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18話 勝利のあじ……み

「オプス。あれに加勢するよ」

「なんじゃ、どうし……」


 通信機のスイッチを切り、歩み寄って来たケーナ。

 顔は笑っていても目がすわっているのを見た瞬間、オプスは何を言っても無駄になると悟った。


「下手すれば魔女裁判になりかねんじゃろう?」

「あれくらいなら派手な魔法はいらない気がするけどね。それよりも……」

「それより?」

「ム カ つ く」

「あー……」


 戦場に視線を飛ばしながら、如意棒を強く握り締めたケーナより不可視の衝撃波が周囲へ放たれる。

 人が飛ばされるほど強くはない。しかし肌にピリピリと感じる威圧感が含まれていて、クリムゾンツチノコが戦車への追撃を一瞬弱めたくらいだ。


「キングさんやスバルさんと言葉を交わして、悪い人たちじゃないと確信できたし。銃を持っていない私たちを役立たずだと非難もしないし。口が悪いガーディさんも、寡黙なシグさんも、罪を償うのに前向きなフォルさんとエーデさんも、みんな私たちに好意的だし」


 悲鳴と怒号が飛び交う戦場を、オプスの肩越しにケーナはじっと見つめる。


「何より力を隠すことと、窮地に陥った人たちを助けるのは別のことだと思う」


 言いたいことを言ってから気が付いたが、何の反論もないオプスに不審を感じ顔色をうかがう。当人は諦めきった表情でケーナの視線に頷いた。


「……まあ、ケーナの好きにすればよかろう。我はお主の意向に従う者じゃからな」


 ケーナの中のキーからも同じような肯定の意思が伝わってくる。


「うん、ありがとう。でも道を間違えたらちゃんと矯正してね」

「その時はお主の聞き分けが良きことを祈るとしよう」

「駄々っ子みたいに言わないでちょうだい」


 身の丈の倍ある巨大なハルバードを取り出し、ひと振りして肩に担ぐオプス。

 ケーナは左腕に折り畳まれていた弓を展開し、少し考えてから鉄の矢をつがえた。


「見た目400レベルってとこかな?」

「500にはいってないとは思うのじゃが……」


 世界が違う理由と思われるが、他人やモンスターや自動機械に関しての鑑定スキルは当てにならない。何故か名前もステータスも、全て文字化けして表示されるからだ。


 クリムゾンツチノコが頭を大きく振り回し、騎兵が弾き飛ばされる様を見たケーナは弦を引き絞る。


「じゃあ行くよ! 【付加爆裂】」


 赤い光を纏った矢が吸い込まれるようにクリムゾンツチノコの左目へ命中する。

 眼窩だけに留まらず周囲の肉や骨にも爆発の影響が及び、頭部の5分の1を消失させた。体を捻らせながら苦悶の絶叫をあげ、苦しむクリムゾンツチノコ。


 予想より広い範囲に効果が及んだことに首を傾げつつ、通信機のスイッチを入れた。


「やれやれ……」

「いやー、クッチーさん楽しそうですね。私も混ぜて頂けませんか?」


 【強腕】スキルを使用したオプスのハルバードが唸りを上げた。




「300くらいだったね」

「もう少しあるかとは思ってたのじゃがなあ」


 オプスの放った一撃が頭蓋骨陥没。

 ついでに脳管までも破壊されたようで、クリムゾンツチノコは絶命した。


 もの云わぬ死骸に手応えのなさを談笑する2人に6対の視線が突き刺さる。


「おい、お嬢ちゃん……」


 驚愕を通り越して無表情になったらしいキングと、煤汚れてはいるが無事なフォルとエーデ。

 目を丸くしたスバルの後ろにはガーディに肩を貸して貰って立っているシグ。怪我はしているようだが、軽傷のようだ。

 6人は頬を引きつらせてケーナらに視線を送っている。


「あー……、ええと。皆さん無事で何よりです」


 ケーナは特大の汗を垂らしながら6人に会釈をすることから始めた。

 オプスは後ろで静観するだけに留める。何の結果が出てもそれを受け入れるだけのようだ。


「いったい何がどうなってんだ……」

「「「「「……」」」」」


 目の前の現実を経過を脳がイコールで結び付けられ難く、沈黙が6人側に漂う。

 ケーナも何から説明すればいいのか分からなくなり、率直に頭を大きく下げる行動にでた。


「ごめんなさいっ!」

「えっ、おい?」


 戸惑うキングたち。

 オプスはやはり予想通りになったかと渋い顔だ。


「実力隠していてごめんなさい。皆さんが苦戦してるの分かってたんだけど、助けに入ってもいいかって葛藤してたってのもあるんだけれど迫害されるのも怖いっていう部分もあってでもここで知り合えたって縁も切りたくなかったし誰かが死んじゃうみたいな場面も見たくなかったしそれでそれでええとええと……」

「あああっ、ちょっちょっと待てってアンタッ!」


 言い訳中にテンパって早口にまくし立てたケーナの肩を、スバルが掴んで止める。


「ふえ?」

「言いたいことは伝わったからちょっとお待ちよ。なあ?」


 背後に振り返ってキングたちに問い掛ければ、戸惑いながらも全員が「あ、ああ」とか「お、おう」とか返してくる。

 スバルは一度だけ深呼吸をすると、ケーナの頭に軽く拳骨を落とした。


「へっ?」

「見くびるんじゃないよ。確かにアンタみたいな小娘があんなデッカイモンスターを一捻りするなんてぇのはビックリしたけどね。ハンターは実力主義さ。ソイツが持ってる力をどう使うかなんて、人が指図することは出来ないのさ」

「……はい」


 落ち込んだ様子から持ち直して頷くケーナに苦笑するスバル。


「おう、そうだぜ嬢ちゃん! 嬢ちゃんやニイさんの所業には驚いたが、気にすることはねえ! 命が助かったてえのにその恩人を悪く言う奴はそれこそ人でなしだ! まあ出来れば、もう少し早く助けに入ってくれりゃあ、弾が無駄にならなくて済んだんだがな」


 その後ろからニカッと笑ったキングが続くが、後半の発言に肩を落としたスバルにド突かれる。


「ヘンな一言を付け加えるんじゃないよ! どっちが恩知らずさね、まったく」

「おお、すまねえすまねえ。わははははは!」


 キングのさっぱりとした感じに、他の者にも笑いが伝播する。

 ほっと胸をなで下ろしたケーナはオプスに振り返り破顔した。


「怖かったー」

「やる前の度胸は何だったんじろうな?」

「それでもドキドキだったよー。スバルさんスゴイ。お姉さんって呼びたい」

「……oh」


 キラキラした尊敬の眼差しでスバルを見つめるケーナにちょっと引くオプス。


 そもそもケーナは桂菜だった頃、事故で入院していた時に姉御肌の従姉妹に世話をして貰っていた経歴のせいで、似たような年上の女性に懐きやすい傾向がある。


(追っかけにならない程度に手綱を引き絞るべきなんじゃろうなあ……)


 密かにスバルへ星の瞳を飛ばしトリップするケーナを、どうやって引き戻そうかと渋面になるオプスであった。


此度(こたび)の姫様はずいぶんとまあ愉快な仕様になっているわね』

「そう思うのじゃったら少しは手を…………」


『あ、やっべ』


 何気なく通信機から聞こえてきた声に普通に会話しかけたオプスが固まる。


「ってちょっと待てっ! お主いつの間に憑いておった!?」

『ハッハーッ! それが私の私たる由縁。でわさらだばー!』

「待たんかこのバカタレ!」


 軽快な声があっさりと別れを告げ、通信機をひっ掴んで怒鳴るも返答はない。


「のうのうと聞いておったとはあのクッソ阿呆が……」

「なにしてんのオプス?」


 腹立たしさに悪態を吐くオプスを首を傾げたケーナが覗き込んでいた。

 トリップ行為は終わっていたらしい。ついでにいうと他のメンバーの姿もない。


「とりあえず野営地まで戻ってアテネスさんたちに報告するって」


 騎兵を乗せた装甲車とか、あちこち傷だらけの戦車の尻がこの場から遠ざかっていく。戦っているうちに野営地からずいぶんと離れていたらしい。


 クリムゾンツチノコの死骸についてはこのまま放置するそうだ。

 組合には戦闘中に撮っていた映像やら写真やらを編集してから提出するとのこと。


「放っておけばアリが片付けてくれるとかなんとか言ってた」

「持って行けぬからのう。現地の虫共に任せた方が適任じゃろう」


 この砂漠でアリというのは、兵隊アリで体長が1メートルもある大型のモノだ。

 羽があり、普段から10数匹の群れが高々度を漂っているらしい。獲物を見つけると舞い降りて来て確保するが、近くに人などが居た場合は獲物とカウントされ一緒に巣に運ばれるのも珍しくないとか。


 ケーナはそこを離れる前に、クリムゾンツチノコの肉を手のひらサイズで切り取っておいた。


「果たして食用に足るのかな?」

「食えれば乱獲する気かの?」

「うーん。アレどー見ても砂漠の生物じゃないよね、緑色だったし」

「この辺に森林地帯があるなんぞ聞いた記憶はないのう」

「風精霊ちゃんの(かたき)でもなかったみたいだし。下手人はどこ行った……」

「時代劇かっ」

「だってアレ陸生だもん。空で偵察してた風精霊ちゃんをどーやって倒したと?」

「まだ課題は残るのか。面倒じゃな」


 あーでもない、こーでもないと砂漠の生態系について考察する2人が野営地へ辿り着いた頃には、夜の(とばり)が下りかかっていた。


 「私たちも見たかった」と残念がるアテネスらを放置し、ケーナは夕飯の支度を始める。

 ついでに細切れにした蛇肉を串焼きにし、味付けに塩だけ振ってガーディへ差し出した。


「はい、ガーディさん約束の一品」

「う、……ぬう」


 レバーのような表面から湯気を立ち昇らせる無臭肉。漂ってくるのは焼き塩の匂いばかりである。

 妙な(うめ)き声をあげて固まるガーディをエーデが背後から羽交い締めにした。


「お、おい!? お前らっ!」

「さあガーディ。約束は約束だぜ」

「そうさねガーディ。アタシらにひとつ漢を見せておくれ」


 ケーナから串を受け取ったスバルが、蛇のような黒い笑みを浮かべガーディに肉迫する。


「おおっと。ガーディ殿はスバル殿からのご褒美に緊張しておられる様子。ここは俺が筋肉をほぐして差し上げよう」


 キングもニヤニヤと獲物を見つけた猛獣のような笑みで、ガーディの口をこじ開けた。


「はへっ! はへはん! ははへはははふっ!」

「さあガーディ。可愛い女の子の手料理だよ。嬉しさもひとしおさね。観念おし」

「ふほっははへへへーらっ!」


「さあ、さあさあさあ」

「「「さあさあさあさあ!!」」」


 紺色に染め上げられた夜空に野太い男の悲鳴が響き渡った。







「……で、お味のほどは?」

「マズ塩いっ!」

「味に難あり、と」



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