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エリーゼ・フォン・シフォン3

 ミーナがため息をついて、エリーゼを見つめる。彼女は何も言わずに、ボズッと音をたててベッドに寝転んだ。


「珍しいわね。あなたが熱くなるなんて」


「別に、ただあの男の目が気にいらなかっただけ」

 あの眼、そっくりだ。間違いない。自分が嫌いで、何もできない自分が許せなくて、他人に対してなかなか素直になれない。まるで昔の自分を見ているようだった。だからムカついた。


「昔のあなたに似ているから?」

 ミーナがエリーゼにそう告げる。


「いつから私の心を読める能力が使えるようになった? ミーナ、あいつこのままだとそのうち死ぬぞ」


「知っているわ。だからあなた達にチームを組んでもらうのよ」


 ミーナはえらくあの男を気にかけている。残りの二人はともかく、みたところあの男はただの若者だったのに。そう思いながら、エリーゼはベッドから起き上がる。


「エリーゼ、あなたこそ本当にいいの? 今ならまだ普通の生活に戻れる。すべて忘れるのも悪くないと思うよ」


 エリーゼの歩んできた人生はミーナですら驚くほど劇的なものだ。彼女には幸せになって欲しい。ミーナにとってエリーゼは、娘のようで姉妹のようなもの。


「またそれか。今さらどこに戻る? 私の居場所は私が決める。それに約束したから」

「あなたも強情ね。瑞穂をあの子たちをよろしく」

 エリーゼは強い。彼女なら瑞穂を変えてくれるかもしれない。ミーナの心は期待と不安でいっぱいだった。


 部屋を出て行ったライカとセリカ、瑞穂。彼らは『エリルガーデン』と呼ばれる敷地内の庭にいた。そこにはバラやパンジー等の鮮やかな花が咲いており、芝の地面に覆われた巨大な庭園。三人はベンチに腰掛ける。


「らしくありません瑞穂。何を熱くなっているのですか?」

「ライカ俺は別にただ、なんとなく……」

 なんなんだあの女。妙に自分に突っかかってきた気がする。


「だが、あんな危険な能力を持ちながら野放しでいいのか?」

 下を向きながら、それとなく言った瑞穂だった。すると横に居たセリカが不意にベンチから立ち上がった。


「セリカ様?」

ライカが顔を上げセリカを見つめる。セリカの右足に少し能力反応。そう感じたライカ。セリカはくるりとその場で回転する。

「あっ、なんかやばっ」


ライカはベンチを蹴り飛ばし上空に跳んだ。それと同時に、セリカの回し蹴りが瑞穂に直撃し、ベンチごと後ろの方に吹っ飛んだ。


「ぐっ、なんだ一体?」

 瑞穂は蹴りにギリギリまで気付かなかったものの、反射的に受け身を取りダメージを受け流した。顔を蹴られた。口の中を切った。血の味と動揺が広がる。


「流石ですね。千堂さん。手加減しまくったとはいえ、私の蹴りを受けて平気なんて」

 セリカが嬉しそうに立っている。


「どういうつもりだ?」

「気付きませんか? エリーゼさんのこと。彼女にどんな事情があるのかわからない。でも彼女は私達に、自分の能力を教えてくれた。それは、私達を信頼しているからです」


「うかつです。私も気付きませんでした。そうかもしれないですね」

 難を逃れたライカが賛同する。


「でも、それは何か企んでいるからかもしれない」

 あー、全くこの男は空気が読めませんね。ライカは瑞穂をムスッと見つめながら考える。ライカは気付いていた。ミーナは瑞穂を変えたい。そしてエリーゼはミーナとは何かタダならぬ関係だと。


 多分瑞穂のために、二人は何か企んでいるのだ。彼はそのことに全く気付いてはいない。

「(鈍感なんですから)」ライカは腕を組み、二人の様子をみる。


「千堂さん、あなたがなぜそこまで能力者が嫌いなのか私は知りません。でも、仲間になる人を、彼女を信じられませんか?」


「それは……。信じていても人は裏切る。深みにハマれば辛いだけだ」

 セリカの目は瑞穂を真剣に捕えていた、気不味くなり目をそらす瑞穂。こぶしを握る。もうあんな思いは沢山だ。なのに、なにを信じろと言うんだ。 


「はぁ、あなたもかなりのひねくれ者ですね。でも、忘れないでください。エリーゼさんはあんな能力を持っている。まともな人生を送れたわけがないじゃないですか。それは夕凪である私だから確実に言えること」


 セリカは悲しそうに、下を向いて芝の地面を足でつついている。

 しばらくの間、沈黙が流れる。


「ふふっ、少し熱くなりすぎてしまいました。すいません千堂さん。でも私はみんなの事好きになりましたよ。これからよろしく」

 セリカは二人に背を向け去っていった。


「いやー、驚きました。セリカ様は大人しそうに見えて激烈ですね。瑞穂キズ大丈夫?」


 好きになったか。自分のどこをみて好きになったというのか。

「不思議な奴、俺は自分のことすら嫌いなのに」

 少しだが興味が出てきた。おそらく自分のチームはなにか特別なのは間違いない。一体何が起きるのか。

「帰ろうかライカ?」

ニヤリと笑い立ち上がる瑞穂。


「ライカちゃんは自分のことも瑞穂のことも好きですのにね。蹴られて少しは、いい男になりました?」

「バカか」



 電車が揺れる。セリカはドアのそばに立ち、過ぎゆく外の景色を眺めていた。

 少しやりすぎたかな? でも面白い人達。私はこれからどうなるのだろうか? 期待と不安が少しだけある。シールドナインにいれば答えは見つかるのだろうか?

「これで……いいのかな? お姉ちゃん……」

答えはない。無機質に揺れる電車の音だけがセリカの耳に響いていた。




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