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32話 港湾都市バナハース

「またけったいな所に来ちゃったなあ〜」

「ああ、俺も通った道だ。へんな所だよなここ」


 俯瞰視覚で都市を見渡し眉をひそめるケーナと、同感だと頷くファング。オプスは何かを画策するような笑みを浮かべつつ最後尾を歩く。



 砂賊を返り討ちにしてから2日後にアクルワーズ商会率いるキャラバン群はバナハースへ到着した。

 途中砂漠モンスターや自動機械の襲撃や車両故障に悩まされたものの、当初の予定通り4日間で到着したことになる。


 スバルが言うには、これは有るか無いかというくらい奇跡的に幸運な行程だったらしい。普段は平気で3〜4日は延びたりするものだということだ。


 密かに機械にも有効なのかとケーナが試しに掛けた【行軍速度上昇】には気付かれなかったようである。


 オプス以外に気付く者が居るかどうかは甚だ疑問なのだが。


 さて、辿り着いたバナハースは港も込みでの城塞都市であった。

 上から見た形としては海に向かってのU字型で、港部分の桟橋が幾つもあるから爪の短い(くし)のような形状をしている。

 ヤルインよりはやや都市面積は小さいが、それでもU字型の幅だけでも9キロはあるそうだ。

 海はあってもオアシスは無く、だったら水はどうしているのかと思いきや、巨大なマーライオンの像の口からダバダバと流れ出ていた。


 都市の左半分が市街地となっていて、その中心部にささやかな緑地公園がある。

 その中央に鎮座しているのが高さ4メートル程のマーライオンの像だ。鋳造品のようだが、港町だというのにサビのひとつも浮いていない。


 口からは滝のような水量の水がゴウゴウと流れ落ち、下にある池は苔があるものの澄んだ色を保っていた。ここから一度濾過器を通して市民や施設へ水を行き渡らせているそうだ。


「ナニコレ?」

「これ自体が浄水装置で、海の底から取水した海水を水に変えていると、ずいぶんと昔にT・S(テッサ)に聞いた覚えがあるのう」

「「「「マジで(か)!?」」」」


 オプスの何気ない解説にケーナとファングだけでなく、その周囲にいたスバルたちも驚いていた。

 現在はスバルたちのプチ観光ツアー兼ハンター組合まで案内を受けている途中である。なんでも都市内のハンター数を把握しておかないと、組合でも緊急事に取れる対策の幅が違うのだそうだ。


「今まで謎に包まれていたマーライオンの秘密が、こんな何でもない風に解説されてしまうだなんて……」


 何故だか膝を付いてうなだれているシグがいた。


「神秘好きだったのかいアンタ」

「ううっ、姐さ〜ん」

「この程度で泣くなんてみっともない真似さらしてんじゃないよ!」


 足元に縋りつこうとしたシグの尻を蹴り飛ばし、スバルはガーディの方を振り向く。

 奴まで同じような醜態を晒してないか確認のためで、しかしそこにはガーディの姿はなかった。


「あれ、アイツ何処へ……」

「スバルさん、ガーディさんならあっちあれ」


 ケーナの指摘に逆方向を見ると、嫌がる女性を腕力だけで手繰り寄せ、手をワキワキとさせてセクハラをしようとするガーディの姿があった。


「何やってんだいアンタはああああっっ!!!!」

「アギャア――――ッ!?!?」


 銃とナイフでスバルに追い掛け回されるガーディ。

 近くにいた市民やケーナたちも呆れ顔である。


 ハンター組合は市街地の北側、港に隣接する区域にあった。

 そこから桟橋に出るには、刑務所でも建っているみたいな高く頑丈な壁を越える必要がある。なんでも一部の水棲モンスターの中には悠々と陸地に上がってくるモノもいるかららしい。一応監視塔も備えてはある。


 港の桟橋は補修跡の目立つ打ちっぱなしのコンクリートで出来ていて、波打ち際はずいぶんと削られていてボロボロだ。

 時刻は昼近かったが、港に停泊していたのはタンカー程もある大きさの船が2隻だ。

 ただし水上に出てる船体部分の厚さは無く、甲板が限りなく水面段差のないところまで下がっている妙な形である。


 なんでも漁法はかなり特殊なんだとか。

 まず乗り込むのは船を動かす人員と漁師とハンター。

 漁師は網やら竿やら銛やらで魚を捕り、ハンターは船に登ってくる魚介やら水棲モンスターから漁師を守りながらそれらを狩る。という形式らしい。

 騎兵は海水を結構浴びるから持ち込む者も稀であるとも。


「魚が登ってくんの!?」

「ああ、ヒレが脚みたいなヤツがいたりねえ。ま、ほとんどが食えるから心配しなくていいんだけどね」

「捕った魚を塩で焼いてビールでもあれば。これが定番だぜ!」

「ガーディ……。君はそろそろ出入り出来る酒場がバナハース(ここ)には無いということに危機感を覚えた方がいいと思うよ?」


 呆れたように肩をすくめるシグの態度が、ガーディの酒癖の悪さを如実に示していた。


 漁は朝、陽が昇ってから外洋に出て行き、午後には戻ってくるという。

 そのせいで魚市場が稼働するのは夕方から夜になる。そこから自宅で夕食などの流れとなり、飲み屋や飲食店が夜中まで稼働するため、必然的に都市の朝は遅い。


 ついでに港の海側にもゲートがあり、開くのに1時間以上もかかる。

 街の安全にも関わること故に、早朝から出発する訳にもいかないからだ。


「なにその厳重警戒……」

「前に夜のうちからモンスターが海から押し寄せてて、大変だった時があってねえ」


 しみじみと言うスバルに同意して頷くシグとガーディ。


「あの時はゲート開けたら海水よりモンスターが多かったんですよ」

「さすがの俺サマでもあの時ばかりは死ぬかと思ったぜ」


 もうハンター組合の前に差し掛かっていたので「なんだあの時の話か?」とか「オレもあの時のことなら色々言いたい事があんぜ」とか。あれよあれよという間にハンターたちが集まり始め“あの時の艱難辛苦を語り合う会”となってしまった。


 蚊帳の外となったケーナたちは、騒然とする場を後にしてハンター組合の中へ入る。


「騎兵ってあんまり見ないね。ヤルインは組合の周りにそこそこ置いてあったじゃない?」

「金属の塊だしな。潮風は大敵だぜ。コンテナん中から出す奴もあんまりいねえだろうよ」


 外の喧騒は中まで聞こえてくるため、受付にいる職員たちまで“あの時の艱難辛苦〜”状態となる。


 バナハースの依頼傾向とか聞こうと思っていたケーナは早々に諦めて、壁に貼ってある依頼書を眺めた。


「潮風のせいで自動機械もあまり近付かぬからのう。海産物関係の依頼ばかりじゃぞ」

「……むう」


 ざっと見る限りではオプスの言う通りらしく、自動機械のパーツ求む依頼は極僅かしかない。それもケーナが見たことも聞いたこともない自動機械の名称が書かれている。


「なにこのアダンテって?」

「一番最初に遭った奴じゃな。あのサソリ型の」

「ふ〜ん。これだけで札2なんだ。そこそこあるんだね」


 尻尾の機構部分が高額で売買されているらしい。

 ベルナーに渡した手数料としては高いのか低いのか。


 どちらにしてもバナハースよりかなり離れないと見つけるのは難しそうだ。


 とりあえず会話の途切れたところを見計らって、職員に所属をヤルインからバナハースへ移すことを伝えておく。騎兵乗り1名はいいとして、銃を使わない近接戦闘2名ということにかなり変な顔をされたが、想定範囲内である。

 さすがにこっちまで『蹴り姫』の2つ名は伝わってないようだ。


 ハンター組合の外に出ると、未だに騒がしい一団はいたがスバルたちは離れた所で待っていてくれた。


「悪かったねえ、置いてけぼりにしちまって」

「いえ。共通の苦労話が出来る戦友はいたほうが良いですよ。同じ事があった時に反省点や改善策を共有できますから」

「「「「…………」」」」

「ちょっと! なんで黙るんですか!? スバルさんたちだけじゃなくファングまで!」

「あ、ああ。済まないねえ。いつも楽しそうにぽわぽわしているケーナちゃんが真面目なことを言うもんで、びっくりしちまったんだよ」

「ぽわぽわっ!?」


 ぴしゃーんと雷の落ちた曇天を背負ってショックを受けるケーナだった。

 ……が、周囲の喧騒が静まり返って自分に視線が集中しているのに気付き、首を傾げる。


「あれ。どーしたんですか?」


「か、……雷、が?」

「お、落ち……た?」


「……あ」


 視線の集中するのは自分の背後だったことが判明し、手をババババッと振って曇天を消す。

 ついつい気の緩みからエフェクトを術者の自由に発生させる【薔薇は美しく散る(オスカル)】スキルが作動していたようだ。これでは頻繁に使いまくる長男に示しがつかないではないか。


 制止もしなかったオプスに至っては反対側を向き、体をくの字に折って肩を震わせながら静かに爆笑していた。「フォロー無しかーいっ!!」と内心で毒づきつつ、その場で目を丸くしている面々を見回す。


「あー、ええと……」


 説明して欲しそうなスバルから目を逸らし、選択したのはもちろん……。


「36計逃げるにしかずっ!!」


 アイテムボックスから密かに取り出した煙幕弾を地面に叩き付け皆の視界を奪うと、近くにあった監視塔の屋根に転移して見つからないように【姿隠し】も使う。


 そっとハンター組合の前を窺えば、煙幕の薄れてきた中でハンターたちが口々に叫んでいるところだった。


「ごほっ、あの嬢ちゃん逃げやがったぞ。追えーっ!」

「今の現象を解明しねえと、気になって眠れん。とっ捕まえろっ!」

「逃げ足のはええ嬢ちゃんだぜ。忍者かありゃあ……」


「あの一瞬で消えやがったぞケーナの奴……。おいオプス! いつまで笑ってんだ!」

「クククッ……。放っておくがよい、腹が減ったら戻ってくるじゃろう。迂闊に追い詰めると手痛い反撃をくらうぞ。それより宿を確保しておかんとな」

「なんだってアンちゃんはそんなにマイペースなんだよ。嬢ちゃんのアレは何なんだ?」

「さてな」

「まあいい。ケーナちゃんには次会ったときに問い詰めるとしようかね。宿はこっちさ、付いて来な」


 スバルたちに連れられたオプスら5人が立ち去っても、四方八方にケーナを探して散っていくハンターたちが見える。


「どっかで時間潰すしかないわね。んー……」


 雑然とする屋根並びの街中を見渡すと、ハンターにあんまり縁のなさそうな行政府側へ足を向けるケーナであった。


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