15話 フィールドワークとメンバー
遅くなりました。
護衛依頼で集まった8人。
先ほど隊列の先頭を走っていた戦車の乗組員は3人。
「わはははっ! お嬢ちゃんとニイちゃんが補充組か! オレはキング。キング・オディだ! 後ろの2人は部下のフォルとエーデ。合わせてよろしく頼む」
「はあ……、ケーナです。よろしくお願いします」
「オプスじゃ。よろしく頼もう」
3人組みのリーダーのキングと名乗る男は、角付き兜でも被れば立派な海賊に見えるマッチョマンなオヤジだった。
それに付き従う2人の20代くらいの青年兄弟。フォルが兄でエーデが弟とのこと。
迷彩の服とヘルメットにライフルを背負っている。そこまではいいのだが、ケーナが気になったのは2人の首に嵌っていた黒い首輪だった。
オプスが眉をしかめたケーナを小突いて「この場は黙っておくがよい」と忠告を入れなければ、キングに突っかかって行ったかもしれない。
この世界での黒い首輪をしている者は基本的に奴隷である。
売り買いされる奴隷とはまったく違い、罪人奴隷とか行政奴隷とか呼ばれていた。
そうなった理由としては、人の絶対的数が少ない今日。
刑務所に突っ込んで管理する手間も人員もないからだ。
この世界は裁判所に当たる省庁が機能してないので、その施設を兼ね備えるのは各市を束ねる行政機関となる。
犯罪者は行政機関で処罰の度合いが決められ、黒い首輪を付けて労働者という名の奴隷となり、各部署へ回されるのだ。
ヤルインでは壁の補修をしていたり、巡回警備に出たりしている半数がほぼこれだ。
首輪は刑期が過ぎれば勝手に外れ、それを行政機関に持って行けば釈放されたことになる。個人の管理下にいる者の中には、刑期が過ぎる前に使い潰されるのも少なくないとか。
尚、奴隷になっている間は給料等は支払われず、その奴隷が所属している施設なり機関なりチームなりが衣食住を保証することになっている。
その日ケーナはキングの動向を窺っていたが、フォルとエーデを不当に扱うような感じは見られなかったため、文句をつけるのは保留にしたという。
「どうした、お嬢ちゃん?」
「いえ、何でもありません。……どうぞ先を」
「そうか。何かあったら遠慮なく相談には乗るぞ。はははは!」
「……はぁ」
始まったミーティングだが、参加するのはスバルとキングとケーナたちだけだ。
フォルとエーデはケーナたちにペコリと頭を下げて戦車の方へ戻っていった。シグとガーディは騎兵を起動させて、キャリーから降ろす作業をしている。
「護衛任務と言ってもそんな難しいもんじゃないよ」
顎をしゃくって研究員たちを指すスバル。
「あいつらは基本あそこから動かないでデータ取りをしてるからね。アタシらはあの周辺を固めるだけさ」
地面に幾つかのアンテナを数本立てて風を測定している研究員はまだいい。アテネスのようにメモを取りながらあちこち歩き回ってる者が問題である。
「研究という餌をぶら下げられた者ほど危険な場所へ飛び込むもんさ。前回はそれで仲間が自動機械にやられて1人がおっ死に、1人は未だベッドの中だ」
悔しさを表情ににじませ、吐き捨てるような言動のスバル。
他人とはいえ、同じハンター仲間を助けられなかったところに後悔があるのだろう。
「すまないけど2人にはそういった研究員の護衛を任せたい、んだけど……」
そこで口を濁らせたスバルはケーナとオプスの武装を見て顔をしかめた。
「銃は持ってないのかい?」
オプスは腰にロングソード。ケーナは左腕に折り畳まれた弓という武装以外に武器らしき物はない。
スバルら、この世界の住民から見れば「やる気あるんかい」と叱咤されること間違いない姿である。
「まあ待て」
二の句が継げないスバルの肩をキングが叩く。
「そっちのお嬢ちゃんは噂に聞く【蹴り姫】だろう。なら丸腰でも問題はないんじゃないか」
「「は?」」
スバルはまさかという顔で、ケーナはナニソレという疑問を浮かべてキングに聞き返す。
「はっはっはっ。まあ、こういうのは本人に情報は届きにくいと言うしな。砂アゴを蹴り殺したのはお嬢ちゃんだろう?」
「はあ、まあ、そーですね」
「マジか!?」
心底驚いた顔のスバル。
あの時は、皆に誇らしげに顛末を語るラグマを口止め出来るような状況ではなかったので、ケーナは素直に認めた。
二つ名になっているのは本人も初耳なのだが。
「ほんっとーにケーナがあの砂アゴを殺ったのかい?」
「ええ、回し蹴りですぱーんと」
スバルより再度確認されたので潔く頷くと、この世の終わりのような顔をされた。
本来ならばマシンガン等を弾切れになるまで撃ち込んで、やっと倒せるというモンスターだ。今までの常識を覆すような所行に、スバルは頭痛薬が欲しくなった。
自身の規格外さをケーナが認めたことで、多少の遠慮は要らないとオプスもやらかした。
スバルが「そっちは何が……」と言いかけたところで剣を抜き、斬撃を放つ。一応視認してもらわないといけないので、かなりの手加減を用いてだが。
人の背丈くらいの三日月型の斬撃が飛び、砂丘を切り裂く。ゲーム時代だったころは、初心者の使用する攻撃方法で割とポピュラーな中距離射撃スキルだ。
こちらの世界ではまずお目にかかれない戦闘技術に、スバルとキングの目が点になる。
「なに、人は鍛えればこれくらいのことは出来るようになるじゃろう。何事も努力じゃ」
「能力値チートの魔人族が言っても説得力がないでしょーが!」
「ひはうはひはえは」
オプスの頬をびろーんと引っ張るケーナ。ついでに腹に膝蹴り入れるのも忘れずに。
待ち構えて腹筋に力を入れていたオプスは毛ほども動じていなかった。
「わ、わはははっ! 2人揃って規格外とはたた頼もしい! その調子で砲撃戦になったら殿を努めてくれ!」
「キング……。言ってることが支離滅裂じゃないのさ。アタシもまさか白い牙以外に非常識がいるとは思わなかったけど」
「ほわいとふぁんぐ?」
聞いたことはないけど、どこかアレな名称だなあと首を傾げるケーナ。言ったスバルは頭の痛い問題だというようにしかめっ面をしていた。
「特注の白い騎兵を使っているとかいうハンターのことじゃな」
事前に情報を得ていたオプスが簡単な解説を入れる。
「はっはははっ! あいつはかなりの個人主義で変わり者だからな。お嬢ちゃんは近付かん方が身の為だぞ!」
「キングも充分変な奴だと思うが」というスバルの呟きは聞こえなかったことにする。とりあえずケーナたちは、研究員の固まりから離れる問題児に集中すれば良いということが分かれば充分だ。
トレーラーの方では外に出ている研究員は3人で、タブレットの端末機片手にマイクスタンドのような機器を設置している。その内の1人。30代女性の研究員は、高い壁を見上げながら近くで周囲を警戒していた騎兵に声を掛けた。
「ちょっとそこの!」
『は? あ、オレか』
「これをこの上に置いてくれない?」
『えーと?』
周囲で経緯を見ていた他の者も、騎兵を操縦しているシグも「いやそれは無理だろう」という思いで一致していた。
スバルたちの使う騎兵は旧式で、コクピットブロック兼胴体に腕があり、脚がキャタピラというチンチクリンの機体だ。全高も3メートル弱しかない。
研究員の指す壁の上は騎兵の倍以上の高さがあるため、どうやっても届かないのは明白だ。
「ウチの騎兵じゃ無理だろうよ」
「じゃあ何のためにあるの!? こんな時のためでしょう!!」
ヒステリックに叫ぶ研究員の態度にイラッと来るケーナ。スバルは無理難題は慣れているのか、やれやれと呆れ顔でガーディへロープを持ってくるように頼む。
「まあ落ち着くがよい。これをこの上じゃな?」
「そうよ。早くしてちょうだい!」
間に割り込んだオプスが機器を受け取って、ケーナに視線を向けた。
言わんとすることを察したケーナは、機器をオプスより受け取り壁を見上げる。
「おいおい、ちょっと待てお嬢ちゃん。この高さだぞ?」
キングが静止しようとしたが、ビル三階分に相当する高さなど【跳躍】スキルで充分だ。
皆が固唾を呑んで見守る中、少しの助走とオプスの肩を踏み台にして難なく壁の上に到達したケーナにスバルたちから拍手喝采が飛ぶ。
「「「おおーっ!」」」
「やー、どーもどーも」
「ちょっと早く置いてちょうだ、ヒイィッ!?」
尚も喚き散らす研究員をオプスがひと睨みで黙らせる。
「彼等にはこちらから頼んで来て貰ったんだ。あんまり心証を悪くするような言動は謹んでくれ。部下の非礼は謝るからキミもその物騒な気配は収めてくれないかい?」
視線の間にアテネスが割り込み、オプスに頭を下げて、女性研究員を追い払う。
ハラハラして見ている方を気にしないで事も無げに降りてきたケーナをアテネスは興味深そうに見た。
「うーん、あの娘凄いね。データ取りたいなあ」
「ケーナが了承すれば構わぬが、それ以外で手を出そうものならば、我の逆鱗に触れると思うのじゃな」
「その時は誠心誠意正面から直談判するよ!」
目の前でチンピラの惨劇を見たからこその反応である。
アテネスは背中に氷を差し込まれたような悪寒に襲われ、嘘偽りなく言い切った。
◇
その日は特に何事もなく陽が暮れ、騒動っぽいものは夕食の時間に起きた。
「夕飯? ああ、個人個人で良いんじゃないの」
「メシか。固形食とかあるだろう。もしかしてお嬢ちゃんは持って来てないのか?」
スバルとキングに素気ない返答を貰い、あちらの世界との違いにケーナは思い悩む。
「みんなで野営とはいかないものなのねえ。同じ釜の飯を食べてこそじゃないのかな、こういう仕事って」
「郷に入っては郷に従えとは言うじゃろう。……と言っても素直に聞くとは思えんし。好きにすればいい」
「んじゃさっそく」
いそいそとアイテムボックスから幾つかの食材と寸胴鍋を取り出し、食料スキル【闇鍋】を行使する。程なくして野営地にとてつもなく美味しそうな匂いが漂い始めた。
戦車や装甲車に引っ込んでいた人々を炙り出すには問題なかったようで、匂いに釣られてふらふらとスバルやキングがケーナたちの所へ集まってくる。
そのヨダレが垂れそうな匂いとは裏腹に、鍋を覗き込んだ一同はギョッと顔を引きつらせた。
寸胴鍋にたっぷり煮込まれていたのは、ボコボコと泡を吹く紫色の液体に浮き沈みする肉や野菜である。
「えーと……、食えるのかいこれ?」
「むむむむむっ」
見た目に「騙されたっ」と尻込みするキングとスバルたち。
「まあまあ、まずは食べてみてよ~」
器によそった得体の知れないスープを渡されたキングは、目を見張りダラダラと脂汗を垂れ流したのち、「ええいままよ!」とひと息に飲み干した。
「…………」
「き、キング……っ」
口に器を突っ込んで天を向いた姿勢のまま固まるキングに、スバルたちの顔色が青くなる。
もしやアレが致命傷となって最期を迎えたのではないか? などと心配になり静寂がその場を支配する。
皆の緊張が限界に近付いたころ、ようやくキングが動き出した。
「もう一杯くれ!」
憑き物が落ちたような晴れ晴れとした笑顔に、周囲で様子を窺っていたスバルたちは毒気を抜かれた。
「ほら何をしている? フォルもエーデも遠慮せずに食ってみろ!」
「「は、はい」」
キングに促され、紫色の液体に口を付けた2人の表情が驚きに変わるのに時間は掛からなかった。
「おいしーでしょう」
「「はい!」」
それだけの反響があれば、敬遠してた者たちも我先にと器片手に鍋へ群がる。
「うまいっ!」
「マジになんだこれうめえっ!」
「ケーナ、アンタ隠れた才能があったんだねえ。これだけのことが出来るんだったら先に言ってくれりゃあ……、あっこらっ。オマエたちだけでバクバク食うんじゃないよっ!」
「何故だっ、何でこの味でこの色がでる!?」
「野菜と鶏肉でどうやったらこんな……実に研究しがいがあるね!」
「……あれ?」
何故かいつの間にか研究員たちも混じって、鍋の争奪戦を繰り広げていた。




