エリーゼ・フォン・シフォン2
「そんな…私も信じられない能力」
セリカが口に手を当てて青ざめた顔で驚く。夕凪の人間の自分だからわかる。そんな激レア能力を持っているのだ。どんな人生を彼女は歩んできたのだろうか? 想像はできることだった。
「そんな能力許されていいのか?」
瑞穂がきつい声で誰に言ったわけでもなく、口から言葉を発した。
「許されるも何も、持ってしまったのだから仕方ないだろう? 奪うと言っても、強力な力は盗むのに苦労する」
エリーゼが笑みを浮かべながら瑞穂に向けてそう言う。
「俺は能力者じゃない」
瑞穂はぎゅっと右手を握り締める。この女、俺をおちょくる気か? しかし危険だ。こんな能力者がいるから世界がおかしくなる。
「ああ、そうなのか? ちなみに奪った能力を全部自分のモノにできるわけではない。そうだな…ストック出来るのは三つまで、それ以上奪うと古いものから消えていく」
瑞穂とエリーゼの雰囲気が険悪だ。そう思ったライカが二人の会話を遮る。
「そうですね、次から次へと能力を奪って自分のものに出来るなら、神ですよ。それに制約とかが厳しいのでは?」
ライカお前は気付いているのか? この女、今適当に言ったに違いないぞ。油断ならない。瑞穂はエリーゼを見つめる、彼女は目線を気にせず、ベッドに座って足をぷらぷらさせて宙を見ていた。
「いや、制約はとくにない。実際見たほうがはやい、ミーナ」
エリーゼが手招きをし、ミーナがそばに寄る。
「はい、どうぞー」
エリーゼがミーナの胸に手を触れる。その手が光り輝きながらミーナの中に沈んだ。そして引かれた手の中に、何か長方形の手より少し大きい物体が光りながら出てくる。エリーゼがそれをミーナに渡す。
「ほら、このカード。面白いでしょ? 私の能力『アポカリプス』が絵柄になって現れているの」
ミーナが嬉しそうに体を揺らして三人にカードを向ける。
「レアカードが当たって喜ぶクソガキですね」
そう言ったライカがまじまじとミーナの能力カードを見つめる。瑞穂もセリカも近寄って見る。
ミーナが見せびらかすカードには天使の様なもの、悪魔の様なものが対になっている不思議な絵が描かれていた。
「こうやってカード化して相手の能力を奪う。ミーナの場合一度、お願いやってと頼まれたので簡単にカード化できるというわけだ」
エリーゼがベッドから立ち上がり、ミーナのカードを奪い取り、それが光ったかと思うとミーナの体の中に突っ込んだ。
「こうすれば元に戻る。このカードは私にしか破壊出来ない。自分に取り込めば、そのカードの能力を使え、他人にも一つまでなら埋め込んだりできる」
「やばすぎる能力ですね。エリーゼ様、今までよく利用されずに生きてきましたね」
やばいなんてものじゃない、危険だから殺されてもおかしくない能力だ。瑞穂は冗談で言っているのか知らないが、ライカの顔を見ながらそう思った。
「私は施設育ちだ。ライズ博士の、あいつとは腐れ縁、いや親みたいなものだ」
天井を見上げるエリーゼ。悲しそうな顔、だけど瑞穂にはエリーゼがとてもきれいに見えた。
彼もまた自分の家族を失くしている。ライズ博士を殺したとか言っていた。やはりそれは本当なのだろうか?
「親みたいなものか。それで、カードを破壊できると言ったな。それは能力者を普通の人間にすることができるってことなのか? だったらすごく使えるな」
瑞穂にとっては、そこのところは、大いに興味がある。
「結構冴えている。その通りだ。凶悪な能力者を普通の人間にすることもできる。もっとも私の気分次第だけど」
「ふざけるなよ。どれだけの凶悪な能力者が、この世界にいると思っている」
この女やはり自分とは合わない。瑞穂は確信する。
「君こそ勘違いしている。能力の有る、無しに意味はない。人間は複雑な生き物だ。君は生まれた環境が悪かったから、あの子は犯罪に走った、だから仕方ないとわめいている子供だ」
「なんだと、お前は俺の何を知っている?」
「なにも知らない。でも能力が無くなったからと言って真人間になるとはかぎらない」
この二人、ちょっと険悪すぎる。その場の誰もが思った。そしてミーナが口を開いた。
「はい、はーい。痴話げんかもそれくらいにして。とりあえず今日は解散! 明日また集合ね。私とエリーゼは話があるから。三人ともじゃねー」
「うぃーす」何かを察したのか。ライカがそういって瑞穂とセリカの手を引っ張り部屋から出て言った。