プロローグ
~プロローグ~
親父は顔を赤らめ、リビングのテーブルを叩いた、家中に親父の怒鳴り声が響いている。
「ダメ、ダメだ!そ、そんなデタラメ、絶対に許さないからな!」
普段は温厚な親父がこんなに怒るとは予想外の展開だ。
「教育学部以外を受験するなんて、絶対、絶対に認めないぞ!」
まったく、自分の思う通りにならないと気が済まない、頑固な性格だからこの親父は始末が悪い。
今更、言うまでもないと思うが、親父が怒っているのは、俺の大学の進路の事なのだが、俺が教育学部を受験しなのが、気に入らないようだ。
なぜか?って。
そりゃ、親父自身が高校の社会科教員だからじゃないか?ちなみに、専門は日本史だ。
それで、親父の怒りはまだ収まらないようだ。おっと、また、雷が落ちた。
「お前は、経済学部なんて行って、何になるつもりだ、まさか、お前、下らん、評論家なんぞになるつもりじゃなかろうな!」
下らん評論家って、あれも、なるには大変だと思うのだが。
「いや、いや、だから、教職課程を専攻すれば・・別に教員にならないとは言ってないでしょ、親父さぁ」
俺の説得は無駄だったようだ、親父の顔を見ればわかる。
「だったら、教育学部を受験しろっ!」
もっとも、特別な理由もなく、経済学部を受験しようとしている俺には、説得力に欠けると言うことは克明だった。
なにしろ、親父は教育学部だけが教員への道だと思い込んでいる、それを説得するのは並大抵じゃない、しかし、ここで、神の一声があるとは、俺も予想していなかった。
そう、さっきから台所でまるで他人事のように鼻歌交じりに食器を洗っていた母親だ。
「おとうさん~、別に教育学部じゃなくても、いいんじゃなの~教育学部なんてつまらないわよ~」
母親のその神の一声で、親父は突然、意気消沈とばかりに黙り込んだ。
この母親が親父と正反対で楽天家というか天然なのか、いつもとぼけた事を言っているが、今日は、珍しくまともな事を言ってくれた。
「マーくんの好きなようにさせてあげないさいよ」
「母さんがそう言うなら、まぁ、お前の好きにすればいい」
今まで、怒鳴り散らし、俺の言う事なんて耳も貸そうとしない頑固な親父が、母親のこの一言に簡単に折れというのは一体なぜなのだろうか、世界七不思議の一つに入れてもらいたいものだ。
親父は、一気にトーンダウンして席を立ち、自分の部屋に行ってしまった。
親父はなぜかこの脳天気な母親の言うことには逆らえないのか、この頑固な親父がいとも簡単に折れる、かといって、かかあ天下という訳ではない、親父は何か弱みでも握られているのだろうか。
「鶴の一声」と、ことわざにあるが、まさに、母の一声で、呆気なくこの事態は収束した。