17話 襲撃
それからアテネスも交えて簡単な作戦会議を行った。
アテネスは最低条件として、自分を含む研究員とデータが無事であればいいと言ってきた。コンテナ自体が耐爆構造だというので、そこに閉じこもるそうだ。
「コンテナに近付かれたら我々の負けだな」
風化で渓谷となった場所の北側方面に、幾つかの地雷を仕掛けるなどの予備策を労した。
それでもスバルたちが所持していた地雷は極わずかであるため、役にたったら儲けもの程度と考えていいだろう。
オプスは念の為といって、コンテナ周りに結界柵を構築。
これは杭状の魔力術式を地面へ打ち込むので、傍目にはコンテナを一周したように見えるだけだ。
「これを起動することになったら最後の手段じゃな」
「使うのはいいけど、その後の説明がメンドー。いい人たちなんだけどねえ」
最悪は迫害を受ける可能性があるだけに落胆を隠せない。
如意棒を取り出して一振りするケーナに、戦車から顔を出していたエーデが目を丸くする。
「おいおい、それどこに隠し持ってたんだよ……」
「何時も常備してます。必需品だね」
「質問の答えになってねーよ」
誤魔化すようにケラケラ笑うケーナにジト目を送るエーデ。待っていても望む答えは返って来ないと分かったのか、通信機を投げて寄越す。
「これ持ってろ。電源は入れっぱなしにしておけよ。戦車の射線上に飛び込んで来るんじゃねーぞ」
「ご忠告感謝しますわ。最後の手段を使う時はそちらも気を付けてね」
「はははっ、なんだそりゃ」
ケーナがウインクを飛ばせば、エーデはただの冗談と思ったのか笑いながら中へ引っ込んだ。
◇
取れる手段は全て整えた頃にレーダーが接近してくる動体反応をキャッチした。
陽は中天に輝いている。
「今晩のメシは嬢ちゃんに肉料理でも作って貰いたいね」
装甲車の操縦桿を握るガーディが、ワザと明るく振る舞う。スバルは夕飯の心配をする余裕があるのかと思ったが、当事者からは脳天気なコメントが飛び出した。
『今来てるヤツが食べられればいーですねー』
「そうだな。ここを切り抜けられたら食ってやんぜ」
『おー。ガーディさん太っ腹。言質はとりましたからね。これを聞いてる皆さんが証人ですよー』
緊迫した雰囲気をもダレさせるようなのんびりとしたケーナに、通信を繋いでいる各所から笑いがこぼれる。
『おいおい。早まったんじゃねーかガーディ……』
『やつは犠牲になったのじゃ。ゲテモノ料理のな』
「まだ死んでねーっつーの!」
通信に響くガーディの叫びにさざなみのように笑い声が広がる。
「ムードメーカーとしての才覚はあるんかねぇ。あの子は……」
「あん? 姐さんなんか言ったか?」
「そろそろ来るよ! ぼさっとしてないで前をお向き!!」
「お、おう! スマン」
なんとなく呟いた独り言を聞きつけられ、恥ずかしくなったスバルはガーディの椅子の背を蹴って前に注意を向けさせる。
ずるずるぴょん
ずるずるぴょん。
這って跳ねるというような移動手段でもってそれは姿を表した。
全身は濃緑色のウロコで覆われ、手足はない。胴体は短く寸胴で平べったい。口先からはチロチロと出入りする先端が二股の赤い舌。頭はまごうことなき蛇そのものだが、普通の蛇は頭頂部から胴体半ばまで炎のタテガミなどは備えていない。
一番異様なところはその大きさであった。
全長は約20メートル弱。
キングの所持する戦車のほぼ3倍近い。
鎌首をもたげ、金色の縦に裂けた瞳がその場の面々を睥睨する。まるでこちら側がカエルになったような閉塞感が、各々の心に影を落した。
「なっ……、なな、な何っ」
「……っ!?」
『『『なんっじゃ、こりゃあ……』』』
『まさ、か……』
近くの仲間も通信で繋がれた者たちからも、全てにおいて驚き、絶句し、恐怖に呑まれかけていた。
彼等が自分たちの置かれた現実に帰ってこれたのは、脳天気な2人の会話によるものだ。
『おおおおっ!? つ、ツチノコだよオプス。ツチノコ!』
『落ち着け。その言い方だと我もツチノコの仲間みたいに聞こえるから止めよ』
『赤いタテガミがあるからクリムゾンツチノコ。略してクッチーだね!』
『何でも略せばいいというものでもあるまい』
『さすがオペケッテンシュルトハイマー・クロステットボンバー様は言うことが違う。棚上げカコワルい』
『…………』
『さ、作戦開始ィ!!』
そんな漫才が功をそうしたのか、ひっくり返った声のキングから号令が掛かり、各車両が一斉に動き始めた。
『こんなデカいなんて想定してないぞ……』
小回りが効く騎兵でジグザグにクリムゾンツチノコに接近し、顔面に向かって目眩まし(コショウ&唐辛子)弾を打ち込んだシグがボヤく。
破裂した催涙弾もどきは、チロリと出された舌に弾かれ、あさっての方向へ飛んで行った。多少は舐めとったようで、舌が不規則に震える行動をとったぽい。
しかしそれだけでクリムゾンツチノコの興味を引いたのか、後退する騎兵の方へと動き出す。
方向転換した直後に腹側で数点の爆発が発生したが、さしたる被害もなかったようでそのまま前進を続けている。寸胴から動きが遅いかに見えたが、ひと跳ねであっさり追い付き、騎兵が丸呑み出来そうな口がパカッと開く。
そこへ轟音とともに放たれた戦車の砲弾が、頬骨の辺りに命中した。
SYAAAAAAAAA!!!
幾つかのウロコが弾け飛び、痛みを訴えるような叫びをあげるクリムゾンツチノコ。
『おいおい徹甲弾だぞ、徹甲弾。まさかそれだけしかいかねーとか……』
『わはははは! さすが巨大生物、そうでなくてはな!』
『いや感心している場合じゃないでしょうキングさん!? あれだと同じ箇所に数回当てる必要がありますよ』
『そりゃ狙うしかなかろう』
『停まってんならともかく、あっちもこっちも動き回ってんのにかぁ? 無茶言うぜ』
戦車は後方に下がりつつ撃ち方を始めるも、外れてどこかへ飛んでいくのもある。起伏の多い砂丘を動き回っていれば当然だろう。それでも当たればその着弾場所のウロコを剥がすが、表面を削るにとどまって内部まで影響を及ぼしてるとは言い難い。
クリムゾンツチノコが戦車に狙いを定めて動き出せば、横合いから騎兵のライフル射撃が飛ぶ。後方に回った装甲車からはハッチから半身を出したスバルが機銃を撃つが、効果の程は首を傾げるような状況だ。
『ええいもうどーすんだい! キングにばっか負担が行ってるじゃないか!』
騎兵の射撃に煩わしそうな素振りを見せるが、今のところクリムゾンツチノコがメインに狙うのは戦車である。
決定打を与えられずに撃ちまくっているだけの状況では遅かれ早かれ弾薬の限界が来る。何か打開策をと周囲を見渡すスバルは、さっきから通信上静かな2人組を見つけた。
ケーナはオプスに詰め寄って一方的に何かまくし立てているようだ。それが聞こえないのは2人が通信機を切ってるからに他ならない。
「姐さん! シグがっ!?」
ガーディの悲痛な叫び声に視線を向ければ、大きく首を振ったクリムゾンツチノコにシグの乗る騎兵が跳ね飛ばされ、砂丘を数十メートルも転がって行くさまだった。
「シグッ!? 」
スバルが何かを言うよりも早く何かが飛来して、クリムゾンツチノコの左目が爆発した。肉片を四方に撒き散らしながら、体全体を捻って悲鳴を上げるクリムゾンツチノコ。
JYAAAAAAAAAA!!?
「「『『『なっ!?』』』」」
その場の全員が絶句する中、左腕に白銀の弓を展開したケーナが不敵な笑みを浮かべてクリムゾンツチノコに歩み寄る。後に続くオプスは身の丈の倍もあるハルバードを肩に掛け、諦めきった表情をしていた。
『やれやれ……』
『いやー、クッチーさん楽しそうですね。私も混ぜて頂けませんか?』
悪魔の降臨した瞬間であった。
2人が実力行使に至った会話については次回。




