魔力
「違う世界?」
ルーリィは理解できないという顔をしている。
ローリィはそんなルーリィを気にせず優希に言った。
「当分はうちで暮らすといい。さっきの二階の部屋は空き部屋で余っている。遠慮なく使ってくれ」
「ご飯これから三人分作らなきゃね。いやユウキはたくさん食べるし四人分作った方がいいかな?」
とルーリィも腕を捲る仕草を見せて優希に笑いかける。
「え?いいんですか?助かります。ありがとうございます」
この家の二人は本当に優しい。ここは素直にお世話になっちゃおう。優希は礼をいいながら頭を下げた。
「気にするな。年よりの話し相手が増えて私としては嬉しい限りだよ。もう遅いし今日は寝よう」
ローリィはそう言って話を打ち切り、寝室と思われる部屋に入っていった。
ルーリィはまだまだ話足りないという表情だったが仕方なく寝ることにしたようだ。
おやすみと優希に一声かけ、寝室に入っていった。
優希は階段を登り部屋に戻った。
「確かにここは日本ではないみたいだな」
間違いなく日本には虎もいなければ魔物なんてものもいない。そしてあの二人も人を騙すような人間には見えない。
優希は初めは混乱していたが、次第に冷静になっていた。
「でも全然思い出せん。たしか今日は始業式で、学校終わって家に帰ってて…。…そこからの記憶がぶっ飛んでるな。俺家着いたんだっけ?」
無理に思い出そうとするとひどく頭が痛くなる…。
しばらくし、
「まあいいか」
と優希は楽観的に考えて言った。
どーせこのまま日本に帰ってもみんなの雰囲気は受験モードだ。
俺みたいのがいても空気を乱すだけだろう。
この日本とは違う世界で暮らしてみるのも悪くはない。
「あれ?そういやなんで言葉通じてんだ?」
日本語をおもいっきり話してるつもりだが…。日本を知らないと言う二人か日本語を理解できるわけがない。
とりあえず今は分からないことが多すぎる。
今日のところはもう寝て明日また情報を集めよう。
‐‐‐
次の日、朝食を終えたあとローリィから提案があった。
「とりあえず今日は村を見て回ってはどうかな?ルーリィも一緒についてもらう。分からないことがあったら聞けばいい」
「そうですね。俺もそうしようと思ってました」
俺としてもまだこの家の外のことも分からない。とりあえずはこの世界の物を色々見てみよう。
「この村のことなら任せてね」
ルーリィが胸をはって言った。
‐‐‐
家の外は日本でいうと地方の田舎の村と言ったところで、畑や水田、家畜小屋が所々にあった。
村全体は広くはなく、ローリィの家から村全体を一望でき、同じ木造のものでローリィの家より少し小さな家がいくつか点々と建てられていた。
ちなみにこの村はプルスと言うらしい。
優希はルーリィと話しながらしばらく歩いた。
こうして見ると、日本との違いは、都会か田舎かの違いはあるが他には特に変わったところはなく、異世界というのが信じられないくらいだった。
ふと空を見上げる。
山の上で自然に溢れた環境というだけあってすごく空気が美味しく感じる。…若干空気が薄いが。
空も雲もなく綺麗だ。
しかし、空を見て優希はすぐ違和感を感じた。
やたら目立つ星があるのである。
同じ形の同じような星がトライアングルをなすように浮かんでいた。日本にはまず無い。日中に星なんて見えはしない。
初めて日本との明らかな違いをみつけた。
ルーリィに聞くと
「その年であの星を知らないってことはやっぱりユウキは違う世界から来たってことだね」
ルーリィはうんうんと一人で納得しながら説明を始める。
「あれは創造神様、自然神様、時空神様の象徴とされる星で、この世界はその3つの神様から作られたと昔から信じられてるの。そして神様達は自分達が常に世界を管理しないで済むようにあの星を作って、あの星から生命が必要な様々なものをこの世界へ送りこめるようにした。あの星は神様の魔力の塊みたいなものかな。私も詳しくは説明できないけど大体こんな感じ。わかったかな?」
「なるほどね。わかりやすかったよ、ありがとう。ただ一つ最後ので分からないことがあったんだけど、魔力っていうのは何?」
「えっとぉ…」
ルーリィは少し困った顔になる。
「なんて言えばいいのかな?生物全体にある力の流れみたいなものって言えば良いのかな?」
俺は漠然とした答えに難しい顔をしていたようだ。
それを見たルーリィは申し訳なさそうに言った。
「ユウキの世界では魔力って無かったんだね。皆持ってるものなんだけど…。魔力は魔力としか……そうだっ!」
ルーリィはポンッと手を叩き、いきなり自分の手を近くの大きな岩にぶっつけ始めた。
優希は急いで止めた。
「やめろよ!!俺が悪かった!!魔力なんてもの理解出来なくても生きていけるし、そんなことするのやめてくれ!!」
優希のあまりの必死さにるルーリィは手を止めキョトンとしている。
見れば既にルーリィの手から血がダラダラと流れだしている。
「見ろよ。もうこんなに血が!自分を大事にしろよ。もう」
「なーにいってんのよ。魔力の説明を言葉じゃわかりづらいから今から実際にこの傷を魔力使って治して説明しようって言ってんじゃないのよ。」
「だからもう説明なんてしなくていいって……って、今なんと?」
ルーリィはそれに答えず何かをぶつぶつとぼやいている。
「偉大なる三神よ。その御力を我に。我が傷を癒したまえ」
するとルーリィの片方の手が光りだし、もう片方の手の傷がみるみる癒えていった。
優希は驚愕の表情を浮かべ、独り言のようにぼやいていた。
「今のが魔力で…?」
それを聞いたルーリィは得意気に
「そうだよ。魔力がある程度あればその力を形に変えることができるの。私は治癒術しかできないけどこの村じゃ一番の治癒術の使い手なんだよ!」
こりゃ魔法じゃねえか。テンション上がるな~。
みんなに魔力はあるものって言ってたし俺にも出来るのかな。
「まだ15才なのに村一番はすごいね。こうゆうの俺にも出来る?他にも火とか水とか出せるのかな?」
「どうなんだろ?さっき言ったように魔力量がある程度必要になるから魔力が少なかったら形には出来ないかな。火や水を出す術もあるけど人に寄って向き不向きもあるから。私は治癒術しか使えないし」
「どうやってやるの?」
優希は珍しくワクワクしながら聞いた。
「一から説明しようか。多分それが一番早いから」
ルーリィはそう言って一つ一つを丁寧に教えてくれた。
まず魔法を使うにはある一定量の魔力がなくてはダメらしい。
そして創造神、自然神、時空神の三つの神にお願いする。自分の求めるものをイメージし、イメージを形にするよう3つの神に願う。
願いが届けられたら自分の魔力はさっき説明にあったあの星へ購われ、捧げた魔力は形となって星から送られるそうだ。
ただし魔力量は足りていても形にしてもらえないことがあるらしい。それが先ほどルーリィがいった向き不向きの点らしい。
理由は分からないが元々術を使えるほど魔力量がない人がほとんどの為、ルーリィは高望みはしないと思い、調べてはいないらしい。
説明を終え、早速言われた通りにやってみたができなかった。
元々半分以上の人が出来ないと聞いていたこともあり、俺は若干へこんだがさして気にしなかった。
その時、村の男達の声が聞こえてきた。
何やら慌ただしい。
「おい!!急げ!!」
みな村の出口に向かっている。
何やら嫌な予感がする。
「どうしたんですか!?」
ルーリィが男に聞く。
「おおルーリィちゃんか。丁度よかった。山の警備に出ていたやつが魔物に襲われて怪我しちまってな。皆で協力して魔物と戦おうとしてんだ。ローリィさんに頼みてえとこだか町に用があるってんで下山しちまったからな」
「私がいきます。優希はこの村で待ってて」
ルーリィは短くつげて村の外へ走っていった。男も急いで同じ方向へ向かった。
優希は一人残された。
「なんか危険な感じだし、やばそうだけどどうしよう。待ってろって言われたしな…」
でもルーリィも心配だ。
俺は少し悩んだがルーリィについていこうと決め、遅れて村の外へ走りだした。