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21話 幕間

「うーん。どうしたものかな……」


 巨大な円筒形の容器の前で頭を悩ます少女がいた。


 なぜ少女なのかというと、誰が見ても『少女』としか答えが返ってこないからである。

 この場を見ていた第3者があとから事情を聞かれても、『そこには少女しか居なかった』と誰もが答えることだろう。場の異様さには一切言及せずに。

 それだけの認識をネジ曲げる術が当たり前に、広範囲に掛けられているだけだ。


 少女がいるのは広い倉庫である。

 ただし壁の端から端まで歩いたら1時間程の距離があるだろう。

 緩やかなカーブを描く天井も100メートル上に存在するくらいにはとてつもない広さだ。


「機械、に固定すると人の乗る物まで襲っちゃうし。かといって自動機械だけに設定するとそれ以外の派生型に見向きもしないし……」


 その容器は高さにして10メートル、直径は20メートルもある透明なケース。そんな巨大なケースの中はほぼ液体で占められている。

 液体以外に占めるものは全長20メートルもある平べったい蛇だ。異界より来訪したハンター女性によって、クリムゾンツチノコと名付けられた生物である。


 それを見上げる少女は室内の奥にも視線を向ける。

 そこには少女が見ている巨大ケースが奥へ奥へと幾つも並んでいた。


 それだけではない。見渡す限りの空間内には大小様々なサイズの透明なケースが並べられ、様々な姿の生物が収められていた。


 例えばカエル。黄土色の皮膚をしているが、背中と手足には蛇腹状のウロコで覆われている。

 戦車に匹敵するほどに大きく、半開きの咥内には鋭い牙がサメのように並んでいる。


 例えば鷲ほどの大きさのプテラノドン。全身青白く、嘴の部分だけは黒光りする槍に似た形状の金属に見える。


 他にも直立型で4メートルのトカゲやら、同じ様な直立型のカメ。極小サイズのヒルなど、多種多様な生物が詰め込まれている。


 少女は収められている品をひとつひとつ確認するように、ケースの間をゆっくりと歩いていた。

 時折立ち止まり、その場にあるケースを愛おしげに撫でながら中に入っている生物に一言、二言声を掛ける。すると中の溶液が怪しい光を放ち、ケース表面を無数の文字が流れて行く。それを繰り返し、数時間掛けながらほぼ全てを回り終えた。


 そして再びクリムゾンツチノコのケース前で思案する。


「にしてもコイツを一撃、いや2人掛かりだから二撃かあ……。姫様も以前に比べてずいぶん強力になったわねえ。一緒だったのは(カラス)だったようだけど、蛇はいないのかしら?」


 かつてこの地にいた泣くだけしか出来なかった子供を思い浮かべ、そのギャップにクスリと笑みをこぼす。


「でも今回は私が仕掛けた訳じゃないと分かって頂けたらいいなあ。手負いの自動機械をコレがあそこまで追いかけるとは思わなかったし。本能はしつこいってところ元の蛇と変わってないのかしら?」


 笑みとは一変、困った表情で落ち着かない様子を見せる少女。叱られるのを待つ子供のような反応だ。

 しかしそんな様子も数分もすれば無くなり、今度は真顔で倉庫の端を見つめる。


 そこには全長50メートルもある巨大な戦艦が佇んでいた。

 形状としては、後ろ脚を伸ばした動物を前後逆にしたようなものである。


「全く誰よ、こんなもの砂漠に放置するなんて……。私が掌握しなきゃ人類に対してとんでもない脅威になっていたわ。今後のためにも統括AIを有機生命体に変更して姫様のために働いてもらいましょう。そうね、それがいいわ」


 もはや元の所有者が居るということは念頭になく、彼女の主人に対して利用できるものは利用する精神である。


 楽しく未来計画を掲げる少女の意図を組み、あちらこちらから作業用アームが伸びて来て戦艦を取り囲む。「やっちゃって」と主からの許可を得て拾得物の改造作業が始まった。


「問題は自動機械なのよねえ。うちの子たちが出張れば簡単に終わるんだけど、対抗されて大型機械に進化なんてされたら目も当てられないわ。今のところは人類に任せるしかないわね。……でも姫様には正直に告白するしかないのかしら……。ううっ、どんなお叱りを受けるのかしら。この首ひとつで済めばいいなぁ……」


 少女は表情を陰らせ、震えながら倉庫を後にした。


 残ったのは微かなモーターの音と、作業用アームの奏でる金属音だけであった。


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