第2章~教育実習~
第2章~教育実習~
翌日、俺に大問題が襲いかかった。
講義の後、教授に呼ばれた、その時点で嫌な予感はしていた。
しかし、その嫌な予感は予想外だった。
俺が教員になる実感を持つために、学校実習へ行けという内容だった。
俺は教員になるなんてひと言も言ってないぞ、確かに、教職課程専攻だが・・それは来年度からだろ、なんで、今、行くんだ?普通はレポート提出とかじゃねえのか?
だから、俺は教授に言ってやった。
「まだ、教職の授業を受けていないのに、実習に行って俺に何が出来るんだ!授業のやり方も教わってない」
教授の答えは実習先の学校教員が授業をしているのを見て、学校の雰囲気というものを感じてくれば良いと、要するに実習というより学校見学だ、気楽に行けと。
なんて適当な教授だ。
しかし、授業をサボりまくったツケがこの程度の済むならこれはラッキーかもしれない、そもそも、俺には選択権がないのだ、実習に行けなければ単位が取れないのだから。
教授から実習の概要を渡され目を通した。
「明日からっすか!」
俺にも心の準備っていうものが・・・でも・・女子校じゃん、ラッキー!と言っても、俺は女子高生ファンでもないぞ、ただ、ヤンキーの男子高よりは絶対的に良いだろう。
翌日、教授に言われた通りに学校へ向かった、実習生は俺一人だった。
朝礼で教頭から紹介され挨拶をした。
この手の挨拶は短すぎず長すぎずが鉄則だ、短いと周りの教員からやる気がないとレッテルと貼られ、長いと生徒から嫌われる、この辺の絶妙なバランスが難しいのだ、内容なんて誰も聞いていない要は時間をどう使うかだ。
俺は朝礼台の上に立ち、マイクの位置を直した。
「おはよう御座います、この度、この学校で実習をさせてもらいます・・・・」
俺は在り来たりの挨拶を始めた、しかし、なぜなのか、俺のことを敵対心むきだしの眼差しで睨みつけている生徒が一人いるのだ。
知り合いか?挨拶をしながら俺のデータベースを検索したが・・該当人物なしだった。
ただ、目つきが悪いだけなのか?
「以上、簡単ですが、先生方、生徒のみなさん、これから宜しくお願いします」
俺は挨拶を終え、朝礼台を降りた。
その後、俺は担当教員に付いて教室へ向い簡単な挨拶をした。
あいつだ、今朝、俺を睨んでいた・・・今も睨んでいるぞ、なんで、寄りによってなんか問題がありそうな子のクラスに配置されるとは・・・いや、目つきが悪いだけだ、きっと、そうだ、第一俺はまだ何もしていないぞ、初対面だ、敵意を持たれる理由がない。
しかし、俺の考えは甘かったのかもしれない。
俺のシャープペンの芯が全部短く折られていたり、鞄のファスナーに瞬間接着剤が塗られ開かなっていたりたり、コーヒーの中に塩が入れられているなど、嫌がらせなのか?俺に対して好意的ではない事は確かだった。
犯人は分かっている、吉岡妙子、そう、俺を初日から睨み付けている子だ。
睨み付けているからって勝手に犯人にしていいのか!と読者でそう思われる方も居ると思いますが、99%犯人です、間違いありません。
現に、今、俺は鞄が開かないのです。
そして、その様子を一人だけ微笑みながら見ているのが吉岡妙子なのです。
「先生~どうしたんですかぁ~」
犯人が俺に声を掛けてくるという大胆さ。
「いや、何でもない」
「悪戯されたんですかぁ~ファスナーに接着剤が塗られてますよ~それじゃ、開かないですね~」
「そうらしいな、誰だろう、こんな悪戯をするのは」
「うん、私だよ」
おいっ!簡単に自白したな、すぐに犯人が分かってしまうとつまらないだろう。
「そうなのか・・・なんで、こんな悪戯をするのかな?」
「知らない~でも、先生、これ、ホントは開けられるんでしょ、わざと開かない振りをしてたでしょ」
「なんで、知ってるんだ」
そう、吉岡が言う通りにホントは開くのだ。
「だって、先生だもん」
「はっ?先生だからって、どういう意味だ?それに、俺は先生じゃないぞ」
「知ってるよ、なんで、先生は怒らないの?」
「怒る?何で?」
「普通さ、シャーペンの芯を粉々にされたり、コーヒーに塩を入れられたら怒るでしょ」
「それも全部、吉岡がやったのか」
「うん、そうだよ」
「俺を怒らせたいのか」
「でも、先生は怒らないでしょ」
何らか俺に対して敵対心というか恨みというか、ただ、悪戯が幼稚過ぎて、怒る気にもなれない。
「俺は、なんでこんな事をするのか、その理由が知りたいな」
「理由?さぁ~なんとなく、わかんない、バイバイ~」
「よ、吉岡!」
言うだけ言ってバイバイってそんな・・・これ以上、会話が膨らまないからって、展開が雑じゃないか?
しかし、なんで、俺にそんな事をしてくるのか、理由が分からないままは気持ちが悪い。
まず、敵を知ることから始めるとするか。
学校の端末に俺のノートパソコンをつないでっと、これで、生徒台帳を見てみるとするか。
最近は個人情報保護とやらで、やたらにセキュリティーが掛かっているが、これが、万全だと思っているのだから脳天気なものだ。
学校レベルのサーバーをハッキングするなんて俺にとっては朝飯前ってところだ。
出ましたね、パスワードを入力か・・・このレベルのセキュリティーが有効だと思っているのか。
まさか、担任の生年月日とかだったり、そんな、パスワードを設定しないよな、それは、アホだろ。
「*******・・・・ログイン」
おいっ!マジかよ、ベタ過ぎる、もう少し、俺を悩ませてくれ。
生徒検索・・これか。
「よしおか たえこ」っと、よっしゃ、出た。
住所・・・はっ?俺の家の近所じゃないか。
父親の職業・・・不動産業・・・もしかして、あの不動産屋か?
地図検索してみるか・・・住所を入力して・・やっぱりそうだ。
なんだ、あの不動産屋の娘だったのか。
それで、俺の事を知っているのか?
でも、俺は見た事がないけれどな・・・でも、近所だから、どこかですれ違ったたり程度はあるか・・でも、なんで、俺に悪戯をするんだ・・・俺が気がつかないうちに何かやったか?
俺はしばらくデーターベースを検索したが・・・吉岡妙子という子を接触した記憶は無かった。
将来の夢・・・コスプレイヤー?って何だよ。
成績・・・、なんだよ、この成績、A評価は体育だけかよ、あとは、C評価ばかりだぞ、おっ、D評価もあるのか・・・あいつ大丈夫かよ、卒業出来るのか。
とりあえず、近所に住んでいる事はわかった、しかし、俺を知っていたとしても、だからと言って、俺に何でそんなに敵対心を持っているんだ、ますます、謎が深まってしまった。
まぁ、考えて分からん、メシでも食うか、なんか、この弁当、質素だなって、肉がねえーじゃないか!
メインの焼き肉だけないぞ。
あいつ、仕業か?いつの間に・・・鞄に接着剤を塗っておいて・・・俺がそれを剥がしに行っている間に、弁当の肉だけを取り出す・・・なんて、巧妙な技・・・てか、こんな事を考えるなら他に頭を使えよ。
「吉岡の野郎、メシの恨みは消えないぞ・・・」
仕方ねー時間もねえし、とりあえず、残っている焼き肉のたれを米に掛けて食うか。
くっそー、なんで、俺がこんな質素なメシを食わなくちゃいけないんだ。
午後の授業が終わったら、絶対に問い詰めてやる。