《二度目の出会いに女神は笑う》
初めて夜這いを経験する女性の反応ってどん何でしょう?
例えばだ、現代で言うとお風呂上りに自分のベットでゆっくりしようとしたらそこに二人の男が普通に立っていた場合、大抵の人間は驚いて叫んだりする筈だ。
だけどそれって実際起きてみると驚きが過ぎて固まるよ、お母さん。
「・・・・・」
ココが自分のためにあつらえられた部屋だと確認するには部屋一面が全て本棚という特徴を確認すればいい。そして私は静かに左の壁を見て確認する。
しっかりと積まれたこの国の資料と歴史書は学ぶのに最初はすごく苦労したがあまりにも同じ歴史を繰り返すので自分でまとめていた。
医療分野だけじゃなく自分の持つ能力の全ての記憶を書き出すにはとても骨が折れている。算数から数学、物理といろんな内容を書き出しまとめた。申し訳なかったけど神殿の人たちにも手伝ってもらった。
そして暇さえあればペンと紙に自らが思い出した全ての知識を書き連ねた、紙束がある。
とてもこの世界の技術では理解しえない、実現できない技術を私はここに置いていた、所謂危険物だ。
「突然の訪問、申し訳ありません」
そう言って慌てて私の前に騎士の礼をする男を私は知っていた。
「相変わらずなんと蠱惑的な美しさですね、リュリカ神よ」
茶化しながら勝手に座っていた私のベットから降りて静かに歩みよる男を睨んだ私は間違っていないはずだ。
「こんな夜更けに不躾ですね、騎士殿?」
嫌味は嫌味で返してやる。
「それは、本当に申し訳ありません、ですがさすがに15通出した全ての親書が全て処分されてしまい、あなたと会う機会に恵まれない私たちにはこれしか手段が無かったのです。」
うん?15通と言ったぞ。今日見た親書はたった1通で内容は数行だった。
思い当るワイレッドの髪と美貌につい頭痛を覚えて頭を押さえてしまった私に同情する人間はここにいない。
「それは申し訳ありません、シオン・グラヌディス・リュシス様」
驚いたように私を見つめる瞳はあの時見たあの色だった。
燭台の火に照らされて淡く光る緑、暗がりでは藍色なのに光を吸い込むとその瞳はエメラルドになるらしい。
綺麗だとそう素直に思うけどその横にいる軽薄を絵に描いたような男が気になってあまりよく見れないのが悔しかった。
「あなたの名前は?色男」
「いや、女神にそんなに乞われてしまえば名を名のらぬ男などいないでしょう。ラビス・テ・ザディアと申します。美しい方」
金色の髪に金色の瞳というまるでどこぞの宗教画に出てきそうな色彩を持つ男は見覚えがあった。
ニッコリと笑う彼の目だけが笑っていない、私を見定めようとするその視線に私は慣れていた。
「・・・・・で何をしに私に会いに来たのですか?しっかりとした理由をください。」
「それは、こちらをあなた様にお渡しするためです。」
そう言ってシオンが捧げ持った封筒には、私が見慣れてしまった王家の印がされていた。これは王族の誰かが私に手紙を寄越したという事なのだ。
助命かそれとも革命への苦言か、恨み言でも書かれているのだろうと予想をつけてその手紙を受け取る。
「これを?・・いただきましょう。面白い事が書いてあったらいいのに」
そう茶化すと何故か苦笑するラビス。
今の所全く感じられない殺気に私を殺しに来たのではないと分かった、開いた紙にはすごく几帳面な人間が書いたと思われる少し角ばった字でとんでもない事が書かれていた。
目を見張る私を見てラビスがふき出す。
そして最後には一度だけ会った事がある第7皇子の名が書かれている。
「・・・・これは、本人の字かしら?偽造?」
「確かに我が主のものです。」
そう返すシオンまでもが苦笑する。
「われら第7騎士団があなたのものになりますよ、リュリカ様」
そう言ってさわやかに笑い今度はラビスが騎士の礼を私にする。
内心の同様は全て収めるよう努めて、そして一番無難な手を取ろうと思考を必死に回す。
「・・・こ・・・これは見なかったことにしましょう!」
「なっ!!」「はい?」
二人の反応は、予想したものでそれを笑顔で押し切ってやると決意する。
第7皇子の無駄に整ってはいたが間の抜けている笑顔を思い出すとイライラして来た。そして角ばってはいるがとても読みやすい字でバカっぽい内容が書かれている手紙を燃やそうと燭台に翳すがそれを寸での所で阻止される。
「おっと、何をしようとしてるのですか、この神様は」
ラビスの手が奪っていった紙にはとんでもない内容がつらつらと書かれているのだ。
「この中身にあなた方は全て承知してるのですか?」
「もちろんです。」「検討中でしたがあなたの美しさに今決意しました。」
「・・・・・・馬鹿」
「馬鹿ってなんですか!!」「おう、可憐な唇から聞きたくないお言葉」
「あの皇子が今どんな状況かあなた方は知っているのですか?恋に溺れて国中の神殿へ行脚をするなど普通はしません。もしまかり間違って他国の人間に誘拐されて人質にされ戦争の引き金になったり治安の悪い所に連れていかれて野たれ死んだら・・・・アホにも程があるでしょう」
「いくらあなたが神でもあのお方を侮辱するお言葉は許しません。」
「確かに馬鹿です。」
二者の反応の違いにどうしたらいいか悩むがここは黙って聞く訳にはいかなかった。
「護衛はつけているけどこれ以上は無理なのよ、馬鹿皇子の為に優秀な人材が割かれるのはもうたくさんなの、だからあなた達騎士が守ってあげればいいじゃない」
皇子が恋に落ちた相手が神殿でも指折りの攻撃魔法の使い手であったのと彼らを密かに守る人員として現在3人も神官が動いていたりする。これはシビアが私の代わりに考えてくれて、実行したらしい。
「言っておきますが王子はああ見えてかなりの剣の使い手ですよ、我々騎士団に彼と対等な勝負が出来る騎士は私を含めシオンともう一人ぐらいです。ご心配には及びません。」
「ぇえ!」
人は見た目によらないのかと少しだけ皇子への認識を改める。
「正式な書類であるこれを燃やされても、なかったことにはなりませんよ、我々はもう皇子の騎士ではなくなってしまったのですから。」
確かにその首には騎士として最も重要な首飾りがかかっていなかった。騎士の任命に際し主の紋章が入った首飾りが送られているのだがそれが二人ともなかった。
「で、私にどうしろと?」
面倒になってそう単刀直入に聞いてみたのは彼らの心境が全く読めないからだ。
「なにも・・・いえお傍に居させてください。命に代えてあなたを守りましょう」
「全てを退ける盾となりあなたが望む全てを薙ぎ払う剣となりましょう」
騎士の誓いをここでされてもどうしたらいいかわからない。だけどここで武力を手に入れることは、私にとって悪い事ではなかった。
「それ、本当?」
「「我らの剣にかけて、必ず」」
そう告げる男たちはスラリと私に一礼をした。