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終末のリグレット

『シールドナイン』

それはこの世界のあらゆる場所に存在する組織である。例えば、日本では大きく分けて、東北、関東、関西、九州に分けられている。

それぞれの国の大きさ、人口、経済規模などにもよるが『管理官』と呼ばれる、お偉いさんが存在する。

 多くの国では、大体一人だが、大国となると複数の管理官が存在する場合がある。『シールドナイン』には一番の権力や権限を持った人間が存在せず、管理官と呼ばれる人達がそれぞれ多数決や話し合いで方針を決めたりする。


 技術部やら戦闘専門、人命救助、他にもわけのわからない部署が存在する。


それぞれの部に役職や階級がある。

基本シールドナインは管理官が平等に絶大な権力を持ち、その他諸々は組織の平社員ということになる。それだけ管理官達がすごいということでもある。もちろん管理官じゃなくてもすごいやつは沢山いる。


シールドナインという組織は一言でいえば、『最高のなんでも屋』とキャッチコピーが付けられている。主に能力者関係の犯罪を扱うが、要人護衛から環境保護活動までも手掛ける、突っ込みどころ満載のかなり自由な組織。


その理念はこうだ。

 すべてを助けられると思うな、大半を守るためにつくせ。

 善悪は自己判断で、したたかに行動しろ。

 絶対に死ぬな、死ぬくらいなら生きて後悔しろ。


 はっきりいってメチャクチャだ。それでも、この組織が成り立ち存在しているのは、属する人間がすごいからだと瑞穂は思う。はっきりいって変なのが多いのが問題だ。千堂瑞穂はそう思っている。


瑞穂やライカが所属する、シールドナイン関西本部。二人はやっとのことで帰ってきた。


 色々な施設が含まれた建物が密集しており、寝泊まりするための施設も完備されている。

 瑞穂は主にここで生活している。


 二人の前に豪華な机に肘をつけて、両手を組んで顎を置いて座っている女がいる。

「また、姿を変えたのか? あまり若い姿はやめてくれ。気まずくなるだろ」


 瑞穂が目の前の白いホイップクリームが混じったような、薄い黄色の金髪の女に、呆れたように言った。

「あなたと同い年くらいの時の姿よ。十七歳の頃バージョン」

 気にいらない? そう言って笑う女。黄色いドレスを揺らしながら、膝を上げ、椅子に両足をつけて手を組み三角座りの体勢をとって、クルクルと椅子の上で自分の体を回す。ご機嫌そうだ。


 彼女はシールドナイン日本の管理官の一人、志乃笠しのかさ 魅伊那みいなだ。


「てゆうか、ライカはなんでそんな格好なの? 可愛いけどさー。あっ、豚まんありがとー」

 ライカが少し顔を赤らめて、テレながらミーナに豚まんを渡す。


「いえ、少し仕事の関係で、それよりもミーナはなんでそんなに若くなっているんですか? 私は前の二十代後半ぐらいの方がカッコよくて好きです」

「ありがとー。でもこの先のことを考えて、とりあえずこの年代がいいかなって思ってさ」

 ライカが頭の上にハテナマークを表すかのように、腕を組んで考えている。


 その時ミーナの横にいた二十代後半ぐらいの年齢の男が、ため息を吐きながら言った。

「自分は止めたけどな。いつも通り聞かないから諦めた」


 彼は更輿湊さらこし みなと。ミーナ管理官の右腕というよりも雑用係だ。これでもかなり優秀らしい。黒いスーツをきっちり着こなした、真面目そうな男。


「なんで? この姿だと可愛い服着たりできるのに」

「恥ずかしいからに決まっているでしょうが。二人で歩いていた時、私が変態みたいにみられましたよ。どっかのおばちゃんに!」

「まぁ、いいじゃないですか。どうせ湊はロリコンなのでしょう?」

 そう言ったライカが口に手を当て、うわっ、気持ち悪いみたいな蔑んだ目で湊をみつめる。


「もういい。本題に入ってください」

湊が呆れたようにため息をまた吐いていった。


「俺とライカに話って、いったいなんだ?」

「そうねー、どこから話せばいいのか」

ミーナが少し俯いて言う、その声はどこか暗い。

「二人ともさぁ、『終末のリグレット』って知っている? さよならベイベーこんにちは~ってやつ」


「は? なんだそれはふざけているのか?」

 瑞穂がつっ込むように気の抜けた声でそう言った。

それでもミーナが真剣な顔で瑞穂を見つめている。瑞穂は冗談なのかわからない、戸惑った顔をしている。


「瑞穂、知らないのですか? 最近流行っているオカルト関係の話ですよね?」

 ライカが目を輝かせて、右手の人差し指をたてて言った。


「そのふざけた様な、さよならベイベーって?」

「ネットの『ボちゃんねる』っていう情報やら意見交換、くだらない雑談話を行うサイトで有名だったりもしますけど」


「悪いが全然知らない。というかライカ、そのボちゃんねるって危ないサイトじゃないのか?」 


「危なくはないですけど、まぁ衰退しまくりで、いまやネットの情報操作や金儲けを企む奴らに利用されている、その他ステマ疑惑が絶えませんが。私はアニメ関係の話でよく見たりしているのです。昔から」


 昔からって、お前の昔はいつだよ。そう思いながら瑞穂は考える。そんなの聞いたこともない。

「瑞穂、こう言えばわかるか。いわゆる終末論ってやつだよ」

湊がフォローするようにいって説明し始めた。

 

 終末論、それは政治や経済が不安定な時、暗い時代に盛んになる。世界は滅亡するという噂のようなものだ。日本の場合は少し前にとんでもなくブームになった『ノストラダムスの大予言』が有名だ。

「昔に流行った恐怖の大王が落ちてくるとかいうやつみたいなものか?」

「うーん、そうね。まぁそんな感じかな。瑞穂はこういう話信じているの?」


 ミーナが興味深そうに瑞穂に聞く。

「わからない。正直どうでもいい」

「はー。相変わらずねぇ。ライカは?」

 少し落ち込むような素振りをみせライカにも聞くミーナ。

「私はロボットのくせにそういう話に夢を感じます。開発者の影響もありそうですが、と自己分析してみます」

「ふふっ、夢があっていいわね」

 そう言って笑うミーナ。


「結局何も起きませんでしたね。騒ぐだけ騒いで。キ○ヤ○はどうしているのでしょうか?」

「あら、今も創作したりしているじゃない。おじいさんの名にかけるやつとか。犬と人間の探偵コンビとか。サッカーのやつとか」

「なっ、なんだってーー!」

「ちょっと、管理官もライカもヤバイ話はしないでください。それに話がずれていますよ」

 湊がそう言って二人をとめる。


 ほんと湊は大変だな。いつものようにそう思う瑞穂。

「それでその話がなんだ?」

「さっき言った『終末のリグレット』なのだけど。ライカ説明できるかしら?」

 さっきまでとは変わって、真剣な顔つきになり、鋭い声でライカに振るミーナ。


「そうですね、簡単に言えば、都市伝説、ネットで流行っている話題の情報、噂話です。内容は簡単に言うとこうです。近い将来、もうすぐ世界は滅亡する、そういう話です」


「いったい誰がそんなことを?」

 くだらない。なぜそんなに夢中になれるのか。そう思いながら言葉を発する瑞穂。

「それがわからないのです。さよならベイベーとかいう、ふざけた名前も、いつから流行り出したのかも」

 瑞穂もネットやればいいのに。今度教えちゃろか? でもエロサイトばかり見るのはダメですよ。そう言って、瑞穂の顔を指さすライカ。


「みずほー、オカルトなんてそういうものよ。あなたはもっと色々な情報に貪欲になるべきね」

 ミーナも瑞穂を指さしそう言う。


「わかった、今度勉強してみるよ。それでその話が? ただの戯言じゃないのか?」

 そう、ここからが本題。よく聞いてね。そう言って、両手を合わせてパンという音をだすミーナ。これは彼女のよくする癖なのだ。


「今後数年以内、ううんそれよりもっと先かもしれない。日本を発端に世界が滅亡すると言うのは本当みたいなのよ」


 本当なのか? 考える瑞穂。俺を騙しているのか? ふとそう思い皆の顔を見渡す。ミーナとライカはよくいたずらの様な事をする。ドッキリカメラの過激版のようなキツイいたずらを。

 だがみんな真剣な顔で瑞穂を見ていた。


「冗談ではなさそうだな。どういうことだ?」

 そういった瑞穂に、俺が説明しよう、湊がいう。


 「最近予知関係の能力者の多くが、世界が滅亡する予知を見る例が世界中で頻発している。それも能力のとてつもなく強いものから微弱なものまで」

「内容はどうなっている? みなと」

「内容は様々だな。宇宙人が攻めてきたという、ありえなそうなもの。ぐちゃぐちゃになっている世界中の都市を見た。これが一番多いかな。問題なのは、能力者の多くが、日本が発端になっている。自分の感や本能がそう告げていると言っていることだ」


「そうなのよー。おかげでお偉いさんをなだめるのが大変だったわ。私を嫌う他の糞管理官からは嫌味を言われるし」

 そういって机に頭をつけてうなだれるミーナ。まるで受験勉強で、どうしてこんなことしなくちゃいけないの? と不満を漏らす子供のように見える。


「まぁ、噂話はありがたいかな。おかげで大衆はパニックになることもないし」

 あー、思い出しただけで腹立つ。あの糞野郎。そう言って座ったままジタバタするミーナ。


「なぜ本当だと信じられる? 能力者の言うことだぞ」

 強い声でそう言う瑞穂。

「あー、また瑞穂は」

 ジタバタするのをやめて、頭を上げるミーナ。背筋を伸ばし真剣な恐い目で瑞穂を見つめる。


「あなたはまた、そうやって能力者を蔑む。そうね、あなたも知っているでしょう。最近、昔にまして怪現象がおきていること。例えば妖魔関係。能力者の私の言うことは信じられない?」


 妖魔とは、いつからか、わからないが昔から存在するこの世界の不思議の一つだ。妖怪やら伝説の生き物が存在し、稀に人の目に姿を現すこと。ただし、最近は目撃例が増加しており、邪悪で凶暴なモノの出現が相次いでいる。


「そうだな。すまない悪い癖だ」

「うん。正直でよろしい。まぁ、妖魔関係は日本では『九紋宝真家くもんほうしんけ』の専門だからいいとして。それでも世界は常に不安定なの。だから私達のような組織や人間が必要になる。


「それぞれの国の権力者たちはどう考えている?」

「あー、ダメダメ。日本はもう知らんとして、クロイツ連邦は東と西で冷戦状態。慧楼国は能力者の組織の暗躍と国内の問題山詰みで手いっぱい。あとあそこも一つになろうとしたのに、ある国がやらかしちゃって大混乱」

 虫を払うように手を振りかざし、だるそうに言うミーナ。


「そもそも瑞穂はのんきすぎますよ。日本のトップなんて、マジで宇宙人なんじゃないかって、ブラックラインに狙われていますからな」

 フフフと口に手を当て、奇妙な動作でそういうライカ。


「いや、それもうわさだろ。そもそも宇宙人なんていない」

 そう言ってライカにデコピンを喰らわす瑞穂。

「いてっ、乙女になにすんじゃー」

 落下してきた隕石の様に、ライカの握った右手が瑞穂にめり込んだ。なぜかライカに腹をぶん殴られる瑞穂。「うごっ」といって腰を折る。しまった油断した。このロボット加減を知らないからな。


「あら瑞穂、知らないの? ブラックラインの連中は、本当は宇宙人関係の仕事をしているのよ。表向きは国の治安維持として世界中に置かれているけど」


「それは本当なのか?」

 真剣な顔でミーナに聞く瑞穂。

「うそにきまってんじゃん」

 口を押さえて笑うミーナ。彼女はいつもこんなくだけた感じだ。

「ドヤ顔をやめろ」


 その時パンパンパンパンパンパンと手を叩く音が部屋に響いた。

「三人ともいい加減にしてください。話がズレまくっていますよ」

 はぁ~~~~~~~。そういって深いため息を吐く湊。

「ごめん、みなと」

 三人同時に謝った。

こいつ絶対結婚したら尻に敷かれるな。一人心の中でそう思うライカであった。


 その後しばらくして、これらの話を踏まえたうえで命令するわね。ミーナがそう言って瑞穂とライカを交互に真剣に見つめる。


「実はね、あなた達には特別なチームを組んでもらうことになったの」

「なるほど、それが重要な話ですか」

「チームだと……。俺とライカの二人の特殊なやつか?」

瑞穂が下を向いて、呟くように言う。ライカが横目で心配そうに、その様子を窺う。


「外国は知らないけど。シールドナイン日本では凄腕を集めた、そういうチームを作っていくことになった。その滅亡対策やらも視野に入れてね」


 湊は一人思う。ミーナ長官はそう言っているが、きっと、うちのシールドナイン関西支部で創設されるチームはただ、そのためだけのものではない。その内定済みのメンバーが既に異常だからだ。それにきっとこれは、瑞穂のためでもあるのだろう。口に出しては言わないが、ミーナも自分も同じ気持ちだろう。


「とりあえずメンバーは、瑞穂、ライカ。あと二人は明日紹介するね」

 ミーナがそう言った後、重い沈黙が流れ、瑞穂が口を開く。

「おれはもう、仲間や相棒はいらない」

「瑞穂……」

 ミーナが悲しそうにそう呟く。湊とライカは彼を見つめる。


「なにを言っているのです。わたしは瑞穂の相棒のつもりですが」

「ああ、そうだったな。でも俺は一人でも大丈夫だから」

 作り笑いでそう言う瑞穂。


 ふぅー。今度はミーナが深くため息をつき言い放った。

「瑞穂、お願い。もうあんなことは絶対させないから。私が絶対にさせないし、ゆるさない」


 そんな目で俺を見つめるな。俺にはどう答えて言いかわからない。瑞穂は悩む。そして機織り機のように言葉を紡ぐ。

「それは、もう、いいんだ。わかった。じゃあ行くから」

 そういって、素早く部屋を出ていった。


「そっと、しておきましょう」

 しばらくして、ライカも心配そうに出ていった。部屋に残った湊とミーナの間に沈黙が続く。ミーナがドンっと言う音を立てて、顔を机にくっ付ける。


「やはりこうなりましたね。ミーナ管理官」

「わかっている。彼も変わらなければならないの。このままだと世界の前に彼が潰れてしまうわ」

 瑞穂はまだ若い。私のように後悔してほしくない。あの子たちは、未来への希望なのだ。

 ミーナはそう思い、机に伏せたまま目を閉じた。


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