23話 トカゲ闘争
弱残酷描写かな?
【単体回復:LV2】
打撲&骨折を含めた怪我を治す最低限の魔法だ。
リアデイルには毒や麻痺等に特化した状態異常回復魔法はあるが、骨折だけを回復させるものはない。
使用したMPは【MP自動回復】のスキルにより、即時元通りとなる。つまりオプスやケーナにとっては片手間にもならない労力を行使するだけなのだ。
「タンマッ! ちょっとタンマ! 対処スキルを取るから!」
魔法に2回お世話になったところでファングは自身の力不足を痛感したらしい。
「……ええと回避……いや、違うな。まずはあっちの動きを見切らなきゃいけねえ……。んじゃ見切り……は前提が足りねえから、んーと?」
虚空を操作する動作とともにブツブツ呟きながら考え込んでしまう。
ケーナは制止が間に合わなかったために、命令続行中で襲い掛かろうとしたエルダードラゴンの尻尾をとっ捕まえた。
最初はじたばたもがいていたエルダードラゴンは、ケーナが一時中止命令を出してようやく大人しくなる。しかしその目は鋭くファングを見据え、引き絞った弓のように力を溜めていた。
しばらくして「おっしっ、これなら行ける! 来いやああっ!」と気合いを入れたファングに、ケーナが尻尾から手を離すとエルダードラゴンは突進していく。
再開1度目と2度目は、気合いの入れ方は何だったのかと思うくらいにあっさり吹き飛ばされて、回復魔法のお世話になった。
3&4度目は回避する時間が少し延びたものの、やはり回復魔法は必要であった。
5度目にも時間は延びたが吹き飛ばされた。だが初めて骨折にはならないという結果を出した。
「へえ〜」
「見たか。ガーランドのスキルを!」
胸を張るファングは「次はこっちの攻撃だぜ!」と息巻いてエルダードラゴンに突っ込んで行く。対するエルダードラゴンは首をもたげ、「シャアアアッ!!」と雄叫びを上げてそれを迎え撃つ。
縦横無尽に尻尾を振り回すエルダードラゴンに対し、ファングはスレスレで避けたり、しゃがみ込んだり、飛び越えたりと対応していく。
そしてエルダードラゴンが体全体を使った大振りを余裕で回避したファングが「貰ったあああっ!」と自動小銃を構えた時には、勝負は結したかに見えた。
だがエルダードラゴンがくるりと回り切った瞬間、向かって来るファングに負けじと突撃するまでは……。
「うばっ!?!?」
その高速直進頭突き攻撃は、対応しきれなかったファングの股間へと吸い込まれた。
「あ、ご……」
ファングは真っ白になり、股間を押さえて崩れ落ちた。
エルダードラゴンは勝利を確信するように「シャアアアッ!!」と雄叫びを上げている。
オプスは苦笑いでファングから目を反らし、ケーナはエルダードラゴンに手伝ってもらい、彼を日陰の涼しい所へ移動させた。
「おーい。生きてますかー?」
「…………」
呼び掛けても弱々しく頷くくらいで返答はない。
休憩ということでゆっくりさせればいいかと思い、エルダードラゴンにファングの護衛を頼んでおいた。
「そっちの方は?」
「一朝一夕で結果が出るものではなかろう」
ジュエルワームが潜っていった付近で佇むオプスに声を掛ける。いくらジュエルワームが地中で鼻が利くといっても、直ぐに鉱脈を見付け出せるほど感知範囲は広くない。
オプスは念の為、ケーナがファングの特訓に気を取られている時に追加で2匹を放っていた。それでも発見出来るかは「やってみなければ分からない」程度だ。
「ファングは戦えるのかの?」
「武装は貧弱だけど、スキルひとつ取るだけであれだけ動きが見違えたからね。やりようはあるんじゃない?」
ケーナの記憶にはMMOのガーランド情報はほとんど残っていない。ファンタジーモノのリアデイルと違い、近接戦闘の選択肢は騎兵を除けば数えるほどしかない程度だ。
ファングの個人的な携帯武装はガーランドから持ち込んだものなので、騎兵と同じく補給が途絶えた今は無用の長物となっている。加工販売をやっている所に弾の生成を頼めば撃てるだろうが、こちらの世界の基準から大きく外れるため加工代が馬鹿にならないのだ。
逆にファングが射撃戦闘をするためにはこちらの世界の銃器を使わねばならず、反動やら重量やらの問題で使えるものは少ない。総じてそれらの威力は低いため、実質彼の戦闘力はだだ下がりになっていた。
「ミスリルナイフでも貸し出せば、多少はマシになるかなあ?」
「絶対的な防御手段が無い限り、ナイフ1本で自動機械と近接戦闘は正気の沙汰ではあるまい」
オプスは自身の特殊能力と長きに渡る転生経験でソレを可能にしている。ケーナに至ってはスキルの他にキーの補助もあるので、オプスとてその鉄壁の防御を抜くのは容易ではない。
「……で、それはいいがの」
「うん。あれだよね」
同時に2人の視線が少し離れた砂丘へ向かう。
すでに砂丘を含む一帯の砂が崩れ、何者かの潜伏を示唆するように動きを見せている。広さにして学校の教室ひとつ分といったところだろう。
「っ!? やべえっ!」
転がっていたファングが何かに気付いたように飛び起きた瞬間、砂中にいたそれが砂の津波のような形でオプスへと襲いかかった。
「砂リュウかっ!」
「ハァ!?」
ケーナは砂津波の余波を浮遊魔法併用で飛び上がって避けた。オプスは砂津波に飲み込まれたように見えたが、近くの石柱を身代わりに崖の壁面に横向きに立っていた。
「ちょっとちょっと、こっちがエルダードラゴンであっちが砂リュウ? ここのネーミングはどーなってんのよ!?」
ファングの発言に、ケーナは心底呆れたというような溜め息を漏らす。
襲い掛かって来た砂津波の中から現れたのは、全長15メートルほどの生物だ。
ケーナが不満げにボヤいた砂リュウは、全身黄土色でのっぺりしていて四足歩行に尻尾付きの爬虫類。形状はサンショウウオそのものだ。口を開けたところで大人1人が丸々飲み込まれそうな大きさがある。
「気をつけろっ! そいつは貪欲で自動機械さえもひと呑みにするぞ!」
(腹から破られて死ぬんじゃないかなー、それ……)
呟きを飲み込み横へ視線を動かすと、目を三白眼にして機嫌の悪そうなオプスが一歩前へでたところだった。その身からは有無を言わせぬような膨大な魔力が放出されている。
「人のかなう相手じゃねー!! こうなったら俺がっ……」
「壊れかけの騎兵出してどーする気なのよ。オプスにまとめてぶっ飛ばされるわよ」
果たして砂をぶっかけられそうになったから怒っているのか、ケーナに攻撃したから怒っているのか判断に苦しむところである。
ケーナが思うに、ちょーっと自分のことに対して過保護が過ぎるんじゃないかと文句を言いたい。言ったところでのらりくらりとかわされるので、言及しないのだけど。
ファングとケーナの会話中を油断と見たのか、砂リュウは巨体に見合わぬ素早い動きで砂の上を滑るように襲い掛かった。この辺りはエルダードラゴンと似た部分なのかもしれない。
大口を開けて2人を飲み込もうと接近した鼻っ面へ、エルダードラゴンが噛み付いた。……が、砂リュウの面の皮は相当厚いらしく、痛がる反応もされぬまま突進は継続される。
ファングが恐怖に顔を引きつかせる横で、手を前にかざしたケーナが【障壁】を展開した。
「「あ」」
どごーんと音を立てて【障壁】に激突した砂リュウは弾き返された。
しかし鼻面に噛み付いたままであったエルダードラゴンは、巨体の勢いと【障壁】に挟まれて、道路で車に轢かれたカエルのような無惨な姿を晒してから掻き消えてしまう。
「ああーっ! 私のエルダードラゴンがあああっ!?」
「ハァ?」
今度はケーナの悲痛な叫びにファングが顔を引きつらせたまま納得のいかない声を漏らす。
倒したら素材が得られると言われていたモノが、跡形も無く消え去れば当然の反応だろう。
2人の葛藤を余所に、もんどりうってひっくり返り泡を吹いて伸びていた砂リュウの下から紫色の光がほとばしった。オプスがわざわざ砂リュウの下で発動させた召喚魔法陣から多数の首がせり上がる。
青紫色の滑って光る皮膚を蠢かせ、砂リュウの巨体を担ぐように姿を現したのは20本近い首を持つヒュドラだ。
意識を取り戻した砂リュウが体を起こそうともがくが、前足に、後ろ足に、背に、腹に、首に、顔面に、尾にとヒュドラの各首に鋭い牙を突き立てられ、完全に動きを封じられている。
「な、なななんじゃありゃ……」
「ヒュドラだよ。この先はちょっと嫌な光景かも」
ケーナは顔をしかめ、呆然とヒュドラを見詰めるファングを引きずってその場を離れる。
――ジャアアアアアッ!!
ヒュドラのフリーな首が耳に残る嫌な雄叫びの後、砂リュウが声にならない悲鳴を上げる。空気の通り抜けるヒューヒューという音を引き伸ばしたような、歪な声を。
ジタバタと暴れたくとも暴れられぬ力で拘束しながら、ヒュドラの各首は背負った砂リュウを解体し始めた。暴力的な力で引きちぎるという方法のみでだ。
噛み付いた皮膚を肉ごと引き千切り、吐き捨てて再び欠損した部位に噛み付きを繰り返す。
喰らうのではなく、狩るのではない命令を行使するだけの解体である。
砂リュウはみるみるうちに皮を剥がれて肉をもがれ、臓物を撒き散らして血の池となった所に骨格が投げ捨てられた。
むせかえるような血臭漂う凄惨な猟奇的殺人現場の様相に、ケーナでさえも青い表情で口元を押さえている。ファングも似たようなものでこちらの表情は青を通り越して白い。
ヒュドラは青紫色の体表にどす黒い赤を滴らせながら、オプスの後に着いてドスドスと歩いて来る。
「あ、あの……、オプス? 穏便に、穏便に、ね?」
ケーナはファングの盾になるようにオプスをなだめる。
それというのも彼が眉間にシワを寄せて、前を睨み付ける厳しい顔をしていたからだ。現にその視線を直視したファングは震え上がっている。
「何かを誤解してるようじゃが、その餓鬼を教育しようとは思っとらん。不本意だが、実に不本意だが……。身を守る程度の護衛を付けようとしとるだけじゃ」
「あ、それならいいや」
「あっさり同意するんじゃねえええええっ!!!」
血でぬめる鋭い牙をガチガチいわせながら目前に迫るヒュドラ。
庇ってくれようとしたケーナさえもオプスから訳を聞き、安堵しながら道を譲る。
どーみても餌にするようにしか見えない2人の所行に、恐怖を隠し切れないファングが絶叫しながら突っ込んだ。
「なに、安心するがいい。こいつを貴様の守護獣として“繋ぐ”だけじゃ。戦闘力は今見せた通り。凶暴な性格故、御するのにコツが必要じゃろうがそのうち慣れるじゃろ」
オプスは強引にファングの手を掴み、伸びて来た首のひとつと魂レベルでリンクを繋ぐ。
「人の話聞けよって……、うわ気持ちワリイッ!! 360度知覚してる中に俺がいる!? 慣れるかこんなもん!」
ヒュドラを見、周囲を見渡しながらファングは頭を抱え込む。
ヒュドラの蠢いていた首がファングに集中した時には、顔色をサーッと青くして後ずさる。
「どうしたのじゃ?」
「おいおいなんか自分に対して食欲を感じてんだが、マジかマジなのかっ!?」
「だから御せというとるじゃろう」
「出来るかんなもんっっ!!!!」
喉から絞り出すような絶叫を残し逃げ出すファングの後を、ヒュドラは着かず離れずの距離を開けて追いかけていく。
「オプス……。アレはさすがにどうかと思うんだけど……」
「止めて来る」と言ってケーナはファングの後を追った。
オプスは遠くに離れて行くファングに向けて風の魔法も併用し、声を届ける。
「ヒュドラに触れて『小さくなれ』と念じれば無害になるはずじゃぞーっ!!」
「――――!?」
だが返答は言葉にならない悲鳴が聞こえて来ただけであった。
「ああしておけば我等より離れて行動するという気概も湧かぬじゃろうて」
遠回しな嫌がらせも含めて、オプスの本心である。




