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魔族大公の平穏な日常  作者: 古酒
大祭前夜祭編
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50.副司令官たちの役割分担

「納得いきません! 大祭の実行委員長といえば、大公城にあって、領内の行事の運行すべてを預かる大事な立場! 閣下が不在のおりにはその代行を務めるはず。それをなぜ、フェオレスのような若輩に一任されるのか……」

 唾をとばしながら怒り狂っているのは、雀だ。

 だがリスの方も強くうなずいているところを見ると、同意見なのだろう。


 ヤティーンが本気で怒っているのはその口調の激しさでよくわかるのだが、どうしても外見の可愛さのせいで緊張感が沸かない。

 ちなみに、ジブライールはいつも通りの無表情だ。いいや、いつも以上にも見える。

 正直、何を考えているのか、今日はいつも以上に読み解けない。


 ちなみに、エンディオンとセルクには席を外してもらっている。

 部屋には俺と副司令官四人がいるだけだ。

 彼らは向かって右からウォクナン、ジブライール、ヤティーン、フェオレスと並んでいる。いつも同じなので、どういう法則なのかと聞いてみたら、公爵についた順、だそうだ。もっとも、ジブライールとヤティーンは、ほとんど同時期ではあるらしい。

 そういえば、幼なじみだとも言っていたか?


 今日この後、大祭に際して自領で行う行事や運営を話し合う会合、実行委員会が開かれる。

 四人の副司令官や運営委員の五人もこの会議に調整役として参加はするが、実行委員には数えられない。

 彼ら九人を抜いた実行委員の数は、総勢五十名。

 そのメンバーは運営会議とは違い、公爵をはじめとした高位の者と、五十人の軍団長で占められている。

 ところが運営会議に不参加だった魔王様同様、俺は実行委員会には不参加で、報告を受けて裁可を出す立場にある。

 となると、実行委員長を任せられるのは副司令官をおいて他にいるはずがない。

 それでその任を、副司令官の中では常に冷静で当たりのよい印象の、フェオレスに任せるつもりでそう発表したところ、ヤティーンの抗議が始まったのだ。


「年のことを言うなら、俺はどうなる。フェオレスよりまだ下だぞ」

 と、いうか、この五人の中では一番年下だ。なんだったら、ヤティーンが俺の父親だって、年齢的にはおかしくない。

 魔族の成人は百歳だからな。

「閣下は大公じゃないですか。同位の者とはまた、違います!」

 まあそれはそうかもしれないが。


「今回の役目については向き不向きを考慮して、担当を決めたつもりだ」

「じゃ、フェオレスが閣下の代理にふさわしいと、そういう考えなんですね?」

 今日のヤティーンは、いつになくしつこいな。

 そんなに実行委員長をやりたかったのか?

「別に実行委員長一人が俺の代理を務めるわけではない。確かに今回は大祭主についてしまったから、不在であることは多いだろう。その間の大公城の管理はフェオレスに一任することになる。だが、重要性や権威に関しては、ほかの副司令官だって同じくらいの役を割り振ったつもりなんだが」

「え、俺にも何か役目がっ!?」

「もちろんだ。副司令官全員に、仕事をまかせるつもりでいる。魔王様の在位を祝う大祭だぞ、大役が一つであるはずはない。当然だろう?」


 俺が肯定すると、雀はつぶらな瞳を輝かせだした。

 前置きなく実行委員長を一番に発表したのが、不味かったらしい。それで今回の重要な役目はそれだけだと、勘違いしたようだ。

 すすんで仕事を欲するだなんて、意外にもうちの副司令官たちは仕事熱心だな。


「ヤティーンには領内全域の、治安維持に力を貸してもらいたいと思っていたんだが、不服か?」

「治安維持! しかも全域の!? 不服なんてとんでもない! 大歓迎です!!」

 雀は勢いよく右手を天高く掲げた。


 どさくさに紛れて、思う存分暴れられそうだ、と思ったに違いない。

 お見通しなんだよ!

 だから暴走しすぎないよう、補佐役には適度に固い軍団長をつけるつもりだ。

 だが、俺だって無慈悲じゃない。

 稀なお祭りなんだ。副司令官だってただの魔族の子。多少はハメを外してもかまわない、と、思っている。

 だからこその、この人選だ。


「では、閣下。私は閣下の背後に……いえ、お側に立ってあれやこれや補佐する役ですかな?」

 リスめ……今、背後に、といったな?

 それからハアハアいいながら、涎をふくのはやめろ。変態くさい。

「つまり、行事の運営などにとどまらず、閣下がご不在の時には全体を把握して、全領民に号令をかけ、すべてを取り仕切る……」

「いや。そうじゃなくて……」

 それ、実行委員長とどう違うんだ。


「<大公会議>で大祭主行事が七つに定められたのは、知っての通りだ。運営会議で全大公がそれぞれ一行事を主導することに決まってな。俺の担当は、パレード……世界中を、各領百人ずつ選出した美男美女を引き連れて、行進しなければならない。俺がそれを率いるわけにはいかないから、ウォクナンにその運営をお願いしたい、というわけだ」

「パレード……美男、美女……美女……!! 数百人の美女!!!」

 とたんにリスは口の端から涎を滝のように垂らしだした。

 ぬぐえ。せめてぬぐえ。

「単純に考えても……二百……二百の美女をはべらかせて!」

 はべらかせるわけじゃないから!

 だいたいウォクナンって、既婚者だったよな?


「では、残った私のお役目は……」

 ジブライールが、厳しい目つきでこちらを見てくる。

 さすがに、噂話を耳にしたか? それで怒ってるのかな?

 俺がジブライールを寵姫に選んだという、あの噂だけれども。

 きっと聞いたよね……あれからだいぶ経ったもんね。さすがに、もう本人の耳にも入ってるよね……。


「閣下の護衛、ということでよろしいのですね!?」

 え?

「いや、俺は大公だから……護衛?」

 あれ?

 強者に護衛なんてつかないだろう。どうしてそんな妙なことを言い出すんだ、ジブライール。


「では、相談役ですか?」

 相談役? ってなに?

 護衛よりさらにわからないんだけど。

 どちらにせよ、俺の側にいる役目ってことだけは間違いないみたいだ。

 なぜジブライールがリスみたいなことを?

 ウォクナンが俺の側にいたい、と言うのは、俺の頭を後ろからかじりつくタイミングを計ってのことに決まってるが、どうしてジブライールまで……。


 まさか、ジブライール……俺の弱体化に気付いてた?

 しかもそれがまだ治ってないと思って、護ってくれる気でいる、とか……。

 いや。そんなハズはない。あのベイルフォウスだって、気付かなかったんだ。

 真意はわからないが、今はとにかく話をすすめよう。


「実はルデルフォウス陛下より、今回の大祭にあわせて新しい魔王城を築城せよ、とのご命令があった。ジブライールには、その現場監督を頼もうと思ってるんだが」

 この役をジブライールにあてたのは、自領での役割だと頻繁に顔を合わせることになって、気まずい思いを多くしなければいけないから、とかいう情けない理由では決してない!

 むしろ、魔王様の新居城だ。俺が現場を放っておけるはずはないのだから、逆に顔をあわせる機会は、誰より多いかもしれないと思っているくらいだ。


 だからなんだというのだ。

 俺だって蹴られたこととか、噂のこととか、そんなささいなことをいつまでもいつまでも気にするような小さい男では…………ない。ない! のだ。そうとも!

 新魔王城の築城には全大公を巻き込むつもりでいる。その監督となると他領の実力者にも魔力で劣らず、常に沈着冷静な対応のできるジブライールが適任だろう。

 そう、適材適所の精神で、人事を決めているのだ!!


「魔王城築城の現場監督……」

 ジブライールは目を見開いた。

 よかった。少なくとも不満そうではない。


「そうだ。フェオレスが大祭実行委員長、ヤティーンが治安維持部隊長、ウォクナンがパレード運営責任者、ジブライールが新魔王城現場監督。どれも等しく重要な役割だと、心得てほしい」

 四人の副司令官は、一応は全員が満足げに頷いているように見えた。


「そんなわけで急で申し訳ないが、このあと開かれる大祭実行委員会に、副司令官全員で参加してもらいたい。俺は不参加だが、大祭の詳細については、運営会議に参加した五人の運営委員より説明させる。司会進行は、実行委員長であるフェオレスに一任する。よろしく頼む」

「は」


 俺の言葉に反応して、副司令官が揃って敬礼の姿をとる。

 四人でやられると壮観だ。一人ならなんとか我慢できるが、四人揃って「いやん、こないで」をされたのでは、笑いをこらえられるはずがない。

 ちょっと吹き出してしまった。


「閣下?」

「あーごほん。いや、なんでもない」

 とっさに口を覆ってごまかす。

 苦笑しているところをみると、フェオレスにはバレているのかもしれない。まあいいけど。


「では、会議の時間まで解散とする」

 俺の号令で、副司令官たちは敬礼をといた。

 左端のフェオレスから順に執務室を出て行こうとする。


「あ、ジブライール」

 呼んだ相手は一人だけなのだが、なぜか四人全員が振り返った。

「はい」

「少しいいかな? 話があるんだが……」

 そう言うと、葵色の瞳がキラリと光った気がした。

 なんだろう……ちょっと、怖い。


「他の者はさがっていいぞ」

 俺の言葉を聞いて、素直に退室したのはフェオレスだけだ。たぶん会議までの間、アディリーゼと過ごすのだろう。

 ところがリスと雀は、顔を見合わせて動かない。

 それどころか。


「あ、私も閣下にお話がー」

 棒読みがわざとらしいぞ、リスめ。

「なんだ、言ってみろ」

「いやあ、今はちょっと……ジブライールのお話がすんだあとで結構です。私はここで、大人しく待っておりますので」

 そう言って、誰も許可していないのに、長椅子にちょこんと腰掛けたではないか。

「ずるいぞ、ウォクナン。だったら俺も!」

 張り合うように雀までその隣に腰を下ろす。


「今すぐ話さないのなら、後にしろ。俺は忙しい」

「えー」

 雀とリスが不満声をあげる。

「じゃあ、ジブライールだって……」

「ジブライールには、俺の方から用事があると言っているだろうが」

「ジブライールだけずるい」

「全くですよ!」

 さっきから「ずるい」「ずるい」と。子供か!

 これが四百歳を優に越えた、しかも公爵という高位にある者の言葉とは、思いたくもない。


「よしわかった。そこまで言うんだ。それはもう重要で、急を要する用件なんだろう。二人とも、ジブライールの後で順番に時間をつくってやろうな。ただし、話があるといって俺の貴重な時間をさかせておいて、万が一つまらない用件だったときは…………わかってるな?」

 笑みを消してなるだけ低い声を出し、二人を順にねめつける。

 こういうときは、脅すに限るのだ。でないと、だんだん調子にのってくるからな。


「あ、じゃあ俺、いいです」

「私も。命が惜しいです」

 あっさりと二人とも撤回した。

 だが、くそ……こいつら性格は憎たらしいが、顔だけ見れば雀とリスで、並ぶと余計に可愛さが強調されるじゃないか。

 そんな感想を抱いてしまうのがもうなんか、悔しくて嫌だ。


「なら出て行け。今すぐに、だ」

「はーい」

 ブーたれ、つぶらな二対の瞳を向けてくる小動物たち――ただし、顔だけ――は、俺とジブライールを執務室に残して、退室したのだった。


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