消されていた記憶
夕食が終わり、二人からどういった経緯で俺がここにいるのかを聞いた。
「え?覚えてないの?」
優希は頷く。
「ここは山のてっぺんにある村でね。そしてこの山道の途中であなたは倒れてた。それをたまたま野草探しで山を下ってた私が見つけて、おんぶしてここまで運びこんだの」
ルーリィにそうは言われたが優希は全く山を登った記憶は無かった。
全く自覚が無いといった様子の優希を見てルーリィは少し顔をしかめた。
「全く感謝してほしいもんだわ。私が見つけてなかったら今頃あなたは魔物か熊か虎あたりの餌だったでしょうよ」
ルーリィの言葉の三つの登場生物の内、優希には聞き慣れてない言葉が一つ混じっていた。
「へぇー。魔物か熊か虎あたりにか。そりゃ物騒だね……って熊に虎、それに魔物!!?」
「そうだよ。熊や虎は厄介だよね~。魔物と違って獣を殺し過ぎると創造神様から天罰が下るからねー」
「いやいや、そこじゃない!熊や虎は良いとして…いや、良くはないけど、魔物って何なの?やっぱり人を殺そうとしたり襲ってきたりするやつのことを指して言うのかな?」
いつしかローリィは優希の反応を見ながら黙って二人の会話を聞いていた。先ほどの優しい目ではなく真面目な、時には厳しい視線を優希に向けていた。
そんなローリィに二人は気づかずそのまま会話をすすめる。
「何言ってんのよ、そりゃそうだよ。要は人に害を及ぼす生物の総称。別に珍しくもないでしょーが。魔物は大陸全域に生息しているし。まあ町から町へ移動する分には街道をすすめば襲われることは少ないけどね」
優希はあっけにとられてルーリィの話を端折ることも出来なかった。
「ただこの村は山頂。人工的な道が無い分、魔物との遭遇率も高いわ。そして山には平地より強い魔物が多く生息している。きっとあなたもこの村に来る半ばで倒れたものだと思ったんだけど…?」
覗きこんでくるように優希を見て自然と上目遣いになって問いかけるルーリィ。
うわ、可愛い。
そんな目線で見つめられたら僕…。そうだよ僕は君に会うためにこんな山奥の村まで……って違う違う!そうじゃない!!
なんなんだ?
魔物ってまるでR P G の世界じゃねえか。これは夢なのか?しかし今俺が力一杯握りしめている拳には爪が掌に食い込む傷みがそのまま伝わってくる。
少しの時間が過ぎ、俺が未だどう答えるべきか悩んでいると…
「お前さんはこことは異なる世界からきたんだろう」
今まで口を閉ざしていたローリィが静かに言った。
え?
そうなの?確かにそう言われればあっさり説明はつく。しかし納得はできない。
なんでそんなことになったんだ?
混乱する優希。
優希は見当もつかなかった。
優希は交通事故直前からクローディアとのやり取りまでのことを忘れていたのである。
いや、正確には記憶を消されていた。