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決意

「ふう…」

パンクウルフを追い払ったローリィは一息ついた。

ルーリィは怪我をしているが無事みたいだ。

あの子がここまで追い詰められるとは珍しい。

この孫は訓練された王国兵と対等に戦う力がある。

身内びいきではない。

今までの経験を元にした歴戦の戦士としての見解だ。


ルーリィのすぐ脇で倒れている少年がいる。


「ユウキ?」

怪我をしている。彼も戦ったのか?


少し離れたところにすでに動かなくなっている大きな獣を見つける。

ローリィはすでに死骸となっているキラーベアーを見てすぐ違和感を感じた。

目が血走っている。

キラーベアーの体に触れてみる。

足が硬直したように固まっている。

それより筋肉の膨張か異常だ。

両足が膨れ上がっている。

この異常な体はいったい…。


このキラーベアーの寿命は残りわずかだったのだろう。

毛がほとんど茶色くなっている。

キラーベアーは年を取るにつれて黒毛から徐々に茶色に生え替わり、最期には全て入れ替わる。

だがこのキラーベアーはまだ若いはずだ。

年を取った個体ならばもっと体や顔に傷痕がついている。

この森のサバイバルの厳しさをよく知るローリィはそう判断した。

森で最上位の強さを誇るキラーベアーもその例外ではない。


なぜこの若いキラーベアーの寿命がここまで進んでしまったのか。


「おじいちゃん!助かったよ」


ルーリィが顔をほころばせながらローリィに近づいてきた。

パンクウルフにやられた足をかばいながらゆっくりと歩いている。

「ルーリィ。このキラーベアーと戦ったのか?」

「そう。こいつすっごい強くて…動きは早いし岩は砕くし…」

ルーリィの顔にはまだ恐怖の色が残っている。

「…やはりな」

このキラーベアーは突然、力を暴発させたのだ。

寿命を犠牲にし異常なまでの力を手に入れて。

理由はわからない。


「私も死ぬとこだったよ。…そこにいるユウキがいなかったら…」

そう言ってルーリィはそばで地面に伏せている優希に目を向ける。


「ユウキも戦ったのか?」


ローリィは一部始終をルーリィから聞く。

警備にいった村人がパンクウルフに襲われて助けにいったこと。

パンクウルフを追い払ってすぐにキラーベアーが現れたこと。

ルーリィがキラーベアーにやられそうになっていたところを優希に助けられたこと。

そして優希が圧倒的な強さでキラーベアーを殺したこと。


話を聞き終わるとローリィは信じられないという顔をしていた。

この少年は昨日この世界に来たばかりだ。

ルーリィから聞いた話だと戦闘はほぼ素人だったようだ。

キラーベアーは危険度B 級の魔物だ。

装備を整えた精鋭の兵士や手練れの冒険者がやっとのことで一人で倒すことができる、と言った強さだ。

新米の冒険者や兵は決して相手をしてはならない。

さらにルーリィから聞いた話を考えるとこのキラーベアーの危険度は実際にはもっと上だろう。

A級上位はありそうだ。

それを打ち倒した。

この少年は何物なのだろうか。


しばらくし、怪我をしていた村人をプルス村まで送り届けた男達が応援にやってきた。

「ローリィさん!帰ってたんですね!………っ!!このパンクウルフ達は…?キラーベアーまで…」

男達は十匹近いパンクウルフとキラーベアーの死骸をみて驚く。

パンクウルフの群れやキラーベアーは餌の多い山の中心部、山腹に生息している。

餌にありつけないパンクウルフ数匹が山頂にたまに近づくことはあっても、キラーベアーに関してはそこまで餓えることはほぼ無いといっていい。


「詳しいことは後にしよう。村に戻ろうか」

ローリィがそう言い、皆頷く。

ルーリィも早く帰って休みたいと言った顔だ。

ローリィはユウキを背負う。

「おじいちゃん!私がおんぶするよ!怪我させたのも私のせいだし」

なぜかルーリィが顔を赤くさせ立候補してきた。

「お前も怪我をしているだろ。無理するな」

ローリィはそう告げるとそのまま歩きだした。

ルーリィは少し不満そうな顔をするがすぐに仕方ない、と納得したように頷き、村へ歩きだした。



‐‐‐



優希は目を覚ました。

ここはどこだ?と一瞬思うがすぐに見覚えのある部屋のベッドだと気付く。

プルス村のローリィの家だ

「いてててっ…」

体を起こすと身体中に筋肉痛が走る。

昨日のことは覚えている。

魔物と戦った。

ルーリィはすげえ強かった。

俺もオオカミはなんとか倒したがあの恐ろしい熊は無理だった。

気絶する前にルーリィが再び熊に挑んでいったのを何となく覚えている。

俺も生きていると言うことはルーリィはあれに勝ったのか?

ルーリィと言えどもあれは分が悪そうだったがそうだったとしたら流石だな。

それとも応援が駆けつけてくれたのかな。


俺は少しストレッチをする。

固くなった筋肉を伸ばしマッサージをする。痛気持ちいい。

筋肉痛になったのなんて何年ぶりだろう。

ここまで本気で体を動かしたのは久し振りだ。


階段を降りると部屋には椅子に座ったローリィの姿があった。

ローリィは優希に気付くと穏やかに声をかけてきた。

「起きたかい。今日はすまなかったね。村の為に体を張ってくれて。一村民ととしてお礼を言わせて頂くよ。ありがとう。君達がどうにかなる前に間に合って良かった」

俺も椅子に座り、返事を返す。

「間に合って…ってことはもしかしてローリィさんが助けてくれたんですか ?ルーリィは無事ですか?」

「ああ、私は山の麓の町に用があってね。何か山中の様子かおかしいと思って急いで山を登ったよ。ルーリィはまだ寝ているよ。魔力切れで疲れているのだろう」


なるほど。ローリィが助けてくれたのか。

やたら村人やルーリィからリスペクトされてるもんな。

あんな化け物に勝つなんて。人は見かけによらないな。

ルーリィも無事で本当に良かった。


「こちらこそ助けてくれてありがとうございました。ルーリィは強いですね。俺なんてオオカミ二匹倒しただけで大して役に立ってないんで。あんなでかい熊の魔物を倒すなんて。ローリィさんも化け物ですね」

するとローリィは眉をひそめて俺を見てきた。

何言ってんだこいつ。見たいな目だ。

何か失言したか?

あれか。やっぱり化け物呼ばわりは不味かったか?

俺としては誉めたつもりだが。

この世界は日本のように「怪物」という称号が誉め言葉とはとらえられてなかったか。


俺が気まずそうに黙っていると。


「覚えてないのか?」

ローリィはそう言い、真面目な顔をしている。ちょっと怖い。

「え?だってローリィさんがあのでかい熊にやられそうになっていた俺らを助けてくれたんでしょ?俺は気絶してて倒したとこは見てなくて…」

「確かに魔物に襲われている君達を私は助けた。だが私が倒したのはパンクウルフ…君が言っているオオカミの魔物だけだよ」

「じゃ、あのでかい熊はどうして?やっぱりルーリィが?」

ローリィか口を開きかけると先んじて後ろから声が聞こえてきた。


「キラーベアーを倒したのはユウキなんだよ」

後ろにはルーリィがいた。

いつからいたのだろうか。ずっと聞いていたのか?

つーか俺があれを倒しただって?

そりゃー無理があるにもほどがあるだろ。


「ルーリィ。もういいのか?」

ローリィがルーリィに気遣うように言う。

「もう大丈夫。魔力も少しは戻ってきてるし」

「無事で良かったよ!ほんとマジで」

とりあえず優希もルーリィに声をかける。

「ええ。ユウキも無事で良かった。ところでユウキ。本当に覚えてないの?」

「いや、覚えている…つもりだったよ。ルーリィを追って俺も魔物と戦って。オオカミ倒して。熊にやられて気絶して。でも…そうじゃないのか?」

「その後私がキラーベアーにもう一度挑んだけど、やられてまた殺されそうになったの。最後の一撃を加えようとしてきたキラーベアーの攻撃からあなたが私を守った。そしてそのままキラーベアーを倒した。あっさりとね」

信じられん。

呆然としている優希にルーリィは呆れたように笑っている。

「ユウキ、強かったんだよ?私は自信を無くしたよ」

敵意はないが二人に多少の警戒の色も伺える。

そりゃあ、あのでかいのをあっさりさっぱり倒しておいて覚えてないって言ったら疑いもするか。

だが俺があれを倒せるのか?いや無理だろ。

冷静にそう思える。

だが自分の記憶が消えている可能性は否定できない。

この世界に来た時もそうだ。

最近こんなんばっかりだな。

とこっそり苦笑する。


「まあ覚えてないなら仕方ないだろう。今日は私が夕食を作った。とりあえず食事にしよう」

ローリィの一声で優希は自分の空腹を自覚する。

ルーリィも硬かった顔がほぐれる。

今日の夕食は猪肉と野菜を煮込み味付けしたものだという。

ローリィの作った料理も大変美味しい。

肉は大きく切ってそのまま鍋にいれてある。

細かい調理はないまさに男料理といったものだが、肉によくスープの味が染みている。

多少ぎこちなかった優希と二人も、夕食を食べ終わる頃には和気藹々と言った雰囲気になっていた。

やはり食事はいい。




‐‐‐




夕食を終え、しばらく二人と話したあと寝る時間となった。

優希はベッドに横たわりながら今日の出来事を思い返す。

「本当に魔物いたんだなぁ」

魔物との戦いは恐ろしかった。

とくにあのキラーベアーという熊はヤバイ。

ルーリィも俺も死ななかったのが本当に不思議なくらいだ。

聞くとキラーベアーを倒したあとに今度はあのオオカミどもが10匹ほどの群れで襲いかかってきたと言う。

「こんな世界じゃ命がいくつあっても足りんな…」


優希は勘違いしていた。


いくら危険な森とはいえ普段はここまでではない。

パンクウルフは村付近に出てきて一週間でせいぜい数匹だし、キラーベアーは山腹の森のなかにいる。

遭遇率は高いわけではない。

この日が異常だったのだ。

だが優希にはそれがわからない。

これがこの森の、この世界の日常だと思った。

そして優希は思った。強くなろうと。


ローリィに弟子入りしようと閃いた。


ローリィは村人から頼りにされ、実際に二人がパンクウルフに殺されそうになっていたのも助けてくれた。

ルーリィ曰くあのオオカミ達十匹を速攻で倒し追い払ったそうだ。

その孫のルーリィが強いのも頷ける。


勘違いはしていた優希だがこの判断は正しかった。

もちろんこの山を下ったり登ったりする分にはある程度の危険はある。

素人が一人でそれを行うなら半数以上が死亡するだろう。

ただ、経験ある冒険者に護衛を頼めば大体80%が無事にたどり着くことが出来る。

だが逆に言うとそれでも20%の死亡率があるということだ。

この村で生きるにはいくらか戦える方がいいのは間違いなかった。



翌朝、俺はローリィに弟子入りした。



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