始まりの日
初めての投稿となります。設定や文章に至らない点があると思いますがよろしくお願いします 。
まだまだセミがなりやまない暑さか残る9月。
夏休みが終わり学生達は学校が始まる。始業式である。
中学三年生になる氷室優希は体育館の壇上で表彰される親友を眺めていた。
恒例のサッカー部の表彰だった。この中学のサッカー部は毎年何故か強い。地元の小学生サッカークラブの影響もあるだろう。何人かプロを輩出したこともある。優希もかつてはそのサッカークラブに所属していた。小学校から続く地盤があるからこそ顧問が替わる中学部活でも毎年結果を出せるのだろう。この中学のサッカー部のレギュラーメンバーは数多の名門校から推薦がきている。
中でも優希の親友、麻元祐二はそのサッカー部の10番を背負ったエースとして校内の有名人だ。
顧問が夏休みの大会の成績を報告している。祐二は部活以外にも県代表として呼ばれその中心として大活躍。
生徒の間にもどよめきが起こる。
凛々しい顔立ち、背は180センチには届かないだろうが高い部類だろう。
周囲の体育座りしている女子が目をうっとりさせてため息を吐いている。
男子からはヒーローを見るような憧れと期待が混じった視線を送られている。
「相変わらずすげーな」と優希は苦笑する。その後表情が一瞬曇る。
壇上で表彰されてる親友を見て誇らしくもあり寂しくもあったのだ。
きっと俺とは違う世界に行くんだろう。
きっと会うことは次第に無くなっていくだろう。
サッカー部一堂がそれぞれ表彰され最後に全員で礼をしている。
親友だからこそ思う一抹の寂しさを振り切るかのように周りの誰よりも思いっきり手を叩いて拍手を送った。
‐‐‐
表彰式後の教室。
「相変わらずすげーな祐二君は。女の子の祐二を見る目といったらアイドルを見ているかのようだったぜ。絶対濡れてるなありゃ」
「すげーってそこかよ。って言うかそうゆう失礼な発言やめろよな」
優希の軽い冗談に祐二が返す。
いつものやりとりだ。
「まあでも本当にすげーよ。お前は。きっとプロ入って『俺こいつと友達なんだぜっ』っていつか色んなやつに自慢されてるだろうな。俺もサッカー好きの女の子と知り合ったら使わせてもらうわ」
「お前はそのことしか頭にないのか?お前もサッカー続けてたらな。間違いなく俺より上手くなってたのに」
「うーむ、年頃だからな。俺があんなハードな練習に耐えられるマゾな訳ないだろ。第一サッカーは小学校四年までで飽きたからな。今の俺はお気楽な卓球部で充分さ」
「お前その練習すらサボってただろ」
これは嘘だった。俺は小学校四年まで地元のサッカークラブに所属していた。名門サッカークラブである。その中の有望株として一番期待されていたのが俺だった。
祐二が入ってくるまでは。
優希より一年遅れてサッカーを始めた祐二はみるみる成長していった。当時は今ほど仲良くなく祐二は同年代でエースとして扱われていた俺にライバル心をむき出しにしていた。
チーム内の対抗戦で俺側のチームに負けるようなことがあると泣いて悔しがっていた。
俺は冷めた態度で受け流していた。他にもおんなじような態度をしてくる奴はいたし、年上の上級生からも疎ましがられていたからだ。
そんな奴らはプレーで黙らせていった。上級生との試合でゴール前から一人でドリブルして全員抜いてゴールを決めたこともあった。聞こえるように嫌味を言われ、表情に出さなくてもイライラしていたのだ。
俺も若かったのだ。
たが祐二は違った。
日を重ねるごとに俺のプレーに肉薄してきていた。
そして俺はある日を境にサッカーをやめた。
祐二以外誰も俺にパスをださなくなったのだ。
みんなが俺の元へ集めていたボールはいつしか祐二へと集まっていた。普段から周囲から良く思われていなかった俺とは違い、祐二は持ち前の熱い心でチームを盛り上げていた。いつか俺に嫌味を言っていた先輩も祐二とは喜びを共にしていた。
俺は耐えきれなくて練習にはいかなくなった。
チームの皆と溶け込めなかったからだけではない。
気づいたからだ。自分より才能のある存在に。
自分の限界を子どもながらに感じたのだ。きっとあのままサッカーを続けていたとしても祐二にはすぐ抜かされていただろう。
俺はその後野球のジュニアチームに入る。
俺はすぐさま上達した。
新しいスポーツをするのは楽しかった。
野球を始めて一年でレギュラーの座をつかんだ。
中学に入ると野球のジュニアチームとかけもちで卓球部に入った。
中学2年になると野球のチームを辞め、ボクシングを新しく始めた。
サッカーをやめた時点で何らかのプロスポーツ選手という少年らしい夢は無くなっていた為、辞めるのに抵抗は全く無かった。ただ趣味の一つとしてスポーツを楽しむというスタンスになっていた。
自分より才能のあるやつなんてたくさんいる。だから本気になるなんてばからしい。
経験者をごぼう抜きする上達速度を見せながら優希はそんなことを思っていた。
「全くなんで野球まで辞めちまうかね。優希が本気になったら高校の進路なんて困らねえのに」
呆れながら祐二は言った。
「特待生としてもてはやされ、女子を両手に抱えてウハウハしている運命の君に何言われても響かんよ」
「女子は関係ないだろ。お前高校はどうするんだ?受験勉強だって全くやってないみたいだけど。お前が本気なら学業でも一番上狙えるだろ」
この親友は俺のことを買いかぶり過ぎている。
俺の学業の成績は悪くはないが良くもない。
むしろ祐二の方が成績は圧倒的に良い。いつも学年順位20番辺りをキープしている秀才だ。サッカー部としてハードな日々をこなしながらその成績を維持出来るのは、生真面目かつ負けず嫌いな祐二だからこそだろう。
かくいう俺は遅刻居眠りの常連。
もちろん通知票で5はおろか4も取ったことはない。
おっと保健体育と体育を除いてな。
男たるものいつその時が来るかわからない。しっかり知識と装備だけでも準備してなくてはならんのだ。今も装備品は装備はしてないが所持している。財布の中に。
まだ決戦の時ではないからな。コンドー君待っててくれ。
体育の成績が良かったのは元々体を動かすことが好きだった為だ。高い身体能力と運動神経もあり体育だけはずっと5をキープしていた。
しかしそれ以外は至って平凡だった。
「まあどこか俺でも入れるとこがあるだろ。」
「相変わらずやる気ねえな。」
あっけらかんと言う俺に祐二はため息混じりにそう言った。
‐‐‐
始業式の為、午前中に学校が終わり、優希は一人で下校していた。
祐二は部活である。通常なら引退しているはずだが、まだ秋に大きな大会があるのだとか。
普通の中学三年生は本格的な受験勉強シーズンである。もちろん祐二はサッカーでの推薦が決まっている。
「帰って何しよーかな。こないだ新しく登録したネトゲでもやるかな。」
もちろん受験勉強なんてものをする気はない。
サッカークラブを辞めて以来努力とは無縁な日々を送っていた。
真面目に勉強して良い高校入って、良い大学入ってどうなる?結局サラリーマンなんて働かされるだけ働かされてリストラされるか、定年までこき使われるだけだ。
そんなことを思いながらも、そんな自分を優希は軽蔑していた。言い訳だからだ。努力をすることから逃げているだけだ。
自分を変えなくてはならないのは分かっている。
ただどうしても意欲が沸いてこない。
努力をしてそれが報われないことが怖かった。
ふと、5,6メートル先の横断歩道を渡ろうとしている子どもが目に入る。ランドセルを背負っている。小学一年生くらいだろうか。俺がサッカーを始めたのもあの子くらいの年だ。
前方にはトラックが見える。信号は歩道側が青だ。
「ん?」優希の警戒心が急速に上がる。
明らかにトラックの減速が不充分だった。両目2,0の視力を生かし、トラックの運転手を見る。目が開いていない。居眠り運転だった。日々の仕事に疲労がたまっていたのだろう。
まずい!
子どもはトラックに気づかず歩道を歩きだしている。
優希は全力で走った。
あの小さい身体にどでかいトラックはひとたまりもない。間違いなく死ぬ。
優希はどうにかトラックより先に子どもまで追いつき体当たりをしてを子どもを向かいの歩道まで突き飛ばした。
トラックはもう寸前まで来ている。
俺も逃げなきゃ。再度走りだそうとする。
「っ!!」
痛みで上手く走れない。足をくじいてしまったようだ。
俺は諦めた。
はは、だっせ。かっこわりいなぁ。
今度はトラックが俺に体当たりをぶちかまそうとしている。
駒送りのようにトラックが近づいてくる。
トラックが俺に当たるか当たらないかの瞬間、俺は意識を失った。
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具体的でないただの駄目だしはただへこむだけなんでやめてください(T_T)