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01 わらえれば(2)

     3


 ……そんなこんなで、何があったもなにも、単に王様ゲームで僕に命令が下った、それだけの話である。


 そう、特に変わった話ではない。

 少し独白させてもらうと、概要はこうだ。

 珍しく陽射しの強かった春のとある土曜日。5人いる役員のうち4人だけで行った生徒会の仕事が珍しくかなり早く終わり、副会長その1である匠(バカな同級生)と副会長その2である友香(アホな後輩)が悪ノリして、海に行こうと言い出したのがそもそもの事の発端である。

 僕にとっては今回不都合なことに、うちの学校は海が近い。自転車で五分とかからない位だ。そのせいか、あれよという間に話はまとまってしまっていた。

 まあ、書記である朱音も反対せず、僕も賛成多数の状況に押されて強く反対しなかったから、あまりとやかくは言えないのだけれど。

 せめてもう一人、ここに生徒会の良心である会計の彼女がいれば話はまた変わってきたのだろうが、残念ながら今日は不在だ。

 ちなみに遊びに行く前に匠が一応電話したのだが、


 『はあ? 海に行く? 馬鹿じゃないの? それとも馬鹿なのかしら? 馬鹿なのよね、馬鹿だもの』

 『お前今何回馬鹿って言った?』

 『4回よ、馬鹿にしないで』

 『なんか新しい口癖みたいになってるぜ?』

 『私は行かないわ。今日は用事があるし、それに、結果が目に見えてるもの。今ここで宣言するわ、貴方たちは全員──……』


 とまあ、かなり罵倒された上にあまり細部まで思い出したくない予言を残して、にべも無く断られたらしい。まあそれでも匠は「用事がなかったら来てくれそうだった」とかなぜか少し嬉しそうに言っていたが。

 結局しっかりと計画を立てて平日のうちに業務を終了していた彼女は、休日に学校に出てきて仕事かつアホな提案に巻き込まれて海に突貫、なんて事態には陥らない訳だ。まさに生徒会役員の鑑である、見習いたい、主に後者。……というか僕たちがダメすぎるんだろうか?

 友香あたりは仕事は出来るのだが、次期会長としての自覚からか手伝いに来ているのだから比較的そちらに近いのだが、いかんせん最近悪ノリが多い。まあ、入学当初のノリが悪いこと山の如しだった時分に比べれば、こちらのほうがはるかにマシなのだが。


 しかし……海に行くのは百歩譲っていいが、ここまで用意周到だとなんだか遠い目をしたくなってくる。

 なぜか(僕はお目付け役である会計がいないこの期を狙って、最初から計画されていたのではないかと疑っている)、生徒会室に隠すように置いてあった炭火焼セットと海用具一式を僕たち男子組が発掘し、友香と朱音の女子組が必要物資の買い出しに行っている間にチャリに搭載。買い出し組が戻ってくると同時に全ての準備が完了した。

 この時点で時刻は十一時ジャスト。向こうについて諸々セッティング完了した直後に昼飯を食べるというタイミングまでベストだった。

 『うん? いや、偶然じゃね?』

 これは、『これ、もうテメエ計画犯だろ』と問い詰めた時の副会長その一の反応。ちなみに目はバタフライで泳いでいた。……なんとも気の早いことである。

 んで、何かゲームをしようということになり、割り箸を利用した王様ゲームに落ち着いたわけで。


 いやあ、あの頃はまさかこんなことにな(ガシッ)るとは思わなかった──……ガシッ?

 「悠、テメエ、いつまでも逃げられると思ってんじゃねえぞ?」

 「しまっ──!」

 回想なんかしてる場合じゃない。ヤバイ、この連中相手に気を緩めるということは死と同義だということを忘れていた。なんというかこう、精神的な意味での。

 「さあ、やれ友香! コイツは俺が拘束しておく。どれだけ暴れても、どれだけ痙攣しても、泡とか血吹いて白目むいてもも固定するから! あとやばかったら埋めるか沈める」

 「待て、なんかいくつか致死性の単語が混ざってる!」

 あと怖いから死体処理の方法を付け加えるな。

 「ふっふっふ、仕方ないですねえ、先輩。そんなに私にあーんして欲しいならそう言ってくれればいいのに」

 「お前そんなキャラだったか? てかおい待て、その謎の磯の生物X丸ごと行く気か? 一口とかそういう感じじゃなくて、丸ごと押し込む気なのか?」

 「やだなあ、先輩、流石の私もソコマデシマセンヨウー」

 「っつ! 絶対嘘だ!?」

 駄目だ。こいつ台詞の棒読みの上完全に目が据わってやがる。ホント春になると変質者が増えるよなあ!?

 ヤバイ、これはマジで命が──。

 ていうかあれだ、さっきの回想ってあれ実は走馬灯だったのか!?

 「はい、あーんしましょうね先輩、あーん」

 「止めろ、それを僕に近づけるな、え、ちょっとそれどうなってるの? なんかプシューとか音立ててめっちゃ縮んだり膨らんだり繰り返してるんだけど! ま、待って、ちょっと待て、せめて一口サイズにカットしてか──(ガチッ)むご!」

 「無駄なあがきだっつてんだろ?」

 がっちりと下あごを掴まれて強制的に口を限界まで開かせられ、ついでに抵抗の言葉すら封印させられる。最後の手段として、脇で無言で見ていた朱音に目で助けを求めてみるも、頭に疑問符を浮かべて首を傾げられた。うんあいつ絶対解かってて助ける気ないな。

 「っ──!」

 「涙目でふるふる震えても駄目ですよ、今日の私は絶対王政です」

 ガチッと下あごを開いたまま固定された僕に段々と近づいてくる毒物(推定)と日本語間違ってるバカな後輩(断定)の笑顔。ああ、駄目だこれ、僕は今日ここで散ります。

 「……じゃあな悠。──今まで、楽しかったぜ」

 背後から僕を羽交い絞めにしたまま耳元でそんなセリフを沈んだトーンで言う匠。

 いや、意味ないから。そんな無駄で直球な死亡フラグいらない──

 「えい」

 から、な? 

 「ぐあぅ う…………? !? っ────!」

 認識→咀嚼→脳幹部まで毒到達。

 口の中に広がるむにゅむにゅとコリコリ、そして時々ゴリゴリの同居した訳のわからない食感ともう果たしてすっぱしょっぱ苦いという最早何だかわからない単なる舌への暴力と化した味、そしてほのかな潮の香りがアクセントになって──これは、味のフランス革命やあ(悪い意味で)。

 そんな、どうでもいいコメントを考えてしまうほどに混濁した脳に毒が到達して、段々と薄れる意識の中、声にならない絶叫を上げて倒れるまでのコンマ数秒間に僕の目と耳が感知したのは、副会長コンビの笑い転げる姿と、

 「生殺与奪で、いいのかな? この場合」

 そんな、非常に非情な幼馴染の素朴な疑問だったとさ。まる。


 ガクリ。


はい、主人公第2編の2話にて死すの巻でした。

磯の生物とか、たまに本当に危険なのがありますので、真似しないでくださいね。


ではでは、また。


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