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Stoner〜アシュー大陸ものがたり〜

Stoner〜ある農村での出来事〜

作者: eule

 朝日が顔を照らして、目が覚める。ベッドから起きると、父さんも母さんも居なかった。父さんはきっと畑に出ていて、母さんはそろそろ市場から帰ってくる頃だろう。

「あら、おはよう」

 玄関から母さんの声がした。両腕には向かいのドリスおばさんの焼いたライ麦パンを抱えていた。昨日、ウチで採れたカボチャと交換して来たんだろう。僕は「おはよう」と言うとパンを一つ取って畑に向かった。

「ガストー! お父さんにも持って行ってあげてー!」

 背中越しに響く声と共に、ライ麦パンが飛んで来た。慌てて振り向いてパンを取ると、母さんに手を振って走り出した。


 僕の名前はガストー。大昔に剣聖って呼ばれた竜騎士の名前から付けたそうだ。

 僕は竜騎士はあんまり好きじゃない。だって生まれつき竜の血が流れていて、僕ら人間よりずっと強いなんてズルイと思っていたから。

 Stonerストーナーもそうだ。元は妖精だったらしいんだけど、不思議な力を使えるなんて……。いつか竜騎士もストーナーも倒せる立派な正騎士になるのが、僕の夢なんだ。父さんと母さんには内緒だよ!?


 畑に着くと、父さんがカボチャを一つ一つ丁寧に見定めて、収穫できる物を選別していた。

「父さ〜ん!」

 僕が呼ぶと額の汗を拭いながら笑っていた。

「ガストー、今日は早いな」

 父さんは笑いながら僕の頭を撫でてくれた。

「はい、これ母さんから」

 そう言ってパンを渡す。一緒にパンを食べ終えたら、僕も父さんの手伝いだ。昼頃になると、父さんは今日採れたカボチャを売りに街まで出掛ける。

「今日も頼んだぞ」

 そう言って父さんはまた僕の頭を撫でてくれた。そう、これからが僕の本当の仕事なんだ。


 畑の脇にある樫の棒を両手に持って、周りを見渡す。

  ーー魔獣からこの畑を守るー ー

 これが僕の午後の仕事だ。と言っても相手は、牙ネズミくらいなんだけどね。それでも剣術の稽古の時間もかねているし、最近トゲイノシシが出たという話もあるから、油断はできない。とは言っても、やっぱり退屈だなぁ。剣術の稽古と言っても、ただ樫の棒を振り回しているだけだし……。


 その時、西の雑木林がざわめき始めた。こんなにざわめくのは初めてだ。

 木々が畑に向かってなぎ倒されていく。


 ブモォーッ!


 今まで聞いたことの無い雄叫び。一瞬で身体が硬直した。それでも身体は西を向いている。樫の棒を構えているのに、両腕が動かない。歯がガチガチ音を立ててきた。


 来たっ!

 噂のトゲイノシシに間違いない!

 襲ってくるのか?

 先に仕掛けるか?

 何をしたらいい?

 あ、カボチャ……


 突然突っ込んでくるトゲイノシシ。咄嗟に樫の棒を奴の鼻目掛けて突く。


 当たった! と思った瞬間、すごい力で樫の棒は押し戻され、胸のあたりに当たった。

「うっ!」

 多分、奴に突き飛ばされたと思う。口の中に土が入ってきた。突き飛ばされた衝撃と恐怖で身体が動かない。奴は止めを刺す気なのか、僕を睨みつけている。


 血走っている眼は、僕を捉えて離さない。

 荒々しい鼻息は、僕を威嚇している様だ。


 動けないもうダメだ……。奴が後脚に力を込めた。奴が突っ込んで来た!

「助けて!」

 声に出せない声を出した。


 その刹那


 ドウンッ!


 何かが何かにぶつかった音がした。

「大丈夫?」

 突然、女の人の声。何が何だか分からず目を開くと、目の前に透明な鏡の様な壁? があった。その先にはもんどり打って倒れているトゲイノシシ…。「怪我はないかしら?」見上げると、長い黒髪の女の人が僕の方を見て立っていた。優しそうな瞳とは裏腹な、凛とした佇まい。腰には剣を刺していた。

「あ……。」

 僕が何かを言いかけた時、トゲイノシシが起き上がった。


 フンッ! トゲイノシシの鼻息が一段と荒くなった。

 女の人は透明な壁を一気に飛び越え、すぐさま剣を抜いていた。


 ザクッ!


 剣は眉間から刺さり、顎の下まで貫通した。剣を抜いて女の人が振り返った。華奢な体、長い手足。トゲイノシシの返り血を浴びた姿でさえも、綺麗だった。

「怪我はないみたいね……。棒切れ一本でアイツに立ち向かうなんて、カッコいいぞ」

 そう言って微笑みながら、倒れている僕に手を差し出してくれた。

「あ、ありがとう……」

 恥ずかしさを隠しながら握り返した手は、温かくて絹の様だった。

「いいのよ……これが私の……ストーナーの仕事だからね」

 ストーナー!

 初めて見たストーナーは、僕の想像をはるかに超えた存在だった。妖精の血を持ち、宝石の力を引き出す事ができる人間より強くて、人間には逆らえない存在。色々な事が頭を巡らせている内に、ストーナーは立ち去ろうとしていた。「あ……。」

 ストーナーは振り向くと僕にささやいた。

「この辺りでは私達は邪魔者だから、もう行くわね。あ、私の名前はソリッドのマイネ。正騎士になったら、迎えに来てね」

 そしてマイネと名乗ったストーナーは、鮮烈な印象と頬の口づけを残して足早に去って行った。


 村の人達に一切を話すと、「石使いのくせに出しゃばりやがって」とか、「ストーナーがどうやってこの村に来たんだ?」と大騒ぎになったけど、二・三日もすると日常に戻っていった。

 ストーナー。

 なぜ、同じ人間の姿をしているのに『二等人種』なんて呼ばれているのだろう……。



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