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003 異常

2014/3/13

前話までを大幅改稿。反省してます。

 飛んでいった俺の両手は、大きな音を響かせながら金属製の扉にべっこりとした凹みを二つ作って、その場にぽとりと落ちた。


「………。」


「おぉ!面白半分で付けてみたが、これ案外切り札として有効なんじゃないか?」


 扉の方に駆け寄りながら、楽しそうに、割と聞き捨てならない発言をするおっさん。


「ちゃんと転移紋が機能してるか確かめたいから、ちょっと手を握ったり開いたりしてみてくれるか?」


 切り離された俺の手の状態を確かめながら、言ってくる。

 開いた口が塞がらず放心状態の俺は素直に言う事を聞いて、にぎにぎとしてみる。よく分からないが感覚がある。ぶっ飛んで扉に当たった衝撃も感じた。あっちから若干興奮した声が返ってきたので、実際に飛んでいった俺の肘から先の部分も動いているんだろう。

 おっさんは聞いてもいないのにこの機能の特徴を熱く語ってる。

 曰く、これまでにも同じように体の一部分を飛ばす機能を付けた魔導人形(マギ・ドール)は存在していたが、この『転移紋』とやらを利用して、飛ばした後もその部位を操作出来るようにした機構は史上初だそうだ。しらんがな。手の先を細かく動かすことで、目視できる範囲でなら手だけでも活動させることが出来るのがメリットだとか。アダ○スファミリーか。

 肘関節の部分に存在する断面を恐る恐る覗いてみると、暗い紫色に輝く魔方陣(・・・)が覆っていた。これが転移紋とやらか?ぼーっとその輝きを見つめながらにぎにぎしていると、ぐーぱーしている手を2本持っておっさんが戻ってきた。


「ほら、もう動作確認は終わったんだ、ちょっと気持ち悪いから手動かすのやめてくれ。」


 人の腕で勝手にロケットパンチして、色々動作確認に協力させた挙句にこの台詞。今持ってるその気持ち悪い手で絞め殺してやろうか…

 俺が半眼で睨むと、空気を察したのか少し顔を引きつらせる。


「いや、うん、悪かった。少しふざけすぎた。言いたい事はあるだろうが、取り敢えず着け直させてくれ。」


 そう言い、切り離された手の断面と俺の腕の断面を無造作に近づけると、まるで磁石のようにぴたりと吸い付き合い、接合部も全く分からない状態にまで戻ってしまった。でたらめすぎる。

 これで左右逆に着け直すとかいうベタなボケをかましていたら問答無用で殴っていたが…おっさんのエアリーディングスキルは高めなようだ。

 戻ってきた両手をしげしげと見回すが、傷一つない。扉の方を見るとべっこりとした凹み。よく見ると拳の形まではっきり刻まれている。もう一度両手を見る。傷一つ無い。少し丈夫すぎやしませんかい?


「随分丈夫だろ?お前の骨格は全て魔銀(ミスリル)で作られているからな。皮膚は本来なら耐えられないんだが、こんなことで損傷させてもつまらないし、俺が『ハード』の魔法を掛けておいた。」


 手と扉を見比べていた俺に気付いて、おっさんが自慢気に言う。魔銀(ミスリル)ねぇ……は?魔銀!?


「……あの、魔銀って結構貴重な金属なんじゃ…」


「貴重は貴重だが、知り合いに高階級(ハイクラス)の錬金魔法の使い手がいてな、同量の銀と報酬の酒さえ持っていけばいくらでも手に入る。」


「はあ…」


 よくわからんが、俺の骨は全て銀以上に価値があるもので出来ているらしい。全身貴金属。小市民の俺としては心臓がキュッとしてしまう。

 が、いや待て、勝手に手が吹っ飛んでいくという体験をしたせいで動揺して言葉を鵜呑みにしていたが、腕が作り物だったからと言って全身がそうとは限らない。まだ俺が魔導人形だと確定したわけじゃない。


「いやでも、まだこの程度じゃあ魔導人形の自覚は出てきません。義肢だって言うなら理解できるんですが…」


「だろうな、俺もこの程度で信じてもらえるとは思っていない。ただの確認作業兼演出だ。」


 悪びれもせずに言ってくるおっさんに腹が立つが、今は話を先に進めよう。


「じゃあ他にもあるんですね?今ので度胸も付きましたし、遠慮なく見せていってください。」


「…言ったな?その言葉、翻すなよ?」


 にやりと笑ったおっさんは俺の手にベルトを巻き直し、椅子の側部に付いているハンドルを回し始める。ハンドルが動くと同時に椅子の背が後ろに倒れ始め、尻の部分が浮いてくる。おっさんがハンドルを回し切り傍らに立った時には、俺の体は完全に寝台に横になっていた。


(マッサージチェアーがリクライニングシートで手術台だった…)


 既に前言を翻したくなっていた。


「あn「さて!じゃあこれからやることを説明しよう!」


「ちょ「まず、お前の腹を開いて中を見てもらう!今回は前もって言っておくが、お前の内臓類は魔心炉以外全て模造品だ。代替品ではない。完全に形だけの飾りだ。開発思想が『可能な限り人間に近づける』だったから、全て本来の機能を付けたかったんだが、現在の技術じゃ不可能な部分があってな……ちなみに魔心炉というのは魔導人形の動力源で、込められた魔力を溜め込んで、それを全身に巡らせる働きがある。」


「……そうですか。」


 止められなそうだこれ。

 そして今現在、絶賛肺呼吸中なんだけど俺………試しに止めてみる。全然苦しくない。なにこれ怖い。

 これだけで俺の体が人間のそれではない可能性が随分と高まってしまったが……彼もやる気マンマンだし、腹の中も見せてくれるというなら見せてもらおう。判断要素が増えるに越したことは無い。意識を保ったまま腹を開かれるってのは怖いけど、ここまで来て止めるのも情けないし。


「そしてそれでも信じられない場合は、今度は頭の中を見てもらう。そこには人間の脳の代わりに『令魔石(れいませき)』という貴重な魔石が入っていて、それが魔導人形の自律思考や行動を司ってるんだ。前もってある程度の知識や情報を書き込めたりもする。ただ、これに関しては俺も逆の意味で『令魔石』が本当に入っているのか信じられない。」


「…?どういう意味ですか。」


「令魔石はかなり貴重な石でな、そうそう大きな塊が見つかることは無いんだ。通常、人型魔導人形に使用される令魔石の大きさは貨幣大の球状のものなんだが、それでも単純な命令を実行する位しか出来ない。掃除や洗濯にしても前もって知識を書き込むか、学習させないと動けないしな。その点、お前に組み込んである令魔石の大きさは拳大。思考能力は通常の人型を大きく上回ってるはずで、言語や生活に必要な一般常識も書き込んである。喋れるように擬似的な声帯も組み込んではあるんだが…」


 おっさんの言いたい事が分かってきた。というか魔導人形って普通喋れないのか。


「そんな、通常より大きめの令魔石を使っていたとしても、今の俺みたいに人間のように喋って理論的に思考を組み立てる…なんてことは出来る筈が無い、と。」


「その通りだ。やっぱりお前は異常だよ、今の会話だけでそういったことが推測できるんだからな。」


 今の話が本当のことだとしたら、自分で把握出来てない知識が頭の中にあるのも納得できる。しかしその場合『俺』という精神はこの体の一体どこに宿っているんだろうか。

 この世界の魔法使い達が令魔石のポテンシャルを引き出しきれておらず、実は拳大の令魔石には人間の脳に匹敵する演算能力がある、とか、令魔石ではなく別の何かに精神が宿っている、とか、そもそも魔導人形じゃなくやっぱり人間だったじゃん!とか…色々と可能性はあるが、現時点では確認の仕様が無いものが多いし、今はこのまま解剖されるしかないな。

 あ、そうだ、万が一何か事故が起こった時の為に聞いておかないと。なんだかんだで命を預けることになった相手なんだしな。


「なるほど、自分がこの世界では非常識な存在だというのは理解しました。それを確かめるためにもかいぼ…いや分解作業、お願いします。あと、遅くなってしまいましたが貴方のお名前を教えてもらっても?」


「あ、あぁそう言えば名乗ってなかったな…申し訳ない、私の名前はアレクセイ・ヘイスティングス、アルメキア皇国に忠誠を誓うヘイスティングス伯爵家の当主だ。」


「ではこちらも改めて。俺の名前は進藤…いえ、カナウ・シンドウです。日本国に住む平民でした。」


「でした…?まぁそのへんの事は後で改めて聞くことにしよう。カナウ、でいいか?あまり堅苦しいのは好きじゃないんだ。」


「構いません。」


「俺のことも呼び捨てで良いし、その口調も無理しているなら止めていい。周りに第三者が居るときは使ってもらわないと困るがな。」


「そう…か?それならそれでこっちも楽だから、お言葉に甘えるよアレクセイ。」


「よし、遅めの自己紹介も終わったし、始めるぞ。アイスウォール!」


 そう言って先程作り出した氷の鏡を天井から吊り下げるように再度作り出すおっさんことアレクセイ。なんつーか、魔法って柔軟性高いんですね。

 寝台に横になり、若干緊張気味の表情をした俺が鏡に映る。アレクセイさんが俺の貫頭衣を捲り上げ、何かの詠唱を呟きながら腹に手を置き魔力を込める。皮膚が割れて左右に開かれていく。開かれていく…あれ?麻酔は?

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