《革命という名の出逢い》
月日の流れをこんなにも早く憎く感じたことはなかった、20数年で最も短い60日を私は過ごしたのだ。
「神様のばか・・・って、神様は私か」
アホのように一人でツッコムが誰もいない部屋に虚しく響くだけ。
世界がここまで無情なのはきっと私が神様だと嘘をついているから、それか・・・これが私の夢なのだろう。そう思っていれば心がほんの少しだけ楽になった、でも三つの月があまりにも綺麗に光る。
「目が覚めれば全部夢ならよかった・・・、なんでトリップ・・・なぜ私が神様なの、しかも厄災の神だし、せめて美の女神なら笑えたのに」
一人ごとを聞くのもまたその月だけ、最上級の牢屋と例えればいい与えられた部屋。
足に付いた枷は重く皮膚に傷が出来ては消えを繰り返していた、この2年私がやって来て何が変わったのだろうか。
「だれも救えやしないのに・・・・厄災の神ならいらないでしょう」
夢なら覚めて、現実ならだれでもいいからこの現実を打破する力を私に。
日が昇れば300人以上の人間が殺される。私はただそれを見つめているしかないそんな無力な人間だ、トリップならトリップらしく私を全能の神にしてくれ。
物語は決して私の思い通りにならないのだ、小説ならもっと上手く楽しく主人公は過ごしているのになんで私はこんななの?
私の思考をまるであざ笑うかのように遠くで宴の音が聞こえる。今夜でもう何日目かわからないがこの何日かはずっと宴が開かれていた。そこに出席することはなかったがその度に多くの献上品が私の部屋に置かれていた。
「亡ぶべき国なら、亡べってことなのか」
厄災の神様は人々を救えないのだろうか?眠れない日々が続いたおかげでもう思考がループし無駄なことを考え始めた。
私の思考を奪ったのはものすごい勢いで扉が蹴破られる音だった。
ダンッ!!
「へっ?」
ダンッ!!ダンッ!!
センチメンタルな気分が一気に醒めて行く。重い分厚い金属の扉が拉げる音がする。
「だれ?」
ズダン!!
重い扉が開かれた。
淡い光が差し込む、恐怖と不安で心臓が脈打つ。早鐘とはよく言ったものでまるで心臓が耳にあるみたいに開かれた扉に立ち尽くす人間の影を見つめる。
逆行から全く読めない相手の表情、ただその大きな影とわずかに香る血の匂い。その手には無駄な飾りなどない剣が握られていた。
「・・・」
「あなたは?」
「貴様がリュリカ神か?」
聞こえた声は、少し低いが耳に心地いいテノール、投げかけられた問は、ここに来てもう数えきれないほど問われた事。
私の答えはたった一つ。
「リュリカ神だと思うのですか?」
「は?」
「はぁ、・・・無礼ですね、いきなりの来訪の上、自らを名乗らない人間なんて」
「なっ!言っておくが貴様はもう神ではない、愚かな王は先ほど我々が捕え、革命が此処になった」
その言葉に私は驚き、茫然と男を見た。男は大股で近づき私が座る寝台の傍まで来る。
扉から差し込むわずかな光ではよくわからないがその藍色の瞳は私を見て、驚きに見開かれた。
「・・・え?」
「!?なにを呆けている?」
「今何て」
そう聞き返さずにはいられない。
「何を呆けて」
「その前だ、馬鹿!!」
「ばっ!貴様こそ無礼だろう、え?前?・・・革命が此処になった?」
男がそう告げた瞬間、私は泣いた。
間抜けに私を見つめておろおろとするその男は、さっきからうるさいがしばらく無視を決め込む。
だって私は神様じゃなくて、ただの人間だから。
2年の努力がここに全て成ったから、もういいのだ。
しばらくの号泣のあと、やっと落ち着いてきた私に男は静かに歩み寄って来た。
「えー・・・・と、あの」
「あなたが革命の首謀者?」
泣き過ぎて酷い声だが仕方ない。そう問うと男は首肯した。
「嗚呼、俺が首謀し、神官長様の仇を討つ為多くの人々が立ち上がり」
「あなたが首謀者なら話が早いわね」
男の言葉を遮り私は静かにこの状況を考察する。
「は?」
「王は、捕縛していると言ったわね」
「え」
「言ったわよね、じゃあ、他の王妃、側室達も王女も王子もよね」
必要最低限の確認はしておこう、これが済めば私はココでの仕事を終える。
「あ、嗚呼。」
私に気おされてしまうほどの男だが仕方ない。容姿は良いし、こんな人間に殺されるのも悪くない。
覚悟なんていつでも出来ている。
「なら、ぼっさとしてないで早くしなさい!」
「え?」
「だから、早く、して!!」
「なっ///何を?」
鈍い、とにかく鈍いこの男。革命を成し遂げそこに偶像崇拝として祀られてた災厄の神を前に、何をぼんやりとしているのか。
面倒だな、こいつ。
「あのね、ぼんやりしてたら何もかも無意味になるのよ。たかだか革命だけ成して終わり、笑わせないでくれる?」
「え?」
「他国への牽制がなければどこかの国が攻めてくるなんてガキでもわかる事でしょ」
他国への牽制は手っ取り早い方法がいくつかある。例えば大国との同盟しかり婚姻を利用したものが一般的だ。
だがこの国にそれは望めない、なら畏怖を抱かされていた『厄災の女神』を殺した(・・・・)英雄が居れば話は別だろう。
「革命に乗じて攻め込まれる前に権威を示すの!」
「おい、落ち着け・・・」
このアホどうしよう、革命が嘘ならいいのに・・・いや、嘘でも困るけど『鈍い男』って英雄としてどうなの?内心かなり失礼な事を考えながら見る。
「落ち着いてるけど」
「いや、おかしいぞ。お前の言動」
「ちっ」
ムかつく。
いや理不尽な怒りであることは分かってはいるが、「いきなり革命したぞー!!」って入ってきて(トッタドーの方が分かりやすい)私を見て確認して、で、何をしてるんだと私は言いたい。
「あっ女の子が舌打ちなんていけないぞ」
お前は近所のおばあちゃんかっというツッコミも全て心に押しとどめつつ男を観察することにした。
これから自分が殺される人間が間抜け過ぎるのも悲しいから、せめてと良いところを探す。
「ない・・・いや容姿は」
つい口に出た。
「なぁ、リュリカ神よ」
「私は瑠佳よ、それよりってきゃっ」
奇声を上げる事になったのは目の前の男がいきなり屈んで私を覗き込んできたから。
「なんだ、その足は!?」
「っちょ」
重い鎖に繋がれている足首には擦り傷がいっぱいだ、そこに視線を感じて慌てて隠そうとシーツを掴んだがそれは男に阻まれた。そのまま男はその傷に触れる。
「酷い・・・」
「っ、」
「悪い、だけどお前、なんで・・・っていうかリュリカ神って本当にお前か?」
「は?って痛!!」
さてこの間抜け過ぎる男どうすべきか、私が判断に迷っている間に男は素早く私を持ち上げた。鎖に擦れた足首の痛みに息を呑む。
「悪い、だが一度落ち着こう。ここを出るぞ」
そう言って男は、私の足枷を掴み上げて部屋から私を連れだした。