆弾でこの都市諸共を吹っ飛ばしますyあ痛ぁっあ!?」


 ケーナは問答無用でT・S(テッサ)の頭へ拳骨を落とした。


「だからっ!! どーしてっ!! あんたたちはっ!! 選択肢がっ! 『範囲攻撃(ぷち)』の! 一択しかっ! ないのっ!?」

「あぎゃぎゃぎゃがががっ!? ウメボシはっ!! ウメボシだげばっ!? いだいいだいいだだっ!? 勘弁して勘弁して下さだだだっ!! ごべんなさいごべんなさあ゛――――っ!!」



 憔悴しきった様子のT・S(テッサ)は四つん這いになって「お話は、分かり、ました……」と仕切り直す。腕を組んで憤懣やるかたないといった様子のケーナに、リュノフの口元は微妙に引きつっていた。


「でしたら今から行って子供だけでもかっ攫って来ましょう何こちらも人類の守護を名目とするテスタメント機関教育する場などいくらでもあります故に」


 と言う提案に乗って孤児院へ突撃したのである。

 攫うにあたっては、ケーナが範囲拡大魔法の【押し寄せる羊(スリーピング・シープ)】を使用。コミカルな羊の群れが壁を突き抜けて孤児院を横断し、住人を深い眠りに落とした。


 その後はT・S(テッサ)の影から湧いた人間サイズの製図用ポージング人形が子供たちを抱えて孤児院を脱出。再びリュノフの開けた黒い穴を通って、T・S(テッサ)諸共去って行ったのである。

 去り際に彼女は「この落とし前は明日存分にしますのでお楽しみに」と言い残したので、なにやらヤバいフラグを立ててしまった気がするケーナであった。




「……と言うワケなんだけど」

「「……」」


 ケーナが話し終えると何とも言えない顔をして黙り込む2人。

 おもむろに顔を見合わせて「「聞かなかったことにしよう(ぞ)」」と頷いた。


「ちょっ、おいぃー!? 経緯を話したのにその反応はどーなのよ!」


 オプスの肩を揺さぶって不満を漏らすも「済まん。我らは、キーもそうじゃが。そこのリュノフ殿が手を出されると、何も言えんのじゃ」と言うことらしい。益々リュノフの不思議度が上がりまくりな反応である。


 ファングは「ちょっとゲーム違い過ぎるしな」と素っ気ない。

 ケーナも「聞いといてそれかい」と呆れるばかりである。確かに自分が逆の立場だったらどうしろと? と思うところがあるために2人に強く言えない。



 事が動いたのは翌日の早朝からである。

 宿の朝食で出て来た海鮮スープとパンをリュノフに食べさせつつ味わっていると街中が騒がしくなっているのに気付いた。


 時をおかずに同じ宿に泊まっていた青猫団員が「水が止まってるぞ!」と飛び込んで来たのである。

 平然としていたのはケーナとオプスだけで、酒場にいた客や従業員はその言葉を確かめようと慌てて外に出て行った。


 しばらくすると外の喧騒が騒音レベルのやかましさになり、「どーなってんだこらぁ!」とか「冗談じゃないわよ!」という怒号も聞こえてくる。


 戻って来た青猫団員の話によれば、マーライオンの噴水だけでなく、港湾部の門まで開かなくなっているそうだ。不信感を抱いた大勢の住民が大挙して行政府に押し掛けて行ったらしい。


「ほう」

「って反応そんだけか!?」


 なんの動揺も無しに皆の騒ぎを横目で眺めるだけのオプスにファングは突っ込んだ。ケーナに至ってはスプーンをくわえて、ファングの慌てように首を傾げている。


「何か心配なの?」

「水が枯渇しそうなんだぜ。慌てもすんだろう! なんでお前ら平然としてんだ?」

「水なら魔法で出せばよいからの」


 オプスに同調して頷いたケーナは「こんな風に」と言いつつ、どこからともなく取り出した扇子の先から水を噴水のようにちゅーと放出させる。

 何故かそれを見た青猫団の面々はやんややんやの拍手喝采だ。

 大道芸認定されたんなら、それらしく振る舞うついでのスキルや魔法使用にしてしまえば、周りからの突き上げも減るというものだろう。


 苦い顔でケーナの水芸を見るファングの後ろではガーディが酒瓶片手に奇声、いや気勢を上げていた。


「いいかテメェら!」

『『『『おお――――!!』』』』

「水が無ければ酒を飲めばいいんだあああっ!!」

『『『『おおお――――っ!!』』』』


「あんたたちねえ……」


 片隅で額を押さえているスバルの気苦労が偲ばれるというものだろう。


「あれは何トワネットなんだろうね」

「知るかい」


 唐突に空中画面(ディスプレイ)が酒場のど真ん中に開いたのはそんな時であった。


「なんだいこれは?」


 スバルの疑問をよそに画面の中では会議という名目の暴露が進行する。


 わずかにT・S(テッサ)の髪が映る以外は赤になったり青くなったりする行政長と副行政長の顔色が浮き彫りにされていく。話が子供たちのことになると、堪忍袋の緒が切れたのかファングも孤児院に突撃する人々へ合流しようと飛び出して行った。


「子供たちは無事だって言ったのに……」

「分かっていても憤りのぶつける先くらいは欲しいんじゃろ」


 画面の中の断罪劇をのんびりと眺めながらオプスは呟く。


 扇子を両手で持って「ぱたぱた〜」とオプスに向かって風を送るリュノフに苦虫を噛み潰した表情で敢えて何も言わない。

 かろうじて「これをなんとかしてくれ」的なアイコンタクトをケーナに送っていた。

 しかしケーナからしてみれば、今までオプスには散々苦労させられた経緯から反応が面白くて放置の方向である。


 夕方になって水道(マーライオン)が復旧し、街の騒ぎがある程度収まるまでケーナの仕返しは続いていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ