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2話 砂漠デビュー

「さて、と」


 地球でドキュメンタリー番組などを参考にするならば、砂漠地帯で遭遇するとマズいのはサソリや蜘蛛などだろう。


 が、リアデイルで砂漠(砂浜)にいたのは車のような大きさのサソリやヒトデや蟹であった。似たような状況と仮定するならば、図体のデカい毒虫が一番注意すべき生物かもしれない。


 ケーナはそれらを念頭に置き、不意打ちには【直感】スキルを当てにして、魔法の【生命感知】を発動させる。周辺1キロメートル範囲内の動物や魔物に作用するスキルだ。


 あくまで生命反応が目安なので、生きていない機械には作用しない。

 今後の課題となるだろう。

 実のところキーがそっちに備えていたのだが、ケーナには知らせてはいなかった。何事も経験と考えていたからだ。


 脳裏に表示されたマップに反応は5つ程度。

 驚くほど少ないのか、これでも多い方なのか判断に困るところである。



 その中のひとつ。


 ケーナは自身の後方5メートルに位置する光点に狙いを定めた。

 如意棒の構えを抜刀術のような腰だめに移行。

 「伸びろ」のキーワードを実行した如意棒はケーナの後方、狙った地点に突き刺さった。


 目標地点を爆発させ、砂を盛大に噴き上げた中にジタバタともがく大きな影。

 砂地に背中からぽてんと落ちたのは、2メートル程の大トカゲだった。


 砂に隠れるに適した黄土色の皮膚をしたそれは、一般的なトカゲとは少し違う姿形をしている。首と尻尾は短く、全体的に寸胴であった。


 驚きに瞬いた視線が振り向いたケーナと合うや否や、慌てて身をよじり歩行姿勢へ。ケーナに背を向けて、脱兎の如く逃げ出した。


 見た目からは考えられない早いスピードであっという間に砂丘のひとつに到達すると、頭を突っ込んで潜り込もうとする。


 しかしそんな逃亡をケーナが許す筈もない。


「に が す かあっ!」


 アンダースローを投げる動作で魔法を発動。


 【走る凍風】が砂地表面を凍らせながら一直線に氷の道を刻む。尻尾から入って首元辺りまで体表を白く染め、大トカゲはあっさりと動きを止めた。


 ケーナは仕留めたトカゲの尻尾を掴んで、ずっしりとした重さを感じつつ砂丘から引っこ抜く。砂地に刻まれた氷は熱波のせいでみるみる無くなっていった。


「結構重いなあ。食材に該当するかどうかはオプスに聞けば分かるよね」


 アイテムボックスに格納すると、再び周囲に目を走らせる。



警告(ビー)! 砂嵐ノ兆候アリ!』

「え、どこどこ? 静かなものじゃない」


 直後キーが発したアラームにキョトンとするケーナ。


 しかし【遠目】スキルでキーの指定したポイントを確認すれば、灰色の雲が予想もしないスピードでこちらに向かって来るのが見えた。

 雲の下は厚く立ち込める砂塵に覆われて、先を見通すことは難しい。


「甘くみると手痛いしっぺ返しを食らうし、ここはオプスの言うことに素直に従いましょ」


 如意棒を仕舞ってから、左右の手の平に【召喚魔法:LV1】でもって風精霊を2体喚び出す。淡い緑色で半透明な20センチメートル弱の蝶が出現した。


「あなたたちにはここ周辺の警備をお願い。あと、馬車のようなものを見掛けたら知らせてね」


 「馬車のようなもの」とは、こちらの世界のキャラバンがどういったものか分からなかったからの指示だ。他にもこの風精霊が滅ぼされるようなことがあれば、モンスターの最低レベルを推し量る目安が出来るだろう。


 今の大トカゲがゴブリン以下の手応えだったことから、動物なりモンスターなりの強さを判断をするには早計だ。加えてこの世界には人類と敵対する『機械』というカテゴリーもあるという。


 その辺りは病人だった頃、MMOのあれこれに手を出していた時に見たゲームで、似た設定のものを思い出していた。


 記憶はかなり薄れてはいるが、敵はゾンビと機械(自動で動く車や戦車)。プレイヤーは数百人単位で師団を作り、思想の違う別の師団プレイヤー群と戦う。といった具合であった。


 プレイヤー対プレイヤー形式を見るならば、リアデイルと似たところはある。


 しかし、ある事情からケーナはPVだけを見て遊ぶのを止めた。

 理由はそのPVで落下する航空機を見てしまい、自身の病床になった経緯からショック症状を起こしたことによる。


「あれはあんまり記憶ないけど大騒ぎになっちゃったよね……」

『…………』


 キーがすぐさまナースコールをし、叔父まで緊急連絡が行き、すっ飛んで来た従姉妹に泣きながら怒られたこともあって、そこの部分だけは印象に残っている。


 その後、戦争関連の映像にはブロックを掛けられ、MMOには関わらないような処置をされた。

 人だった頃のオプスがリアデイルの話を持ってきてくれなければ、一生MMOに手を出すことはなかったかもしれない。


「まあ今はこんなんだけどね。何事も経験だとしか……」

『前ヲ見マショウ』


 異世界から異世界へ。人生というの分からないものだと。苦笑しながらうんうん頷いているケーナへ、キーから笑ったような口調で注意をされた。


 もの思いにふけっているうちに砂嵐がすぐそこに迫っていたらしい。


 びゅうびゅうゴウゴウという風の音に、地面や岩に叩きつけられる砂粒の荒々しい音。ケーナは岩山の出入り口に【魔法壁(シールド)】を二重に張り、内扉を閉じて中に引っ込んだ。


 先ほど2人掛かりで苦労して開けたシャッターは、見事にご臨終となって役目を果たせないからだ。

 非力なハイエルフはともかく、身体能力重視の魔人族のパワーで引き裂いたというのが真相であったりする。




 ドーム部屋では傍らに10数冊の本を積んだオプスが、ペラリペラリとかなりハイペースで流し読みをしていた。

 足音でケーナの方へはチラリと視線を向けるだけで、本を読む手は止めない。


「ずいぶん早かったの」

「砂嵐のせいよ砂嵐の。スッゴイ速くて参っちゃうわ」


 本の山を挟んだオプスの隣に腰を下ろし、アイテムボックスからズルリと引き出した大トカゲを見せるケーナ。そこでようやく本を読む手を止めたオプスが目を丸くして獲物を見る。


「これってどうなの?」


「……いきなり高級食材を無傷で狩ってくる手腕を褒めるべきか。あっさり遭遇する運に呆れるべきか。どちらがよいかの?」

「それ遠回しに褒めたくないって言ってるでしょ?」

「褒めたら褒めたで調子にのるじゃろう、おヌシ」

「しないわよ!」


 叫びつつ「食材かー」と呟き大トカゲを再びしまい込む。

 ケーナはそのまま後ろに倒れて横になった。


「あーつーいー」

「慣れるしかないじゃろう」


 砂や汗は【浄化】魔法で簡単に落としてきたが、扉を開口したことで、じっとりとした空気が中に入り込み、黙っていても汗がにじんでくる。


 横にあった本の山から一冊を拝借し、枕として頭の下に敷く。

 暑さもあるが、転移前と転移後にはしゃぎ過ぎたこともあり、ほどなくやってきた睡魔にあらがうこともなく目を閉じた。




 静かに寝息を立てるケーナを微笑ましく見ていたオプス。

 その胸の上に半透明の蛇が出現したことで真顔に切り替えた。


『ケーナ様ニハ奴ノコトヲ御教エセヌママデ良イノカ?』

「まだあの時代の記憶が全て蘇った訳でもない。兆候はあるからそれ次第じゃな」


 顎に手を当てて言葉を選びながらのオプスにキーはひとつ頷くと姿を消した。


「さて、な。問題は奴がどう動くかじゃろう……」


 どこかの虚空を見やってひとりごちるオプスは、ケーナの寝息をBGMに再び読書を再開した。


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