episode103
戦況が動かされる。
というより、決着の一手を投じられる、まさにそんな時のことだった。
レーダーに新たな反応。数は4。
座標、直上!
「なんだ⁉︎」
思わず上空を見上げると、4機のバーバリアン運搬用超音速航空機、雷電が見えた。各機はその機体としての役目を全うすべく、1機ずつバーバリアンと繋がれていた。
傷裏たちの真上まで到達すると、バーバリアンが雷電からパージされ、重力に従って降下を開始する。
最初、傷裏はそれがイチハラの手による新たな敵と考えた。絶望的思考は、何もかもを絶望に感じる。
だが、それは誤認だったと、傷裏はのちに理解する。
『ありったけ、ぶち込むわ!』
その1つは蜂を模した全身ミサイル装備の機体だった。降下と同時に空中で体を真下に向け、全身からこれでもかという量のミサイルを放ち、少数ではあるがメガネウラの破壊に成功する。
『…………』
その1つはロングコートを着たような黒く大量の銃器を装備した機体だった。肩に装着したスナイパーライフルを構え、1体1体確実に、メガネウラを破壊していく。
『久々の戦場だ、派手に行こう』
その1つは知らない機体だった。吹雪シリーズ3番機である初雪をベースにしたとされる鋭利なフォルムの紅い機体だ。それは銃器を持たない代わり、背中に4つ装備した大型ブースターを噴射、一気にメガネウラの大群に突っ込み、気づけぬうちに大量のそれらを四散させた。
『あぁ……懐かしきシャバの香りだ』
その1つは知っているがもう見るはずのない、カブトムシをモチーフとした蒼い機体だった。カブトムシのツノのようなライフルでメガネウラをけん制しつつ、すれ違いざまにブレードで数体を切り裂きながら着地した。
傷裏たちが驚いていると、蜂模様……クイーンビー・NEXTから通信が入る。
『傷裏、大丈夫⁉︎ 怪我ない?』
「戸田さん……一体これはどういうことなんですか?」
『傷裏を、そして梨々香ちゃんを助けに来たんだけど……詳しい話はそっちに聞いて』
戸田が指差す先には、謎の紅い機体が。
『やぁ、傷裏君。君のピンチに駆けつけてあげたんだ、感謝してもらおう』
「む、室井さん⁉︎ どうしてあなたが⁉︎」
謎の紅い機体に乗っているのはなんと室井だった。市原同様に操縦できるのかという疑問が脳裏をよぎったが、先ほどの戦闘を見るにその心配は杞憂だろう。
『いやぁ、大変だった。市原さんに頼まれた対フーリッシュアクトソフトの複製に成功したから、私はわざわざ人員をかき集めてここに来てあげたんだ』
「複製って……そんな早くできるものなんですか?」
『普通はできないな。いくら私であろうともさすがにあれを1日2日で複数個コピーするなど不可能だ。……しかし、彼の力を借りることでなんとか間に合ったんだ』
室井が戸田同様に指差した先には、カブトムシのような蒼い機体……ビートルが。
ビートル。
これのパイロットとなると、必然的に決まってくる。
「……基崎、ですか」
『久しぶりだな。正直こうして君と再び会うことになるとは思ってなかった』
「ムショ暮らしをしているはずでは?」
『それと同時にチューナーの研究に協力していたのは知っているだろ? それによる恩赦と、そこの市原さんの手助けもあり、こうして仮出所できるわけだ』
「……市原さん、なぜこの人を……」
『人員が必要だった。室井だけならまだ不安要素はあったが、それに基崎を合わせることで作業時間を大幅にカットできた』
「だからってこいつは……」
『確かに、そいつはテロリストだ。だが、今はそんな過去、棚にあげなくちゃならない。それに、彼は室井の弟子らしいからな、彼女が監視しているから問題ない』
納得はできないが、この絶体絶命の緊急事態、不本意だが力を借りるしかないらしい。そう割り切った。
そして、気になる点はもう1つ。
「市原さんが手配したんですか? その、オーディンの調達」
『まぁな。先日フィンランド領のある研究所を壊滅させてな、そこの地下で厳重に保管されていたそれを持ってきたんだ。龍や梨々香ちゃんのいない内にこっそりとな』
とにかく、戦力は揃った。数は明らかにこちらが少ないが、彼ら彼女らは一騎当千の古強者といったところだ。傷裏と市原の2名では絶望的だったが、6名いれば戦況はガラッと変容する。
「皆、聞いてほしい」
傷裏は一同に現状を説明した。黒崎のこと、周囲を取り囲む敵対生物のこと、そしてイチハラのことを。
聞くと、戸田が逆に聞き返す。
『ねぇ傷裏。その梨々香ちゃんの隠し場所、もといラスボスの居場所ってさ、多分下じゃないの?』
「下?」
『そ、下』
クイーンビー・NEXTが腕で真下を指し示す。それが意味するものとは……。
「まさか……地下だと言うのですか⁉︎」
『バーバリアンの戦闘でも安全な場所となったら、もうそこしか残ってないんじゃないのよね』
言われてみれば、確かにそうだ。そして傷裏の知る知識によると、この街を含む広範囲には豪雨などによる洪水、冠水を防ぐべく、首都圏外郭放水路というものが設置されている。全長6.3キロ、地下50メートルに流れるそれは、確かに隠れるにはピッタリだろう。
「よし、なら早速地下に行こう。確かこの辺りにそこに通じる昇降機があったはず……」
《行カセルト、思ウカァ!》
引き裂かれた再生を完了したクーシが地を蹴る。狙いは傷裏。瞬時に距離を……。
《ッ⁉︎》
詰めようとした直後、その両腕が粉々に粉砕された。
《貴様ノ仕業カ……アウラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!》
『……先に行って、先輩』
「アロラさん! ……ありがとう」
2丁のサブマシンガンを構えるオーディンを一瞥し、傷裏は駆ける。
「『タイガ』、お願いだ。目の前の群がる敵を一掃し、黒崎さんの元に馳せ参じろ!」
『了解だ!』
表を交代、『タイガ』は前方で群れるメガネウラに突っ込みながらキマイラを振るう。攻撃が当たって両断される者もいればかわす者もいるが、傷裏、及び『タイガ』からしてみればそんなものはどうでもいい。直進するための道が生まれればそれでいいのだ。
『あった! 地下に繋がる昇降機だ!』
「よし、行くぞ!」
バーバリアンが1機載せられるサイズの昇降機を見つけ、ハルファスは乗り込む。入り口にあったキーボードを操作すると、昇降機はゆっくりと下降していく。
やがて昇降機が目的地に到着し、その場でガコンという音を鳴らしながら停止する。
一帯は薄暗かった。小さく、今にも消えてしまいそうな電球が天井に並んでいるだけで、足元を流れるわずかな水を踏みしめる度にピチャピチャと音が鳴り、背筋を悪寒が駆け上る。
「おいおい……ホントにこんなとこにいるのかよ」
『残る可能性はここしか……危ない!』
相棒からの警告により、『タイガ』は反射的にジャンプした。
その数瞬後、ハルファスのいた地点にレーザーが駆け抜け、地を爆裂させた。
「敵襲⁉︎」
『ご名答らしいね……!』
レーザーの起点に目を向ける。
そこにいたのは、銃身の長いレーザーライフルをこちらに向けた、純白の機体だった。所々に見られる鋭利なデザインはどことなく吹雪シリーズを思い起こされる。
『待っていたよ、傷裏君』
「イチハラ……!」
『その声色は……そうか、もう1つの人格の……「タイガ」君、だっけか。君の声を聞くのは初めてだな』
白い機体……アルカナはゆっくりと近づく。
ライフルを背にマウントし、代わりに背からレイピア武器を取り出す。
レイピアが軽く振るわれると、刃の部位から幅広の粒子ブレードが展開、一種の大剣のようになる。
『では改めて「タイガ」君、そして君の中にいるであろう傷裏君、最終ラウンドを開始するとしよう』




