01 わらえれば(1)
連作短編第2編目の第1話です。
今回は(も?)コメディー時々青春短編となっております。
それぞれの短編単独でもお読みいただける仕様になっております。ここから読む、という方もお気軽にどうぞ。
楽しんでいただければ幸いです。
0
アナタはイマ、笑えていますか?
アナタはナゼ、笑えていますか?
ソレを考えたことは、ありますか?
1
「ひゃっほおおおおーい!」
と、そんなこの世のものとは思えない、ついでに理性ある人間が発したものとも考えたくない雄叫びを上げて全力疾走ののち結構な高さからジャンプとかいう、もはや理解しがたいという状態すら通り越した行動を僕自身が実行している、その、ほんの少しだけ前。
僕は──人生最大の勝負に臨んでいた。
2
「なあ、これ、ホントに大丈夫なんだろうな……」
季節は春、5月某日のことである。
場所は砂浜、波打ち際から3メートル。春の静かな海がそれでも波の音を絶え間なくこちらに向かって飛ばしてきている。
空に輝く、入学式のころより若干火力を取り戻してここぞとばかりにワイシャツ越しに軽く肌をあぶってくる春の太陽と、ぱちぱちと時折爆ぜながら燃える炭の音の中。
僕は、その物体と対峙していた。
「大丈夫大丈夫。ほら、あれだぞ、採りたてだぞ?」
「火も通してある、から。死にはしない、と思う」
仲間たちは口々にそう言い、僕にそれを摂取することを促してくる。
「そうですよ理由先輩、どーんと食べちゃってください」
後輩までそんなことを言って、口調とは裏腹な不器用な笑顔とジェスチャー付で僕の背中を後押す。
というか物理でぐいぐい網の上で焼けているそれに近づけようとしてくる。
「いや、そういう問題じゃなくてだ。これは火を通したぐらいで食えるようになるモノなのか、ということをだな……」
なにせ、黒いブヨブヨメインに、白い硬質がそれを覆っている、長さ十センチ、直径五センチの謎の物体である。ほらあれだ、見るからに磯の生物って感じ。
「あー、ったく、つべこべうるせーな。さっさと食えよ、悠。一体なんの為の炭火だと思ってんだ?」
「一応聞くが、匠……なんの為だよ」
「うん? 無毒化」
「やっぱ毒あるんじゃねーか!」
「ふう……。冗談だよ」
「なあそのやれやれ、みたいなジェスチャー止めてくれないか……心、折れそうだ」
「「「……ふう」」」
「三人同時か!」
僕の心は折れるどころかもう粉々である。再起不能、精神的に。
ていうかお前らこういう時だけ息ぴったりだよな! そんなに僕をいじめるのが楽しいか!?
「もういっそ、肉体的にも再起不能、とか?」
「おいこら、朱音。怖いこと言うな。あと幼馴染だからってサラッと心読むな」
「ねえ、先輩?」
「……なんだ、後輩」
そして、そんな北欧あたりにいそうなカバっぽいあの生物を呼ぶときのニュアンスで僕を呼ぶな。うんまあ、ご要望にお答えしてそっち向いてやるけどさ。
「別に私としては毒があっても無くても先輩がダメージを受ければそれで満足なんですけれどね……」
「うん今お前さらっと酷いこと言ってるからな?」
「肉体的でも精神的でもなんでもいいですし、欲を言うなら両方セットで、さらに神経系あたりにダメージを負うと、その朴念仁な性格が改善されるかもしれないからいいかも、とか思ってるんですけど」
「なぜより細かくエグイ希望を提示した!?」
翔講館生徒会ニュース速報。会長たる僕のささやかな抵抗は副会長である後輩に完全スルーされた模様です。
友香は続ける。
「でも、一つだけ言わせて貰うなら」
「言わせてもらうなら……なんだよ?」
「──ごちゃごちゃ言うのもいい加減にしやがってくださいね?」
ニッコリ笑顔と裏腹に実にドスの効いた声だった。そして、光のない瞳が僕を映している。
「怖いな!? そしてなんだ、お前ホントに僕の後輩か?」
なんだ。この十五分足らずの間で僕たちの間に何があった?
「いいんですよ先輩。だって──勝ったのは私ですから」
自身に満ちた声と表情で、友香はそんな言葉を口にする。
そう、彼女は勝利したのだ。
勝利した者は、あらゆる条件の下その権力の絶対を許される。
普段先輩と後輩の間柄、会長と副会長の関係だろうがなんだろうが、そんなものは関係ない。
勝者は敗者の上に立つ。
なぜなら──
「「「王様の言うことは──絶対」」」
それが、王様ゲームのルールだからである。